第七話~悠樹の優しさ~
「無理!!!!!」
私は、バッと跳ね上がり、体育館の中、叫んだ。
みんなが、アハハッと笑った。
「たったの腹筋100回だぞ?」
悠斗が、余裕そうに言う。
その態度に、私は、少し腹が立つ。
「アタシ、一応、女の子なんですけど…」
アタシが、体操服で、顔の汗を拭くと、
「あの…里香ちゃん。このタオル使ってください」
タオルを渡してくれたのは、鈴木麗子ちゃん。
大人しくて、タレ目な、可愛い女の子。
一応、演劇部の副部長をしている。
「ありがとう!麗子ちゃん!」
私が、ありがたく、タオルを受け取ると、
「腹筋しない事には、大きな声出ないぞ」
悠斗は、偉そうに口を叩く。
「悠斗って何気に、イベント好きなんだね」
悠斗は、目を見開く。
「…悪いか?」
「ううん。イベント好きな人って良いと思うよ!」
私が笑顔で言うと、
周りにいた、ダルそうに腹筋をしていた男子が、いきなり張り切って、腹筋し始めた。
「え、あ。」
悠斗は呆れた顔で、こちらを見た。
「俺、演劇の服見に行くけど、お前も行くか?」
「え!?もういいの!?行く!」
私が、ステージを降りると、麗子ちゃんが駆け寄ってきた。
「あの…これ台本です。不思議の国のアリスだけじゃ、あれなので、少しオリジナルストーリーも混ぜてみました」
「おおっ!!」
私が、悠斗を手招くと、悠斗も興味津々に読み出した。
「ん、ナイスじゃん!鈴木!」
「い…いえ…。服装、良いの選んできてください」
麗子ちゃんは、少し顔を赤くして、言った。
「うん!」
私は。悠斗の手を引いて、演劇部の部室に向かった。
「あの2人付き合ってんのかな?」
体育館で腹筋していた男子がつぶやいた。
「いつも一緒にいるし、仲良いよな」
「えー。でもじゃあ、悠樹とか蓮さんは?」
「幼馴染だろ?流石、可愛い奴には、かっこいい奴が集まってくるよな」
男子全員でうなずいた。
「里香って可愛いし、優しいし、爽やかな感じだし皆から好かれてるタイプだもんなー。珍しい美人だよ。」
「俺、実際狙ってるけどー、悠斗とかには、勝てないしなー」
「だよなー」
そんな会話を、鈴木麗子は、ジッと見ていた。
「うわー、ギッシリだね。」
私の目の前には、ドレスやら征服やら着ぐるみやらが、クローゼットにあった。
「色々選べそうだな」
悠斗は、楽しそうに、服選びをする。
私は、フッと思い出し笑いをした。
「遊園地の事思い出すなぁ」
「遊園地?」
「うん。悠樹とお化け屋敷行ったり、なんか変なイベントに参加してみたり…」
「兄さんと2人で!?」
「いや、蓮と由紀とアタシと悠樹で行ったんだ。」
「何で、そんなメンバーで?」
これ以上、言ったらややこしくなりそう。
「いや、色々とね」
「フーン」
不貞腐れてる…?
何か、悠斗には色々と惑わされるな。
「あ、これ、アリスにピッタリじゃない!?」
私は、ハンガーを外し、悠斗に見せた。
水色と白のエプロンみたいなかわいらしい服。
これにボーダーのオーバーニー履いたら、良さそう…。
「着てみろよ」
「うん」
私は、女子更衣室に入り、着替えた。
鏡を見ると、まるで本当にアリスのように思えた。
「どう…?」
悠斗は、口を開けたままこちらを見た。
「…いい」
「え?」
「可愛い…」
「!?」
悠斗が、思いがけない言葉を発すから、私は、驚いてしまった。
でも、私は、嬉しくなかった。
何故か、悲しく思えた。
こんなに、私は、悠斗にはまりこんで良いのだろうか。
少し距離を縮めすぎじゃ?
私は、少し、悠斗に魅入っていく自分が怖くて。
だって、もしも私が、一人の人を愛す事になったら、きっと、悠樹とも蓮とも一緒いられなくなる。
「あのさ悠斗。」
「え?」
「悠斗は、恋愛ってどう思う?」
「何だよ。イキナリ…」
悠斗は、一気に顔が赤くなる。
「あのね。アタシ、恋愛っていう感情は知りたくないんだ」
「ハ?」
悠斗は、あからさまに意味の分からないという顔をする。
「だって。一人の人に愛情をすべて注いだら、他の人が離れていくじゃない?」
「何だそれ。一人に搾るから、その人を一番愛せるんだろ?」
「アタシには分からないよ…一人を愛すなんて」
私は、明るいアリスの服に対して、寂しい気持ちでいた。
やっぱり、私って変わってるのかな。
一人を愛して、もしも、他の人が離れていったら…
「どうしたんだよ。里香」
いつの間にか、私の頬は涙で濡れていた。
「だって、だって…美香は…」
「美香?誰?」
「あ、もう、6時だよ。悠斗、帰りなよ。アタシ、もうちょっと練習するから」
「え、俺も…」
「一人にしてほしいの」
私は、下に俯き呟いた。
「分かった」
悠斗は、選んだ服を持ったまま、部屋を出て行った。
静かな空気。
私は、ひとりでに、立ち竦んだ。
涙が止まらない。
悠斗は、何も悪くないのに。
勝手な事言っちゃったな。
美香…。
私の姉。
美香は、もう、この世にはいない。
だって…私のせいで死んでいったのだから。
いつの間にか、辺りは暗くなっていた。
誰も校舎内にはいなかった。
「こわ…い…」
広い廊下に私の足音が響く。
不気味だ。
廊下の電気ってどこでつけるの?
私は、分からずにとりあえず手探りで自分の教室へ向かった。
「ハァ…ハァ…」
あまりの怖さに息が途切れる。
私は、教室の電気をつけた。
「誰か…」
一人で、あんなところで、考え事するんじゃなかった。
一人にしてなんて言うんじゃなかった。
頭の中には、ひたすら後悔が流れていく。
ガラッ
教室の扉がゆっくりと開いた。
「誰!?」
私は、竦んだ足をゆっくりと立ち上がらせた。
そこには、見慣れた姿がいた。
「悠樹…」
私は、悠樹の胸へ飛び込んでいった。
「あれ、電気付いてると思ったら里香か。何で、こんな時間に一人で…」
私は、こんな風になった理由をすべて話した。
「ハハッ、なるほどな。バカだろ?」
「本当、バカみたい。なんか、最近よく感情的になりすぎて…」
すると、悠樹は、優しく私を抱き寄せた。
「美香さんの事、今でも、そんな風に考えてたの?」
「…」
「里香はさー、鈍感すぎるだろ。そんなに、恋人作りたくないなら、優しくしなかったらいいじゃん。」
「でも、嫌われるのは怖い」
悠樹は、悲しそうに微笑んだ。
「とことん罪作りな女だよな」
「え…」
すると、悠樹は、私の前髪を上げて、優しく額にキスをした。
「ひゃっ…」
「これぐらい良いだろ?俺、里香が、他の男を好きになるのが怖いよ」
「アタシは誰も好きになんてならないよ…」
「そうだよな。里香は、俺に心をくれたことは一度もないもんな」
「え!?でも、アタシ、悠樹の事、本気で好きだよ?あ、友達としてだけど…」
「これだけ、お前に愛情注いでるのに、お前は、俺を好きになんてならないんだもんな。他の女なら、こんな事しなくてもホイホイ寄ってくるのに」
悠樹が、悲しそうな目でこちらを見る。
「悠樹…?」
悠樹は、眉間にシワを寄せて、さらに私をキツく抱きしめた。
「好きだよ…里香」
私は、耳を疑った。
好き…。悠樹から初めて言われた。
悠樹は私を…?
「ま、今は、これ以上の関係を求めないよ。」
悠樹は、私の体を離して、私の首筋にキスをした。
「俺に告白させた罰だ」
「え!?ちょっ、キスマークが…っ」
「じゃ、帰るぞ。一人で帰れないんだろ?怖くて」
ムッ…。余裕たっぷりの表情を浮かべる悠樹が憎たらしく思えた。
いつも私の前を歩いてる悠樹は、安心できる場所だったのに、少し、他の意味がある場所になっていく気がした。