第五話~変な人だけど優しい人~
「今日から、転入生がこのクラスに入ります」
先生が、いきなりの報告。
クラスはざわつく。
「誰だろ…こんな中途半端な時期に。」
教室のドアが開き、男子生徒が入ってきた。
男子…?
「和泉悠斗です。よろしく」
冷たい目。金髪。乱れた制服。整いすぎてる顔。低い声。
「えーっと、あ、里香ちゃんの隣が空いてるわね。そこに座って」
「はい」
和泉君に、私は少しお辞儀した。
しかし、無視して、席に座る。
少し、睨まれた気がした。
一時間目の授業が終わり、私は、和泉君に、
「よろしくね」
と一言言った。
「喋りかけるな」
そういって、和泉君は立ち上がり、教室を出た。
…。
アタシ嫌われてる!?
「里香~」
由紀が、いつも通りの明るい声で喋りかけてきた。
「あ、由紀」
「えへへ。そう、気まずそうな顔しないでよ!!結果、蓮くんから聞いた?」
「え、まあ、うん」
「そっかぁ。ありがとうね!応援してくれて」
「そんな…」
由紀は、きっとすごく辛いんだろうな。
「由紀、開き直って次、頑張ってね!いつでも応援するから!」
「当然じゃあん!里香も彼氏作りなよ!応援するから!」
「ありがと!」
やっぱり、友情だよね。
嬉しいよ。こんな友達がいて。
それにしても…今度は、転入生にそっけない態度取られるし…。
でも、冷たい態度取られるのって、あたし、一番嫌なんだよね!
仲良くなるように頑張ろう!
4時間目の授業が終わり、私は、すぐに和泉君に喋りかけた。
「一緒に、お昼食べよ?」
和泉君は、露骨に嫌な顔をして、
「はぁ?」
と言った。
「ね?この学校、屋上とかもなかなか良いよ!」
「変な女だな。」
「え?」
「良いぞ。屋上で食べる」
「ホント!?」
なんか、幸先いいぞ♪
「どう?結構綺麗でしょ」
「だな」
購買部で買ってきたパンを私は、和泉君に渡した。
「はい。焼きそばパンでよかった?和泉くん」
私が、手渡そうとすると、和泉くんは、私の手を引っ張り、私は和泉君の足に乗っかった。
「え、ちょ!!」
「で?お前、何が目的?」
「へ?」
「だから、俺の体か?金か?ま、俺は顔だけで金とか持ってねーがな」
意味の分からない言葉を発する和泉君が虚しく思えた。
「何言ってるの?」
「俺を誘うなんておかしいだろ。あんなに、嫌な態度取ってるのに。他の女なら、逃げていく」
「あたしだけじゃないの?あんな態度取ってるの」
「ん?まあ俺、人に優しくするとか苦手だし。自覚はある」
「なんだ~!あたし嫌われてるのかと思ってた」
「は?なら、何で、俺に近づく…」
私は、自分の手を和泉君の頬に寄せた。
「私の幼馴染と似てる。蓮って言うんだけど、最初会ったとき、すごく冷たくてさ。でも、すぐに仲良くなったんだ。アタシ、人から冷たくされるのって、すごい嫌なの。だから笑って」
「ふっまったく変な女だな」
「あ、笑った!かっこいいじゃん!ツンってしてるより笑ったほうがカッコイイよ!」
「な…うるせー」
和泉君は、少し赤くなって、目を逸らした。
「お前、名前は?」
「中嶋里香だよ」
「よし、里香!俺の事は悠斗って呼べよ」
「うん!」
「顔もまあまあだし、スタイルもまあまあだな。気に入った」
「それ褒めてるの!?」
「褒めてんだよ。」
悠斗の笑う顔はとても眩しくて。
やっぱり、お昼誘って良かったな。
悠斗は、私の腰を持ち、足から降ろした。
「さ、焼きそばパン食う」
「私は、お弁当だけどね」
「お前の手作り?」
「うん…まあ。最近、やっと慣れてきてさ。前までは、ありえない程グチャグチャだったんだけど。」
「ちょっとちょうだいよ」
そう言って、悠斗は、サッと卵焼きを取り、口に入れた。
「ちょっ、だめ…」
「うおっ、すげー不気味な味…ぶふっ」
「もう笑わないで!!!」
「冗談。おいしいよ。ちょっと砂糖が多い気がするけど…」
「しょうがないじゃん。アタシ、甘党なんだもん」
「うん。甘党って顔してる」
悠斗のイタズラっぽい顔は、とても愛らしくて、
こっちまで、微笑ましくなる。
すると、悠斗がいきなり、アッ!と声を出した。
「ん?」
「そーいえばさ。伏見悠樹って知ってる?」
いきなり悠樹の名前が出てきて、私は驚く。
「知ってるも何も、幼馴染だし、隣の家だよ」
「え!?まぢ!?じゃあ、俺もお前んちの隣だな」
「え?」
悠斗は、少しニヤッと怪しい笑みをこぼして、
「俺、悠樹の双子の弟なんだ」
私は、悠斗の顔をジーッと見る。
そういえば、眉毛の形とか、目の色とか、顔立ちが似てるかも…。
「双子の弟がいたなんて聞いたことないよ!」
「ま、生き別れの弟だしなー」
悠斗は軽く残酷な事を口にした。
生き別れ…?
どういう事?
「悠樹の家が複雑なのは知ってたけど、生き別れの弟なんて…」
「俺たちが、産まれる事を、俺の親父が反対してたんだ。最初はな。だけど母さんは産んだ。みんなからの反対を押し切って」
「お母さん、すごく良い人だしね…」
「だろ?で、親父は、しょうがなく、俺だけを引き取ったんだ。親父は、最低な奴だったよ。女と遊んでばっかで、お金もないし。だから、俺は、大体祖母の家にいた。けど、親父が、アル中で死んだんだ」
「亡くなられたの!?」
私は、悠斗の、残酷な現実に心が押しつぶされそうな気持ちになった。
「うん。で、俺は、母さんとか悠樹と会いたかったし。ココに戻ってきた。今は、悠樹んちにいるよ。」
「悠樹からそんな事一言も…」
「俺が言うなって言ったからな。アイツと俺、性格とか全然違うし。アイツのイメージが悪くなったら、嫌だしな。」
「何でそうなるの!?悠斗、すごく良い奴じゃん!!」
悠斗は、私の頬を手で撫でた。
「ありがと。」
泣きそうになった。
悠斗は、すごく切ない顔でこっちを見る。
抱き締めたいな。
「悠斗。。。」
「大丈夫だっつの!俺、強いしさー!腕比べすっか?」
「もう…。よしっ、悠斗、携番交換しよ!メルアドも」
「良いのか?」
「何で?友達でしょ!あたしたち」
「俺、あんま友達とか馴染みないんだけどな。大体女遊びとかの関係しか」
「はぁ…。バカでしょ。女遊びなんかダメだよ。一人の人に対して恋してみなよ!きっと、自分の心がどれだけ純粋か、分かるよ」
そう。由紀だって。一人の人を愛することは、すごく綺麗で美しいこと。
「…じゃあさ、俺、里香のこと好きになっていい?」
いきなりの告白に私は、唖然と驚く。
私は、口を開けたまま黙り込んでしまった。
なんて言えば良いの?
すると、悠斗は、私を抱き寄せた。
「俺にこんなに優しくしてくれるのは里香だけだよ。」
そういって、顔を近づけてきた。
「ちょっ…まっ…イヤ…」
私は、がんばって、体を離させようとするけど、力が及ばない。
もう、キスされる!!!!!というところで、バンッと扉が勢いよく開く音がする。
「何してんだ!悠斗!」
これは…
「兄さん。いやー、もっと空気よめよー」
すると、悠樹は思いっきり悠斗の頭に拳骨をした。
「痛っ!!!」
「え…悠樹やめ…」
私は、あわてて、止めようとすると、悠樹が、ハァとため息をついた。
「まったく。お前の女遊びに里香まで突っ込むなよな。一緒に、里香と昼飯食おうと思って、教室に行ったらいないし。由紀ちゃんにどこにいるか聞いたら、悠斗と里香が屋上にいるって言われるし。んで、来たら、キスしようとしてるし。」
「アハハ」
悠斗は、困ったように笑った。
「もう、私、教室戻るから!!!」
私はそういって、赤くなった顔を隠しながら、屋上を出た。
すごい…心臓がバクバク言ってる。
悠斗君のさびしそうな顔が頭から離れない。
私は、悠斗くんに告白されたのか?
考えても考えても悠斗くんが私を好きなのを納得できなくて、
考えるのを止めた。
「もう、どーでもいっか」
私はそういって、歩き出した。




