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君といた時間   作者: 紀美野 るい
1章~初めての恋~
10/11

第十話~空虚の中で~


あの日から。


1週間。


この間、蓮にも悠樹にも目を逸らされ、一言も喋っていない。


登校も下校も、一緒じゃない。


すれ違っても、目も合わさずに素通り。


私の隣はいつの間にか、一人の人だけのものになっていた。


私の隣は、悠斗だけ。


悠斗だけ…――。




「里香ー?」


誰かの手が、私の目の前で振られている。


バッと我に戻り、後ろを振り返る。


「由紀…」


「次、体育だよ?」


「あ、あぁ。そっか」


私は、自分の痛む頭を抑えながら、立ち上がった。


「大丈夫?何か、最近調子悪そうだね。顔色悪いし」


「そんなことないよ…」


心配そうに私の顔を覗きこみ、溜息をついた。


「あの、聞いちゃダメかもしれないけど。最近、蓮くんと悠樹くんと全然一緒にいるところ見ないんだけど?登校も別々みたいだし」


さすが、由紀だ。鋭い。


私は、少し頷いてみせる。


「私、欲張りなんだ」


由紀は、その言葉に首を傾げた。


私は、笑顔を見せて、由紀の背中を押す。


「私は大丈夫だからっっ!いこっ」


最近、頭が少し痛むのは、寝不足のせいだ。


あの日からよく見るようになった夢。




映像がフッと浮かんでくる。


『何で、里香ばっかり…!!!私、こんな家出て行ってやるから!!!』


金髪の私のお姉ちゃんが、泣き喚きながら叫ぶ。


『出て行け!!!このろくでなしの娘が!!』


お父さんは、持っていたコーヒーの入ったマグカップを乱暴に机に置く。


お母さんも必死にお父さんを止める。


『お父さん…!!止めて!!私、お姉ちゃんいなくなるの嫌だよおお』


私は、お父さんにすがりつく。


だけど、お父さんは私の頭を優しく包み込む。


その優しさが、辛くて。


そして、お姉ちゃんの態度もさらに悪くなっていく。


『いつも、里香里香ってうるさいのよ!!そりゃあ、里香は、私よりも可愛いよね?そんなの分かってるわよ!!どうせ、私は道を踏み外した女ですよ!!!』


そう―


お姉ちゃんは、私が生まれたことで狂ってしまった。


お母さんとお父さんは、いつも私の事に必死で。


お姉ちゃんはいつも陰で私を見ていた。


でも、私はお姉ちゃんが大好きだった。


優しいし、かわいいし。


いつの間にか、お姉ちゃんは、髪を染めて、私と全然遊んでくれなくなった。


そして、こんな風に荒れた家族になってしまった。


『私が、テストで良い点数取ったって、お父さんは何も言ってくれない!!!!里香の方ばっか行くじゃん!!!もう、私出て行くから…!!!』


お姉ちゃんは、そういい捨てて、玄関を出て行く。


顔には、涙がいっぱいでぐちゃぐちゃになってて。


私も、涙が止まらなくて、


すると、起こったんだ。


事故が。


私が家の前で見たお姉ちゃんの姿は無惨で。


血が、周辺に飛び散って。


車のタイヤは赤いタイヤになっていた。


内臓がえぐれて。


3m先ほどにいたお姉ちゃんは、目に光が無くて、涙だけが流れ落ちてた。


『い…いや…お姉ちゃん…?イヤァァァァァァァァァァァァァァァァ』


まだ3歳だった私には、今何が起こっているかよく分からなくて、


ただ泣いて


喚いて


叫んで


項垂れて


駆け回って


何とも言えない絶望感に心を押され、


私は、これは自分のせいだと追い詰めた。


今でも、あの残像が頭に浮かぶ。








あのころ知った、人を大切にするということは、


一人に愛を注ぎ込まない。ということ。


今、思うと、今私がやっている事が、全て悪いことに思えてくる。


いたっ…


いきなり頭に激痛が走る。


「うっ…」


「里香!?」


由紀が駆け寄ってくる。


私は、頭を抱えて、沈み込む。


慌てて、同じ体育館にいた悠斗も駆け寄ってくる。


「おいっ里香!?大丈夫か?」


「ゆ、悠斗君っ保健室に連れて行ってあげて!!」


悠斗は頷いて、私を抱え込む。


お姫様ごっこ状態になった私は、ただ、うっと呻いていた。



途中で、私は気を失った。









喋り声が聞こえる。



『付き合ってるの?』


これは由紀の声…?


『ま、まあ。』


悠斗の声も聞こえる。


『なるほどね…だから様子がおかしかったんだ』


『は?』


『まあ、そこは彼氏として頑張ってよ』


私は重い目を少しずつ開けていく。



そこには、既に悠斗しかいなかった。


悠斗は、優しく私の額に手を乗せる。


「寝てる間、ずっとうなってたぞ?」


「最近、寝不足でさ…ごめんね」


「何で謝るんだよっ。辛いことがあるなら、言えよ」


悠斗は、優しく微笑んで、私の頬にキスをした。


「悠斗。聞いて欲しいの」


「え?」


「私のお姉ちゃん。美香の話。」


悠斗は小さく頷いてくれた。


真剣に、私の話を全て聞いてくれた。


お姉ちゃんの好きなところ…


お姉ちゃんがお父さんと喧嘩ばっかりしていたこと…


間違った方向に行ってしまった事…


事故にあった事…


全て話し終えて、私は微笑んだ。


「だから、1人を愛する人って決め付けるのは、私は怖い」


「うん」


「でもね、悠斗も好きだよ。もちろん、蓮も悠樹も皆…好きなんだ」


「分かってる」


「でも、私が一人を選ぶ事で、誰かが傷つくって言うなら、私は誰も好きにならない」


悠斗は黙ってしまった。


そして、私の目尻を指で拭った。


「誰も好きにならないって言って、何で泣いてるの…?」


私は、いつの間にか、涙を浮かべていたのか。


「何でだろ…何か…辛いよ…?寂しい…よ…蓮と悠樹が…いない…」


私は重たい目を閉じる。


一人でもかけたら、私は、何とも言えない切なさがこみ上げてくる。


蓮も悠樹も悠斗も皆大好きなんだよ。


悠斗は、切なげな微笑みを浮かべて、呟いた。


「距離…置こうか。友達に戻ろう」


「うん…」


私は、素直に頷いた。


今の私のままで悠斗とこれからやっていける気がしない。


すると、悠斗は、私の頬に手をつけて、


「最後のキス」


そういって、私の唇に唇を重ねた。


こんな事したら、また戻れなくなっちゃうよ…


でも私は、抵抗する力も無く、ただ受け入れた。


「ばいばい。お大事に」


そういって、保健室を出て行った。


「ぐす…」


去っていく背中が寂しげで。私の頬には目から零れ落ちる水が伝った。


いつもなら輝いて見える悠斗の綺麗な茶色の髪が、暗く思えた。


すると、いきなり、隣のベッドでガタッという音がする。


「!?」


私は、そっと、ベッドを覗く。


すると、そこには。


「蓮…」


ハハッと気まずそうに苦笑する蓮がいた。


「人の別れ話聞くなんて趣味悪い」


私は頬を膨らませて、微笑んで見せた。


「泣いてた奴が言うセリフか?聞こえたんだよ。しょうがない」


「体調悪いの?」


蓮は、少し髪を掻いて


「サボリ」


といった。


「蓮でもサボリなんてするんだ」


「お前こそ、保健室でキスなんてしやがって」


「わ、私は頭が痛かったの」


「え、大丈夫?」


蓮は立ち上がって私の顔を覗きこんだ。


「うん。もう大分ましになった」


「そっか」


久しぶりの会話は、いつもと変わらなくて。


私は、少し元気をもらった。


「ごめん。今まで無視してて」


「ううん。私も、簡単に付き合ったりしたから、余計に傷つけちゃった」


すると、蓮はそっと私の頬に手を乗せた。


「少し妬いてた」


「へ?」


私は呆気ない声を出す。


「まだ、諦めたわけじゃないから」


コツンッと私の額にデコピンをして、いたずらっぽく笑う蓮。


「いった…」


「あ、ごめん。まだ頭痛かった?」


「えへ。大丈夫」


「ビクらせんなよ」


「ごめんごめん」


「じゃ、俺授業戻るわ」


「うん」


私は、手を振り、頼もしい蓮の背中を見ていた。









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