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第三十七話 射抜け、ド真ん中!

 一回戦が終わったあとも、会場のざわめきはなかなか引かなかった。


 雷一発で競技用充電池をフル充電させた夢見が丘高校。

 実況も観客も、そして他校も、あれをどう受け止めていいのかまだ決めかねているようだった。技巧を競うように見えた競技で、雅は課題そのものを正面からぶち抜いた。美しさではなく、達成そのものの速度で。


 結果、第一課題一位通過は県立夢見が丘高校。

 二位には、竜巻型内部駆動で圧倒的な技術力を見せた私立清南高校がつけていた。


 ただ、順位表を見つめる新の胸の中には、奇妙な安心はなかった。


「……まだ全然終わってないな」

 新が小さく言うと、

「そりゃそうでしょ」

 純香が即答した。

「たまたま雅の雷が競技に対して最短最速だっただけ」

「“たまたま”ではないだろ」

 雅が不服そうに言う。

「狙ってやった」

「そこはそうだけど」

 彩葉が笑う。

「でも、次も同じノリで勝てるとは限らないってことだよね」

「うん」

 一ノ瀬が静かに頷く。

「清南はたぶん、もうこちらをちゃんと見てくる」


 視線の先、清南の控え区画では、五人がすでに次の準備に入っていた。

 一回戦で二位だったにもかかわらず、動揺している様子はほとんどない。むしろ、静かに熱を増しているように見える。


「感じ悪いくらい落ち着いてるな」

 雅が言う。

「強いチームって、ああいう顔するのよ」

 純香が返した。

「一回負けたくらいで崩れない」

「むしろ次が怖いね」

 彩葉が言う。


 そのとき、実況の声が場内へ響いた。


『さあ、第一課題を終えて現在首位は県立夢見が丘高校! まさかの雷直撃充電で場内を揺らしたダークホース、いや、もはやダークホースでは済まない存在となりました! そして二位通過は私立清南高校! 技術と構成では依然として本命といえるでしょう!』


「ダークホース扱いなんだな」

 新が言う。

「まあ、そうなるでしょ」

 雅が肩をすくめる。

「県立だし」

「そこ言う?」

 彩葉が聞く。

「事実だろ」


 夢見が丘は県立だ。

 設備も資金も、私立の強豪ほど潤沢ではない。だからこそ、清南と並んで名前を呼ばれている今の状況そのものが、もう十分に異例だった。


『それでは続いて、地区予選第二課題の競技内容を発表します!』


 場内の空気が切り替わる。


 大型表示盤へ、新しい競技名が映し出された。


 第二競技

 ダーツ・カウントアップ


 その下にルールが続く。


 制限時間内にダーツを投射し、合計得点を競う。

 通常のカウントアップルールに加え、インナーブルは100点。


「……ダーツ?」

 彩葉が言う。

「急にスポーツみたい」

「いや、普通のスポーツじゃないでしょ」

 新が表示盤を見上げる。

「魔法使用自由だし」

「つまり、どう当てるかを競うんだな」

 雅が言った。

「そうね」

 純香が頷く。

「投擲精度でもいいし、補助魔法でもいい。マジコンらしい」

「インナーブル百点か」

 一ノ瀬が小さく言う。

「なら、ブルに寄せる手段を持った学校が強い」


 その予想は、すぐに現実になった。


     ◇


 準備時間が始まると、各校が一斉にダーツ台の前へ動いた。


 競技区画には、通常よりやや大きな魔法競技用ダーツボードが立てられている。投擲位置は固定。ダーツは競技用に魔法伝導性を持たせた専用品。つまり、ただ投げるだけではない。


 さっそく各校が工夫を始める。


 ある学校は投射ラインの足元へ加速式を書き、ダーツの初速を安定させようとしていた。

 別の学校は風の薄いガイドを作り、ダーツのブレを抑えるつもりらしい。

 さらに、結界で周辺空気の乱れを封じているチームもある。


「なるほど」

 新が言う。

「速度補助、風ガイド、空間安定……」

「どれも正攻法だね」

 一ノ瀬が言った。


 そのとき、またも会場がざわめいた。


 清南だ。


「……また来た」

 彩葉が言う。

「何するの、今度」


 清南は迷いなくダーツ台の前へ結界を展開した。

 まず、ブルを中心にごく薄い空気の流れが集まる。

 次に、その周囲を円筒状の結界で囲う。


「竜巻」

 新が言う。

「しかも今度は、収束型」

「ブルに向かって吸う流れを作ってる」

 純香がすぐに見抜いた。

「その上で外側を結界で囲って、ダーツの軌道を逃がさない」

「うわ」

 彩葉が素直に言う。

「それ、ずるくない?」

「ずるくはない」

 一ノ瀬が静かに答える。

「綺麗に強いだけ」


 実況もすぐに食いつく。


『清南、二回戦でもやはり構成が速い! ブルに収束する微小竜巻、その外周を結界で囲んだ! これはダーツの軌道補正を空間ごとやっている!!』


 開始の合図と同時に、清南の選手が投げる。


 一本目。

 ダーツは投射後にわずかに軌道を変え、そのままブルへ吸い込まれるように刺さった。


 100点。


『いきなり出たァ! インナーブル!!』


 二本目も、三本目も、ほとんど同じだった。


 吸い込まれる。

 修正される。

 刺さる。


『清南、またしても圧倒的! ブル、インナーブル、そしてまたブル! これは強い! いや、強いどころじゃない、完成されている!!』


 表示盤へ得点が跳ね上がる。


「……やばい」

 新が言った。

「これは出遅れる」

「もう出遅れてるわ」

 純香が言う。

「向こうは準備の時点で完成してる」

「どうする?」

 彩葉が見る。

「風で押す? 加速かける?」

「いや」

 新は首を振った。

「それじゃ清南の下位互換になる」


 焦りがあった。


 でも、一回戦で学んだこともある。

 この大会で正攻法をなぞっても、たぶん意味がない。

 必要なのは、課題そのものを別の角度から解き直すことだ。


 新はダーツ台を見た。


 ブル。

 インナーブル。

 得点。

 必要なのは、当てること。


 飛ばす。

 狙う。

 当てる。


 その言葉が頭の中で一瞬つながって、次の瞬間、別の記憶が浮いた。


 ――縦式積層型結界。


 以前、自分が勝手に試して、周囲を驚かせ、雨宮にきっちり叱られたもの。

 結界を縦に重ね、空間をつなぎ、ほとんど距離を消す発想。


「……あ」

 新が言う。


「何?」

 彩葉がすぐに聞く。


「飛ばさなくていい」

「は?」

 雅が眉をひそめる。

「何言ってる」

「いや」

 新はもう頭の中で半分図を書いていた。

「ダーツを真っ直ぐ飛ばすんじゃなくて、飛ぶ空間そのものを端折ればいい」

 純香の目が細くなる。

「……縦式」

「うん」

 新が頷く。

「前にやった、縦型積層結界」

「ちょっと待って」

 彩葉が言う。

「それって、前に怒られたやつ?」

「怒られたやつ」

 新は即答した。

「でも、使えるかもしれない」

「使える、って」

 雅が言う。

「ダーツで?」

「投擲地点から、インナーブルに接するまで、極短距離の転送経路を作る」

 一ノ瀬が静かに言った。

 新がそちらを見る。

 一ノ瀬は、すでに意図を読んでいた。

「座標が合えば、飛翔距離そのものを削れる」

「そう」

 新が一気に続ける。

「完全な必中じゃない。でも、投げる距離をほぼ消せる」

「……面白い」

 雅が口元を上げた。

「だろ」

「かなり危ないけど」

 純香が言った。

「でも競技設備とこの規模なら、いけなくはない」

「やる?」

 彩葉が聞く。

「やる」

 新は答えた。

「今、清南を上回るならこれしかない」


     ◇


 役割は、一瞬で決まった。


「座標は僕が取る」

 一ノ瀬が言う。

「ダーツ台の面と、インナーブルの中心、そこへ微小な補正を入れる」

「結界構築は私」

 純香が続けた。

「縦に重ねる層を二重、いや三重。崩れない範囲で最小化する」

「タイミングはうち?」

 彩葉が聞く。

「お願い」

 新が言う。

「どうしても通す瞬間にわずかなブレが出る。それを読むのは彩葉が一番早い」

「分かった」

 彩葉は真面目な顔で頷いた。


「俺は?」

 雅が言う。


 新は雅を見る。


「出力」

「やっぱそれか」

「結界を一瞬で通すには、押し切る力がいる」

「了解」


「射手は」

 純香が言う。

「私と一ノ瀬で行く」

「うん」

 一ノ瀬も頷いた。

「そこが一番安定する」


 雅がにやりとする。


「なんかいいな」

「何が」

 純香が聞く。

「ちゃんとチームっぽい」

「今さら?」

 彩葉が笑った。


 新は競技区画の床へ、急いで簡易の補助線を書き込む。

 純香がその上から結界の骨組みを置く。

 一ノ瀬が座標を確認し、微調整する。

 彩葉がダーツ台と空間の揺れを見つめる。

 雅が出力を溜める。


 会場の向こうでは、清南が相変わらずブルを重ねていた。

 もうかなりの高得点だ。


『清南、二回戦でも圧巻! これは地区予選一位通過へ再浮上するか!?』


 実況が興奮気味に叫ぶ。


「いい」

 新が言った。

「これで行く」

「投げるわよ」

 純香が静かに言う。

「うん」

 一ノ瀬がダーツを構える。


     ◇


 最初の一本は、会場から見ると少し奇妙だった。


 夢見が丘の五人は、ダーツ台の真正面に立っている。

 なのに投射の前に、足元へ細い縦の結界面が何枚も並んだ。


『おっと、夢見が丘高校、これは――結界? ダーツ競技で結界面を縦に? 何を狙っているんでしょうか!?』


「今じゃない」

 彩葉が言う。

「まだ、少しずれてる」

「うん」

 純香が構えたまま待つ。

「……次」

「雅」

 新が低く言う。

「通す準備」

「了解」


 一ノ瀬の視線は、まっすぐダーツ台を見ていた。

 いや、見ているのはその少し手前かもしれない。

 インナーブルへ“届く先”ではなく、“繋がる座標”を見ている顔だった。


「……今」


 彩葉の声と同時に、雅が魔力を流す。


 縦に重なった結界面が、一瞬だけ連結した。


 純香が放つ。

 一ノ瀬も続けて投げる。


 ダーツは投擲直後、妙に短い軌道しか描かなかった。

 途中で消えたようにさえ見える。


 次の瞬間。


 トン。


 インナーブルへ二本、ほとんど同時に突き立った。


『――は!?』


 実況がまた一瞬止まる。


 表示盤が遅れて反応し、

 100点、100点

が加算される。


『い、今、何が起きた!? 消えた!? いや違う、通した!? 夢見が丘高校、ダーツを空間ごと通したのか!?』


 会場がどよめいた。


 清南の選手たちも、さすがに視線を上げる。


「いける!」

 新が言う。

「もう一回!」

「座標そのまま」

 一ノ瀬が言う。

「ただし、次は少しだけ左へ流れる」

「分かった」

 純香が短く答える。

「修正する」

「その次、少しだけ早い」

 彩葉が言う。

「今の間より半拍前」

「了解」

 雅が出力を調整する。


 五人の声が、ほとんど迷いなくつながっていく。


     ◇


 二射目、三射目。


 今度は観客の目にも、何が起きているか少しだけ見えた。

 縦に立った極薄の結界面。

 そこへ吸い込まれるように消えるダーツ。

 次の瞬間、ダーツ台の中心へ現れ突き立つダーツ。


 百発百中、つまり必中。

 飛翔距離を削り、ブレを限界まで減らしている。


『夢見が丘高校、とんでもない発想だ! 投げる技術ではなく、当たる空間そのものを設計している!!』


 実況の声がひっくり返る。


 四本目。

 五本目。

 またインナーブル。


 清南の竜巻補正も依然として強い。

 前半の大きな得点差もあった。

 だが夢見が丘は、別の次元から点を奪い始めていた。


「すご」

 周囲の高校の誰かが呟くのが聞こえた。


 新はその声を聞きながら、胸の奥が熱くなるのを感じていた。


 以前なら、これは“勝手にやって怒られる危険な実験”だった。

 けれど今は違う。

 チームで、役割を分けて、競技として成立する形へ落とし込んでいる。


「次、行ける」

 一ノ瀬が言う。

「座標、まだ持つ」

「結界も大丈夫」

 純香が続ける。

「ただし長くは持たないわ」

「なら畳みかける」

 雅が笑った。

「得意分野だ」

「今」

 彩葉が言う。


 また一本。

 そしてまた一本。

 また中心。


 表示盤の得点が一気に跳ね上がる。


     ◇


 競技終了の合図が鳴ったとき、会場の空気は完全に変わっていた。


 得点集計。

 大型表示盤。

 静まり返る場内。


 実況も珍しく息を潜めていた。


 そして、結果が出る。


 第一位 県立夢見が丘高校

 第二位 私立清南高校


 会場が揺れるようにどよめいた。


『出たァァァ!! 県立夢見が丘高校、またしても首位通過!! 清南を抑えて地区予選一位!! なんというチームだ、発想も能力も規格外!!』


 彩葉が最初に息を吐いた。


「……やった!」

「やったな」

 新も言う。

「ほんとに」

「うん」

 純香はまだ表示盤を見たままだったが、声だけが少しだけやわらかかった。

「勝ったわね」

「だろ?」

 雅が言う。

「俺ら強いじゃん」

「神代、一回戦のことまだ調子乗ってない?」

 彩葉が笑う。

「乗ってない」

「顔がそうじゃない」

「うるさい」


 一ノ瀬は少しだけ目を細めて、表示盤を見上げていた。


「全国」

 静かに言う。

「行けるね」

「うん」

 新が頷く。

「切符、取った」


 清南の控え区画を見ると、向こうの五人もすでに次を見ている顔だった。悔しさはあるのだろう。でも、崩れてはいない。


 その真ん中で、夢見が丘の五人は、自分たちの表示をもう一度見上げる。


 県立夢見が丘高校。

 地区予選一位通過。


 全国大会への切符を、たしかに手にしたのだ。


     ◇


 競技区画を出るころになっても、実況の興奮はまだ収まっていなかった。


『いやあ、とんでもない地区予選でした! 清南高校の竜巻必中補正も圧巻でしたが、それを上回る形で夢見が丘高校が空間転送型の命中設計を持ち込んだ! 県立夢見が丘高校、これは全国でも間違いなく注目される存在になるでしょう!!』


「注目されたくないなあ」

 新が小さく言う。

「今さらでしょ」

 純香が返した。

「もう無理よ」

「だね」

 彩葉が笑う。

「一回戦の落雷からして無理」

「言い方」

 雅が顔をしかめる。

「でもまあ」

 少しだけ口元を上げる。

「悪くねえ」


 一ノ瀬がその横で、ほんの少しだけ笑った。


「面白くなってきたね」

「うん」

 新は頷く。

「ここから先、もっとすごいのが来るんだろうな」

「来るでしょうね」

 純香が言う。

「全国だもの」

「でも」

 彩葉が五人を見回す。

「五人で行けるの、いいね」

「それはそう」

 雅が言った。

「今さらだけど」


 夢見が丘の五人は、そのまま並んで歩き出す。


 会場の外では、秋にはまだ遠い陽射しが、コンクリートの地面へ強く落ちていた。

 けれど、その光の中を歩く足取りは、朝ここへ来たときよりずっと軽い。


 地区予選は終わった。

 全国大会への切符も手にした。

 それでも、新の中では不思議と「終わった」という感じはしなかった。


 むしろ、ようやく入口に立った気がした。


 清南。

 実況。

 他校。

 マジコンという大会の空気。


 その全部が、これから先にもっと大きなものが待っていると告げているようだった。


 新は少しだけ歩調を緩めて、隣を歩く四人を見た。


 雅。

 純香。

 彩葉。

 一ノ瀬。


 夏休みの自由課題から始まったものが、気づけば五人で全国へ向かう話になっている。


 それが少しだけ可笑しくて、でもたしかに嬉しかった。


 マジコンは、まだ始まったばかりだ。

全国大会、参戦決定ッ!

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