第25話 フェンリルとヘル
トールのギャング時代の相棒は、
「自分はフェンリルと申します」
と名乗り、ニューハウンの港町での、
ギャングの内部抗争について語りだした。
「ギャングの幹部に、ロキという男がいましてね」
そのロキが、ギャングのボスを殺害したらしい。
フェンリルの話によると、
「ロキはニューハウンの町の実権を奪うために」
ボスを殺したのだが、
「だが、この時、ロキに反発する勢力が結託して」
すてにギャングを脱退した、漁師のトールを、
新しいリーダーとして担いで、
ロキに対抗しようと、画策したのだという。
「それを知ったロキはトールを危険視しました」
「トールさんは、それを知っていたのですか?」
「いえ、トールは、まだ、知らないことでした」
この事態にロキは、
窃盗団の頭目・キニンジャと結託して、
「トールを、早めに始末したのです」
その直後、ロキに反抗する勢力は、次々と、
「容赦なく、殺されてしまい」
フェンリルは逃げてきたというのだが、
「自分は何としても、仲間の仇を討ちたいのです」
そう言って、
僕に助太刀を依頼してきたのだ。しかし、
「そもそも、あなた方が脱退したトールさんを」
担ごうとしたから、トールは殺された。
このフェンリルという男は、
「自分が助かりたいから僕を利用するだけだろう」
「そんなことは、ありませんよ。自分は敵討ちを」
そう必死に訴えかけるフェンリルを、
僕は無視するように背を向けた。だが、ここで、
「確かに、兄は身勝手な人間かもしれませんが」
そう言いながら、
黒いメード服姿の美少女が目の前に現れた。
「あなたは?」
「私はフェンリルの妹のヘルです」
と、名乗った美少女は、こう言葉を続ける。
「どうか、兄を助けてやって下さい」
「いや、しかし」
「こんな兄ですが、私には、たった一人の身内」
「僕は、これから、都へ向かうのです」
「沖田さん、そんな冷たいことは言わないで」
そして、ヘルは僕に近づき、耳元で、
「兄を助けてくれたら、何でもしますから」
その年齢には似つかわしくない、
艶めかしい声で、僕に懇願するのだった。




