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第8話 はじめての村


朝の光がまぶしかった。


「おいルーク、今日は村まで行くぞ」


「む、村!?」


思わず大きな声を出してしまった。


「ああ。干し草と塩を仕入れにな。たまには外の風もいいだろ」


ガルドが笑いながら荷車を指差す。

フィーネがぴょんと跳ねてルークの肩に乗った。


「……ぼく、行ってもいいの?」


「おう。そろそろ顔を出しとくのも悪くねぇ。お前、村の連中に人見知りすんなよ」


「……がんばる」


馬車がゆっくりと進む。

道の両脇には花が咲き、遠くで鳥の声が聞こえた。

フィーネが鼻をひくひくさせながら、嬉しそうに景色を見回している。


「ねぇガルド、村ってどんなところ?」


「人が集まる場所さ。うるせぇが、温かい。――たまに、面倒な奴もいるけどな」


「面倒……?」


「まぁ行けばわかる」


村の入口が見えた。木の柵と小さな門、石畳の道。

子どもたちが駆け回り、店からパンの香ばしい匂いが漂ってくる。


「わぁ……!」


ルークの目が輝いた。


「お、見慣れねぇ顔だな。新入りか?」


村の商人が声をかけてくる。

ガルドが笑いながら答えた。


「うちで手伝ってる坊主だ。ルークって名前だ」


「ルークか、いい名だな!」


そう言われた瞬間、ルークの胸の奥がじんわりと熱くなった。


“ルーク”という名が、他の誰かの口から呼ばれた。


それだけで、世界が広く感じられた。


「ありがとう……」


「あら、可愛い子ね」


今度はパン屋のおばさんが微笑む。

ルークは照れくさそうにうつむいた。


そのとき――

フィーネがぴくりと耳を動かした。

『……風が、ざわざわしてる』


「え?」


村の外、森の方角。

遠くの木々が一斉に揺れている。

風ではない。

何か、ざわめくような“気配”があった。


「ガルド、あれ……」


「……見間違いじゃねぇな」


ガルドが険しい顔をした。


「今日は長居せずに戻る。ルーク、フィーネ、気を張っておけ」


「う、うん……!」


村の笑い声の中に、かすかに混じる“不穏な音”。


ルークはその音を耳の奥で感じながら、

初めての“外の世界”を見つめていた。


それが、彼にとって最初の小さな冒険の始まりだった。

次回 森のささやき

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