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第5話 ルークという名前


その日、牧場に見知らぬ人が来た。


「よぉ、ガルド! 久しぶりだな!」


玄関の外で声がする。

振り向いたガルドが笑いながら手を振った。


「おう、リゼルか。相変わらず騒がしいな」


来たのは、荷車を引く若い男だった。

村の雑貨屋の主人らしい。


少年は少し離れた場所からその様子を見ていた。

見知らぬ人間に、体が少し強張る。


フィーネが足元で小さく鳴いた。

「……だいじょうぶ」


その声に、少年の肩が少しだけ緩む。


「ガルド、その子は?」


「ああ、最近うちで預かってる坊主だ」


「へぇ、名前は?」


ガルドがふと黙った。

少年が小さく俯く。


「……まだ、ないんだ」


リゼルは驚いた顔をしたが、すぐに優しく笑った。


「そりゃあ、もったいないな。せっかくだ、つけてやれよ、ガルド」


「……そうだな」


ガルドはしばらく黙って少年を見つめていた。

その瞳は、いつものように穏やかで、どこか遠くを見ているようでもあった。


「……生きたいって言ってたな、お前」


少年は目を見開く。


「あの時、馬小屋で気を失ってたお前を見つけたとき、

その目だけは、しっかり生きようとしてた。

だから――」


ガルドはゆっくりと微笑んだ。


「“ルーク”だ。光って意味だ」


「ルーク……?」


「ああ。お前は暗いところから生まれ直した。

だから今度は、光の下で生きろ」


その言葉が胸に沁みた。


名前をもらうということが、

こんなにも温かくて、涙が出そうになるとは思わなかった。


「……ありがとう」


声が震えた。

フィーネが嬉しそうに鳴き、少年――ルークの頬を舐めた。


「ほらな、フィーネも喜んでる。これで名乗れるじゃねぇか」


ガルドが豪快に笑う。

リゼルも「いい名前だ」と頷いた。


外では風が吹き抜け、雲の隙間から光が差し込んでいた。


ルーク。

それが、少年がこの世界で初めて“呼ばれた名前”だった。


その瞬間、彼の中で何かが変わった。

世界が少しだけ、優しく見えた。

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