-風、北を指す-
湖の都アルメリアに、ようやく静けさが戻った。
濁っていた水は澄みわたり、空を映すほどに透明になった。
人々は湖のほとりに集まり、光に手を合わせていた。
「ありがたい……また水が、戻ってきたんだな」
「風の子とその仲間に、祝福を!」
その声に、ルークは少し照れくさそうに笑った。
フィーネが尻尾を揺らし、ピューイが嬉しそうに空を舞う。
「ルーク、よくやったな。」
ガルドの大きな手が、ルークの頭をくしゃりと撫でた。
「ガルドのおかげだよ。僕、ひとりだったら……」
「もう“ひとり”じゃねえだろ。」
「……うん。」
ルークは胸元の“息の石”を見つめた。
そこには、リュミエールの残した淡い光が宿っている。
(風と水が繋がった……でも、まだ終わってない気がする)
夜、宿の窓辺で、ルークは外の風を感じていた。
その風の中に、確かに聞こえた。
――北の風が、乱れている。
「……リュミエール?」
小さな囁きが、風とともに消える。
翌朝、出発の支度を整えたガルドが言う。
「少し休んでもいいんだぞ。湖の修復にも人手がいる。」
「ううん。風が……呼んでる気がするんだ。」
「呼んでる?」
「北の方。そこに“泣いてる声”がある気がする。」
アルトが荷車を直しながら、思い出したように言った。
「そういや北の『星見の谷』の森が枯れかけてるって噂を聞いたな。誰も近づけねぇって。」
「……森が、枯れてる?」
ルークは空を見上げた。
風が北の方角へと流れている。まるで導くように。
「決まりだな。」ガルドが肩をすくめる。
「風の子が言うなら、行くしかねぇ。」
フィーネが笑い、ピューイが鳴いた。
旅は再び始まる。
ルークは背に風を感じながら、静かに誓った。
「今度こそ……誰も泣かせない。」
そして一行は、北の森へと歩き出した。
――その先に、まだ知らぬ“命”との出会いが待っているとも知らずに。




