第25話 沈む祈り、目覚める光
湖の底へと続く“聖泉の道”は、静まり返っていた。
ミリアの手から渡された“息の石”は、淡く光を放ち、
水に沈むたびに泡のような魔力を生み出していく。
「この石を胸に当てていれば、短時間だけ呼吸ができるわ」
ミリアが言う。
「けれど、魔力が切れたら命の保証はない。それだけは忘れないで」
「うん。ありがとう、ミリアさん」
ルークは深呼吸をして、湖面へと視線を向けた。
そこには、月光を閉じ込めたような青い水の世界が広がっている。
フィーネが心配そうに尻尾を揺らした。
『ほんとに行ける?』
「大丈夫。怖いけど……行かないと、誰も助けられない」
ピューイが肩で鳴く。
『ピュイ! 一緒に行く!』
ガルドは短く頷いた。
「無理はするな。何があっても俺が後ろにいる」
ミリアが水面へと手をかざすと、湖が静かに割れた。
水の壁の向こうに、青白い光の階段が現れる。
「“聖泉の道”が開いた……!」
「行こう」
三人と二匹は、ゆっくりとその光の中へ足を踏み入れた。
水中の世界は、まるで空を逆さにしたようだった。
魚たちが星のように光り、珊瑚の森が静かに揺れている。
ルークの胸にある“息の石”が鼓動に合わせて淡く光る。
だが、同時に不思議な“声”が響いてきた。
――たすけて。
――こわい。
「……誰かが泣いてる」
ルークの手を握ったフィーネの毛が、光を帯びていた。
『ルーク、あれ……!』
遠くに、巨大な“水の柱”が立ち上がっていた。
その中心に、鎖で縛られた“青い光”が揺れている。
「あれが……水の精霊リュミエール?」
ガルドが剣を抜く。
「何かに封じられてるな」
周囲の水流が渦を巻き、黒い影が蠢いた。
形を持たぬ水の獣――“堕ちた精霊の残滓”。
「来るぞ!」
ルークはフィーネを抱え、息の石を強く握る。
「リュミエールを、助けなきゃ!」
水の中、光が走る。
ピューイが羽ばたき、風の魔力が泡となって広がった。
水と風が交わる瞬間、
湖の底に――ひとすじの“癒しの風”が流れた。




