第24話 水底へ続く道
湖の都アルメリアの朝は、霧と光が混じっていた。
「湖の底へ行くには、“息の石”が必要だ」
アルトが地図を広げ、指で示した。
「それを扱えるのが、この街の治癒士ミリアだ」
「ミリア……?」
ガルドが小さく目を伏せる。
「……昔の仲間だ」
ルークは首をかしげた。
「ガルドの仲間って……アルトさんと同じパーティーの?」
「ああ。ミリアは回復魔法の使い手でな。
俺たちの命を何度も救ってくれた」
フィーネが尾を揺らす。
『やさしそうな人なの?』
「ああ、やさしすぎるぐらいの人だ」
アルトが苦笑した。
「今はギルドの依頼を離れて、聖泉のほとりに診療所を構えてる」
――聖泉。
それは、湖に流れ込む七つの泉のひとつ。
水の精霊に祝福された土地と呼ばれていた。
「よし、行こう!」
ルークは勢いよく立ち上がった。
ピューイが羽を震わせ、フィーネがついてくる。
ガルドはそんなルークの姿を見つめ、口の端をわずかに上げた。
「……本当に、強くなったな」
アルトが小さく目を細める。
「ふむ……“風の子”とは、こういう少年か」
*
聖泉のほとりは、淡い青光に包まれていた。
水面には花びらが浮かび、どこか懐かしい香りがする。
「――ガルド?」
澄んだ声が響いた。
振り向くと、白衣をまとった女性が立っていた。
彼女は穏やかに笑う。
「まさか……あなたがまたこの街に来るなんて」
ガルドは目を伏せ、短く答える。
「助けが必要だ。……湖の底へ行きたい」
ミリアは驚きに息をのむ。
「リュミエールの沈黙に関係があるのね?」
「ああ。頼みがある、“息の石”を貸してほしい」
ミリアは少し黙り、それからルークを見た。
「……その子が、“風の子”ね」
「えっ……?」
「湖の精霊の声が言っていたわ。
“風の子が、再び加護を呼ぶ”って」
ルークは胸の奥があたたかくなるのを感じた。
風が吹く。
水面がゆらぎ、まるで何かが“目を覚まそう”としているようだった。
ミリアが微笑む。
「息の石を渡すわ。ただし――命を落とす覚悟がいる。
それでも行く?」
「……うん。だって、助けを待ってる声が聞こえるから」
フィーネとピューイが力強く鳴いた。
ガルドは静かに頷く。
「行こう、ルーク」
湖の底へ――
新たな加護を求めて。




