第18話 風の試練の予兆
リヴィエラの街の午後。
治療院の窓から差し込む陽の光が、静かに部屋を照らしていた。
「痛みはもうない?」
リリアスが優しく声をかける。
「うん、もう大丈夫。ありがとう」
ルークの足はすっかり治っていた。
フィーネが尻尾を揺らし、机の上では小鳥が首をかしげている。
「お前の治癒、ほんとに早ぇな」
ガルドが感心したように笑った。
「傷跡が残っていない……ただの薬草治療じゃないわね」
リリアスが指先でルークの足をなぞる。
「少し、力を貸してくれる?」
ルークがうなずくと、リリアスは手のひらをかざした。
青白い光が淡く灯り、ルークの胸のあたりに浮かぶ“精霊紋”がかすかに輝く。
「……やっぱり。あなたの魔力、普通の人間とは違う」
「え?」
「癒しの力――それも“風の系統”のものね。
まるで精霊そのものと共鳴しているような波動を持ってる」
ガルドが腕を組む。
「つまり、こいつは……?」
「テイマーというより、“精霊と契約できる素質”を持ってる。
でも、まだその力が眠ってる状態」
『眠ってる……?』
フィーネが首をかしげる。
「ええ。だけど、もうすぐ目を覚ます。
――“風の試練”が近いの」
「風の……試練?」
リリアスの表情が少しだけ引き締まった。
「この街にある“精霊塔”で、最近異変が起きているの。
精霊が暴走して、祈り手が倒れる事件が続いてる。
ルーク、あなたがその力を制御できれば――助けられるかもしれない」
ルークは唇を結んだ。
「ぼく……できるかわからないけど、やってみたい」
フィーネが嬉しそうに跳ねる。
『ルークなら大丈夫! 風の子だもん!』
ガルドはゆっくりと息を吐き、笑った。
「……まったく、お前は本当に放っとけねぇな」
リリアスが微笑み、手を差し出した。
「それじゃあ、明日。
風の塔で“試練”を受ける準備をしましょう」
ルークはその手を強く握り返した。
新しい風が、静かに彼の中で動き始めていた。




