第12話 森に選ばれた子
ルークが目を覚ましたとき、木の天井がぼんやりと見えた。
「……ここ、どこ……?」
「気づいたか」
低くて優しい声。
視線を向けると、ベッドのそばにガルドが座っていた。
「ガルド……」
「まったく、お前ってやつは……」
そう言いつつ、ガルドの表情はどこか笑っていた。
「三日間、眠ってたんだぞ」
「えっ……三日も!?」
「ああ。でもよく生きてた。あの森の“瘴気”を受けて、ただの人間なら死んでたさ」
ルークはゆっくりと体を起こした。
フィーネが枕元で眠っていたが、ルークの気配に気づくと顔を上げた。
『ルーク……! よかった、目が覚めた!』
「フィーネ……」
彼女が泣きそうな顔で頬をすり寄せてくる。
その温もりが、胸の奥まで染み込んだ。
「あのあと、どうなったの?」
「お前の光が、森を包んだ。
まるで風と陽の精霊が一緒に歌ってるようだった。
闇は引いて、森は静かになった」
ガルドの声はどこか感嘆していた。
「……お前、森に“選ばれた”のかもしれねぇな」
「選ばれた……?」
「ああ。あの光はただの魔法じゃない。
森の命そのものが、お前の心に応えたんだ。
テイマーの中でも、そんなことができる奴は滅多にいねぇ」
ルークは目を瞬かせた。
自分のしたことが、そんな大きな意味を持つとは思っていなかった。
『ルークの“想い”が届いたんだよ。森が泣いてたの、もう聞こえなくなったもの』
「……ほんとに?」
『うん。今は静かに眠ってる。ありがとう、って言ってた』
ルークの胸に温かい光が広がる。
「よかった……」
ガルドがゆっくりと立ち上がり、窓の外を見やる。
「村じゃ、もう“光の少年”の話でもちきりだ。
森の奥で光が爆ぜ、瘴気が消えたってな」
「ぼくのこと……?」
「ああ。だが、お前の力のことはまだ誰にも言うな。
力を求める奴ほど、危ねぇからな」
「……うん」
『ねぇガルド、ルークの力って、もっと伸びると思う?』
「ああ、間違いねぇ。
だがそのためには、心を鍛えねぇとな。
力ってのは、誰かを守るために使うもんだ。――なぁ、ルーク?」
ルークは小さく頷いた。
「ぼく、守りたい。
ガルドも、フィーネも、森も……この世界の“やさしさ”を」
ガルドが目を細めて笑った。
「……いい目だ」
その言葉に、ルークの胸がまた少し熱くなった。
こうして――
少年ルークは、“森に選ばれた子”としての第一歩を踏み出した。




