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第5話 報告とペナルティ──そして外の世界へ

冒険者ギルドの扉が勢いよく開かれた。

木製の重い扉が壁にぶつかり、乾いた音が広間に響く。

居合わせた冒険者たちの視線が一斉に入口へ集まり、ざわめきが走った。


戻ってきたのは、エレナ、リサ、マリアの三人。

かなり急いで戻ったため、額には汗が滲み、衣服には土埃がまとわりついている。

表情は険しく、ただ事ではない雰囲気を漂わせていた。


カウンターにいた若い職員が驚きの声を漏らす。

「ち、調査に出ていた三人組……? こんなに早く戻るなんて……!」

職員は慌てて奥へ走り、ギルドの奥の部屋に消えていった。


数瞬の静寂ののち、筋骨隆々の男が現れた。

胸板は分厚く、短く刈り込まれた髭と眉の下から鋭い眼光が覗く。

腕組みしながら堂々と進み出たその姿──ギルドマスター、**ガルド・ハンマーク**。

かつて一線で数々のダンジョンを踏破した歴戦の冒険者であり、街の誰もが一目置く存在だ。


「お前たちが調査に行った三人か。……どうだった?」

低く響く声に、広間の空気がぴんと張り詰める。


エレナが一歩前に出た。

大きな盾を背負ったまま、真っ直ぐにギルマスターを見据える。

「はい。ダンジョンそのものは小規模でしたが……異常です。仲間が一度、確かに死んだのに──復活しました」


「……復活?」

その言葉に広間中がざわついた。

休憩中の冒険者たちが椅子から腰を浮かせ、ささやき合う。

「死んだ仲間が蘇った?」「そんな馬鹿な……」


ガルドの顔色が変わった。

険しい表情のまま、一歩近づく。

「馬鹿を言うな。死者が蘇るダンジョンなど存在しない。お前たち、幻覚でも見たのか?」


「幻覚じゃありません!」リサが声を張り上げる。

小柄な身体を震わせ、必死に訴えた。

「ミミックに食べられて……確かに死んだんです。でも、気づいたら仲間の目の前で生き返ってて……その記憶も全部残っていて……!」


ギルド全体に衝撃が走る。

周囲の冒険者たちは言葉を失い、ある者は顔を青ざめさせ、ある者は眉をひそめて「不吉だ」と呟いた。


そのとき、リサはふと自分の体に違和感を覚えた。

「……あれ?なんか、体が重い……魔力の巡りも鈍い……」

両腕を確かめるように動かし、杖を握る手が小さく震える。

そして自分のステータスを確認した瞬間、彼女は叫んだ。

「……レベルが下がってる!?」


「復活にペナルティがある、だと……?」

ガルドの拳が震え、その足は木の床板を踏み鳴らした。

「前代未聞だ。これは放置できん。すぐに上層部へ報告する。──お前たち三人も休め。だが次の招集は覚悟しておけ」


その言葉は、ただの叱責ではなく、緊張と覚悟を促すものだった。

三人は顔を見合わせ、深く頷く。ギルド全体に冷たい緊張が走り始めていた。



一方その頃。


俺は安いオフィスチェアに腰をかけ、ダッシュボードに残ったログを一通り確認していた。

女神のご加護で、いつでもダンジョン内の管理室に戻れる。

ここは俺の“現場”だが……見た目はどう見ても、昔使っていた安普請のオフィスそのもの。

机も椅子も、備品は元の世界の物に準じている。蛍光灯の光がやけに白々しい。


「まさか異世界でも、この味気ない景色を見ることになるとはな……」

苦笑いしつつモニターを確認すると、さきほどのログが浮かんでいた。


---【Zavixログ】

[10:43] agent.mage[4b3de921] ステータス更新

原因: 死亡復活ペナルティ

レベル補正: 0.8倍(経験値獲得により回復可能)

---


「……デスペナ、ね。RPGみたいで面白いな。

監視の仕様外と思うが、ダンジョンにはこんな機能まで備わっているんだな」


セラフィーナが言う。

「いえ、これも特別仕様です。貴方が管理するダンジョンには通常は存在しえない固有の仕様が設定されるんです」


俺は肩を竦めた。

「……要するに、俺もお前もマニュアルのない現場仕事ってわけか」


セラフィーナは楽しげに微笑む。

「ええ。でも、“未知”は管理者にとって最大の試練であり、最大の楽しみでもありますよ」


「……試練ねぇ。どんな仕様が潜んでるか、俺にも分からんのか?」

「分かりません。けれど、範囲外の情報を得るには……貴方自身が動くしかないでしょう」


俺はしばしディスプレイを眺め、ため息をつく。

腹をさすりながら呟いた。

「……なるほどな。調査ってやつは現場主義、か。にしても……腹減った」


管理UIのExitボタンを押下すると、ダンジョンの出口へと移動する。

ダンジョン管理室の湿った空気とは違う、陽光に温められた草の香りが鼻を抜けた。

風が頬を撫で、思わず目を細める。


「……やっぱり外の空気はいいな」


すぐそばの畑では、腰を曲げて鍬を振るう村人の姿があった。

日に焼けた肌、土色の服、そして額の汗。

この世界で営まれる生活が、俺の目の前に確かに存在していた。


俺は軽く手を上げ、声をかける。

「すまん、この辺で一番近い町はどこだ?」


村人は顔を上げ、驚いたように俺を見たあと、汗を拭いながら答えた。

「あんたも旅人か? ここからなら南へ道を行って徒歩で半日、『ラザリアの町』が一番近いさ。市場もあるし、宿もある。あんたみたいなのには悪くない場所だろうよ」


「徒歩で半日か……」

俺は小さく呟き、背後を振り返る。

洞窟の入口は静まり返り、何事もなかったかのように口を閉ざしていた。


「……よし。少し歩いてみるか」


こうして俺は、初めて外の世界へ足を踏み出した。

胸の奥に、ほんの少しだけ冒険者の高揚感が芽生えていた。


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