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第10話 コウモリ洞窟再訪──そして牙をむくワーウルフ

朝の光が宿の窓から差し込み、俺は布団から身を起こした。

昨日までの疲労はまだ残っていたが、不思議と体は軽い。

少なくとも、もう「空腹でふらつく」なんて状態じゃない。

前日の銅貨十枚という報酬が、精神的な安心を与えてくれたのだろう。


宿の下の食堂で粗末な朝食を済ませると、俺はギルドへ向かった。

通りはすでに賑わっており、行商人や住人が忙しそうに歩いている。

その中をすり抜け、昨日と同じ石造りの冒険者ギルドの建物へ。


扉を開けると、ざわめきと酒の匂いが迎えてくれる。

相変わらずの混沌だが、ここが冒険者の拠点であり、街の心臓部でもある。


掲示板に近づくと、昨日と同じ依頼が目に入った。

「灰等級向け──コウモリの駆除、報酬は銅貨一枚」


「……一枚?」

思わず声が漏れた。

昨日は確か、五匹で十枚だったはずだ。つまり一匹あたり二枚換算。

首をかしげつつ、受付の職員に声をかける。


「すみません。この依頼、昨日は一匹二枚で計算されてたと思うんですが……」

「はい。掲示板にあるのは“最低保証”です。最近の状況に応じて、実際には一匹につき銅貨二枚で算定します。昨日の実績もありますので、今日は上限も外して構いません」


「なるほど。助かります」

胸の内で安堵する。

だが、無制限に狩るつもりはない。十匹前後で切り上げよう。

体力を温存し、夜にまた宿へ戻れるくらいの余裕は残しておきたい。


俺は銅貨色の証票を受け取り、洞窟へ向かうことにした。



山裾にある小さな洞窟。

昨日と同じ場所だが、入口に立つだけで背筋がざわつく。

湿った空気、草木の陰に潜む視線。

俺にとっては戦場であり、同時に「職場」でもある。


「さて、今日も仕事だ」


腰に下げたレンタルの剣と盾を握りしめ、洞窟に入る。

闇に慣れるまでに数秒かかるが、耳は敏感に反応する。

高い声で鳴き交わす、コウモリの気配。


「……いたな」


一匹目を見つけると、すぐに剣を構える。

羽ばたきが近づいた瞬間、剣を横に払う。

コウモリは小さな悲鳴を上げて床に落ちた。


二匹目、三匹目と連続で仕留める。

昨日の経験が活きている。

体が動きを覚えており、反射的に対処できるようになっていた。


五匹を片づけたあたりで、汗が額に滲む。

だが、まだ余裕はある。


「あと五匹……行けるな」


俺は息を整え、さらに奥へと進んだ。



その頃、別の場所──“あのダンジョン”。

三人組が命を落としかけた、あの異常なダンジョンに、再び彼女たちは挑もうとしていた。


エレナ・グランフォード、リサ・アルベリーニ、マリア・カンデラ。

結局は再調査という形で再び依頼が下りたのだ。


「……今日こそ、もっと奥まで進もう」

エレナが盾を構え、仲間に視線を送る。

リサは魔力の気配を漂わせ、マリアは祈るように胸の前で手を組む。


彼女たちは知らない。

ダンジョンの奥に、“中ボス”としてワーウルフが待ち構えていることを。



俺はコウモリを十匹倒し、洞窟の外へ出ていた。

剣を鞘に収め、証票に刻まれた傷を確認する。

これで銅貨二十枚の稼ぎだ。


「よし、これでしばらくは食いっぱぐれないな」


そうつぶやき、俺はギルドへ戻ろうとした。

だが、その瞬間、視界に気になるシステムログが走った。


---【Zavixログ】

[13:42] host.dungeon001 event: midbossfight

[13:42] host.agent.group=3 detected

[13:43] host.monster.generated: wolfman[uuid:9d31af2a]

Priority: MidBoss

---


「……ワーウルフ、か」

ログを見て直感する。

あの三人が、今まさに戦っている。


俺は管理者モードを切り替え、遠隔から観測を開始した。



ダンジョンの奥で、鋭い咆哮が響く。

灰色の毛並みを逆立てたワーウルフが、二足歩行で立ちふさがっていた。

巨大な爪が岩壁を裂き、火花を散らす。


「くっ……!」

盾を構えるエレナが踏みとどまる。

だが衝撃は重く、膝が揺らぐ。


リサが火球を放つが、ワーウルフは素早く跳躍して避ける。

「なんで当たらないよ!?」


マリアが回復の祈りを唱えるが、追いつかない。

エレナの体力はじわじわと削られていく。


「このままじゃ……!」



俺はログを凝視し、状況を判断する。


エレナ:HP残量 32%

リサ:MP残量 21%

マリア:バフ数 2


モンスター側──ワーウルフ:HP 84%、攻撃速度上昇中。


「このままじゃエレナが潰される……」


俺は即座にトリガーを追加した。


---【Zavix設定トリガー】

if(monster.type==wolfman and agent.role==tank and agent.hp<0.4) then debuff.monster.atk=-20% and debuff.monster.def=-20% for 30s

---


実行した瞬間、ワーウルフの動きがわずかに鈍った。

振り下ろす爪の重みが軽くなり、エレナの盾が耐えられるようになる。


「……あれ? 今の、少し弱くなった?」

マリアが小声で呟く。

リサは気づかない。必死に魔法を放ち続けているからだ。

だが、マリアの直感は鋭い。


「気のせいかもしれないけど……」

それでも彼女はそれ以上口にしなかった。


エレナは息を荒げながら叫ぶ。

「今だ、畳みかけろ!」


リサが渾身の火球を放ち、マリアが攻撃力強化の祈りを重ねる。

弱体化したワーウルフは防御を崩され、ついに膝をついた。


「やった……!」

エレナが剣を振り下ろし、首筋に深い傷を刻む。

ワーウルフは断末魔を上げて倒れた。


---【Zavixログ】

[14:19] host.agent.mage[uuid:4b3de921] level.status=restored

---


「……レベルが、戻った?」

リサが驚きの声を上げた。

彼女のステータス表示が、以前の数値へと回復していたのだ。


マリアが安堵の息を吐き、エレナも力強くうなずく。

三人は互いに顔を見合わせ、笑みを浮かべた。



俺はログを閉じ、深く息を吐いた。

「危なかったな……でも、これで少しは信用を取り戻せただろ」


セラフィーナの声が耳に届く。

「ええ。あなたの介入は目立たず、けれど確かに彼女たちを助けました。彼女たち自身の力と錯覚させる、それが一番自然です」


「まあな。直接助けたってバレたら、疑われるだけだし」


ギルドで証票を提出し、外に出て空を仰ぐと、夕陽が西の空を赤く染めていた。

今日の稼ぎは銅貨二十枚。

そのうち一枚で夕食を取り、八枚で宿に泊まる。

残りは明日への余裕となる。


「……少しずつだな。冒険者としても、管理者としても」


俺はポケットの中で銅貨を弄びながら、静かに歩き出した。

物語の歯車は、また少し進んでいた。


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