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第6話 渋谷デリバリー対決




― 渋谷・裏路地 ―




速水ルイは、狭い路地裏を疾風のごとく駆け抜け、

最初の配達先に滑り込む―



呼吸一つ乱さず、玄関ベルを鳴らす。



「出前のYAKATAです。注文、届けにきました。」


「えっ、もう? こんなに早く来るなんて!」



驚く受け取り主を横目に、

ルイは軽く手を振って即座に次の目的地へ走り出す。



――その最中、彼はスマホをちらりと確認した。



そこに映るのは、まよいたちには伝えていなかった機能。

自分とまよいたちの現在位置がマップ上にリアルタイムで

映し出されていた。




(……やっぱり、動いてねぇな。)


地図上の点は、未だスタート地点付近からほとんど動いていない。それを見たルイは口元を歪め、余裕の笑みを浮かべる。




(……フン。やっぱり素人だな。最初から本気で走り出さなきゃ俺に勝てるわけがない。まあ、俺が10軒も回る頃には――楽勝で勝負は決まってるさ。)



「うわ!なんだ、あの物凄く足の早い青年は!」

「しかも、結構イケメン!モデルさん?声かけてみてよ!」

「私じゃ、無理無理!追いつけるわけないって!(笑)」



靴底がアスファルトを打つ音が響き渡る。

速水ルイの配達は、街の喧騒を切り裂く“疾風”そのものだった。




――――――――――――――――




― 渋谷・雑居ビル屋上 ―



ドンッドンッドンッ!(階段を駆け上がる音)


息を切らしながら屋上に飛び出したまよいは、ナポレオンが街を見下ろしながら腕を組み、じっと動かない姿に呆気にとられた。


「……ちょ、ちょっとナポレオン!?

 ルイは、もう配達始めてるんだよ!?

 あのままじゃ、完全に置いてかれるってば!」



しかし、ナポレオンは微動だにせず、静かに街を見下ろしている。



『……よい。奴は速い。だが、速さは時に愚かさだ。』



「なにそれ!格好つけてるだけでしょ!?

 負けてもいいっていうのね。

 ……もういい、私1人でも行く!」


 


まよいが踵を返し、階段へと駆け出そうとした瞬間―



『――待て。』



低く鋭い声が背中を撃ち抜いた。



『焦るな、まよい。高地を制する者は必ず戦いを制す。

 敵の動きを読み、補給の流れを見極めるのだ。

 今はまだ――動く時ではない。』



まよいは唇を噛み、足を止めた。

悔しさと不安が胸に渦巻く。

だが同時に、彼の言葉には不思議な説得力があった。



「……ほんとに、大丈夫なんでしょうね……?」



ナポレオンはわずかに口角を上げ、眼下の街を射抜くように見据えた。


『勝敗は決して速さのみにあらず―

 それを奴に、教えてやる時が来た。』



――――――――――――――――



― 渋谷・住宅街 ―



「……もう7件目か。俺の足なら楽勝だな。」


ルイは赤いジャケットを翻しながら、スマホを片手に駆け抜けていた。

アプリの画面には、次から次へと新規の注文が飛び込んでくる。


彼の視線は、その中でも“距離が近いもの”だけを瞬時に選び取る。


直線的に、最速で。まるで獲物を狙う獣のように。




ピンポーンッ!(チャイム音)


玄関を開けた主婦が驚きの声を上げた。 


「は、早っ!? 注文して10分も経ってないのに……!」


ルイはニヤリと笑い、受け取りのやりとりを済ませ、即座に背を向けた。



「……フッ、当然だ。俺は、通称“最速のルイ”。

 速度でなら誰にも負ける気はしねぇ。」



彼の動きには無駄がない。

だが、同時に“戻り道”や“次の目的地”への繋がりは考慮されていなかった。



一軒ごとに街の隅々へ走り抜け、別の角からまた別の角へ急旋回する。次第に体力と時間が、少しずつ削られていく――



その時、ルイは自分の呼吸が少し荒くなっていることに気づいた。



「よし、ここらでひと休みしよう。」


付近にあった自動販売機でスポーツドリンクを買い、喉を潤す。



「……ふぅ。まあ、10軒も回れば楽勝だろ。あいつらはまだスタート地点で立ち尽くしてるんだからな。」



スマホの隅には、競争相手の位置を示す小さな点。

そこに表示されているナポレオンとまよいのマークは、

未だ動いていなかった。


その光景に、ルイの口元が勝ち誇ったように歪む。



「……バカだな。戦いは“速さ”で決まるんだよ。」




――――――――――――――――




― 渋谷・雑居ビル屋上 ―



ナポレオンは屋上から動かず、まるで将軍が布陣を見渡すかのように街を凝視していた。

彼の視線の先では、無数の注文が地図上に点となって散らばっている。



『……ふむ。これはまるで敵の拠点配置図よ。』



彼は片手でまよいのスマホを手に取り、次々に現れる注文の位置を俯瞰した。

散らばった点が頭の中で線に変わり、やがて一つの「道筋」として繋がっていく―




『見えた。北から南へ抜ける動脈……この線こそが勝利の補給線だ。』



まよいは呆れたように肩をすくめる。



「ナポレオンって、本当に何者なの…」



ナポレオンはゆっくりと振り返り、口元に不敵な笑みを浮かべた。


『よいか、まよい。速さは、時に兵を散らす。

 だが、効率は兵を勝利へ導く。

 今こそ我らの進軍を開始する――』



その瞬間、2人はビルの屋上から駆け下りた。



――――――――――――――――




― 渋谷・住宅街 ―




細い路地と坂道が入り組む複雑な住宅街。



『止まれ!ここだ、三軒並びだ。

 一度に兵站を投下すれば、効率は三倍になる!』


「えっ、一度に!? ……わ、分かった!」


まよいは深呼吸して、バッグから三つの商品を取り出す。

そして、思い切って三軒のチャイムを“同時に”押した。


ピンポーン! ピンポーン! ピンポーン!


玄関のドアが一斉に開き、三人の住人が顔を出す。


「あら、同時に?」

「おお、もう来たのか!」

「わっ、早い!」


まよいは少し恥ずかしそうに笑いながら、

丁寧に商品を手渡す。


「お待たせしました!

 Yuber Eats です!それぞれご注文のパスタとピザと……はい、こちらがオムライスになります!」


彼女は笑顔を絶やさず、ひとりひとりに軽く会釈をして言葉を添える。


「いつもご利用ありがとうございます!」

「よければ温かいうちにどうぞ!」

「今日は少し早めにお届けできました!」


客たちは顔を見合わせ、思わず笑みを浮かべる。


「すごいね、こんなに早くて丁寧に……」

「助かるよ!また頼むね!」 

「ありがとう!このあともがんばってね。」


その光景を背後で見守っていたナポレオンが、誇らしげに腕を組む。


『……見ろ、まよい。

 補給とは物資を届けるだけではない。

 兵が心を満たされてこそ、本当の勝利に繋がるのだ。』


まよいは少し赤くなって、バッグを背に次の場所へ走り出す。


「……なんか、私も兵隊さんに配給してる気分になってきたよ!」




ナポレオンは満足げに頷き、次の指示を下した。



『次はあの坂を登れ。あの坂の向こうには5軒だ。

 坂の上から駆け降りながら左右に配る。

 重力さえも我らの兵站に利用するのだ!』



「重力まで兵站扱い!? 

 でも……ほんとだ、登りながらよりも楽に配れる!」



まよいは勢いよく坂を駆け下りながら、

左右の家々に次々と商品を届けていく。


最小限の動きで複数の注文が処理され、まるで流れるように片付いていく感覚だった。



『見ろ、まよい。ここまで無駄な戻り道が、一切ない。

 兵を散らすのではなく、一度の進軍で制圧する。

 これぞ真の戦略的補給だ!』



「……っ、こんなの反則級だよ!

 普通の人じゃ絶対思いつかない!」



汗をにじませながらも、まよいの胸は高鳴っていた。

ルイが、一軒一軒を最速で叩き落としていくのに対し、

自分たちは“最短の道筋”を編み出して、広範囲を一気に掌握していた。



――――――――――――――――



「もう、届いたの!早いわねぇ!ありがとう」



「うす。じゃあ次の配達にいきます。じゃ。」



(これで9軒目…!! よし、件数じゃ大幅リードだな。

アイツらは、まだ屋上から動き出したばかりだろ。)



だが、その足取りは、次第に重くなる。

直線的に走り続けていたせいで、

同じ道を二度も三度も踏みしめていた。



「……チッ、またこの道かよ……!登り坂もあるし…」



息が上がり、握ったスマホに汗がにじむ。


(けどまだ俺の方が早い…! このまま押し切るぞ―)




――――――――――――――――





― 渋谷・センター街 ―



夕暮れの喧騒に包まれるセンター街。

人波をかき分けるようにして、まよいとナポレオンが戻ってきた。


まよいは肩で大きく息をしながら笑みを浮かべる。


「はぁ、はぁ…届け終わった……!

 ねぇナポレオン、これって、もしかして……」


ナポレオンは涼しい顔のまま、スマホを見た。


『……ふむ。予定よりも早い。

 補給線を一度に制した結果だ。よくやったぞ、まよい。』


まよいは頬を赤らめ、息を整えながら小さく拳を握る。


「……うんっ!」



その時――



『……来たか。』



赤い配達ジャケットをはためかせ、ルイが姿を現した。

額には汗がにじみ、息も荒い。

だが、彼は勝ち誇ったように顎を上げた。



「フッ……逃げ出さなかったか。

 どうだ?お前ら、まだ三軒目くらいだろ?」



まよいが思わず口を開きかけると、

ナポレオンが一歩前に出て言い放つ。



『否。我らの配達は、すでに全て完了している。』



「……なに?」



ルイの目が大きく見開かれる。



ピコンッ!(システム音)

《配達ブースト終了》



同時に、両者の画面に最終件数が表示される。



まよいのスマホには、**配達件数「24件」**の文字。


一方、ルイの画面には「11件」。



「なっ……!」



ルイの表情が、一瞬で凍りついた。



「この俺が……負けた……だと?しかも、大差で……!!」



周囲で観戦していた通行人たちがざわつき始める。



「え、あの赤い服の人より多いじゃん!」

「しかもすごく効率的に回ってたみたいだぞ!」

「女の子も雰囲気よかったしな〜!おつかれさん!」



まよいは思わず声を上げる。


「や、やった……!私たちの勝ちだよ、ナポレオン!」


ナポレオンは腕を組み、涼しい顔で頷いた。


『当然の結果だ。戦は速さで決まるものではない。

 兵を散らすのではなく、路を繋ぎ、補給を束ねる者こそ勝者。

 ……これぞ、真の“戦略的勝利”だ。』




ルイは拳を震わせ、歯を食いしばる。



「……速さこそが、俺のすべてだったのに……!

 ベルモンドの血を継ぐ俺が……またしてもナポレオンに……!!」



その声には、かつて死ぬ間際の祖父から刷り込まれた憎しみと、すっかり打ち砕かれた誇りとが入り混じっていた。


ナポレオンは、彼に歩み寄り、静かに言い放つ。



『ベルモンド……。どこかで聞き覚えのある名だ。

 だが、恨みを繋ぐ鎖は、もはや断ち切られた。

 歴史は繰り返さぬ。戦場でも、配達でもな。』



「くっ…俺の、負けだ…。」



ルイは悔しげに俯き、拳を握りしめた。



まよいは胸を押さえながら、まだ鼓動の速さが収まらない様子で呟いた。


「……ほんとに、勝っちゃったんだね。」


ナポレオンは夕焼けに染まる渋谷の空を見上げ、不敵に笑う。


『……勝利の味は、甘味よりも格別だな。』



「………クレープのことまだ引きずってるでしょ。」



『……………』




「ところで……さっきどこかのお兄さんは

 “俺が勝ったら”とか言ってたよねぇ?」


まよいはにっこり笑って、ルイに歩み寄った。



「…え、あっ……お、俺が負けたらどうなるんだよ……?」



ルイは今にも泣き出しそうな表情でまよいの顔を見つめる。


「何してもらおっかな。ナポレオン、何かいい案ある?」


『我は興味はない。ただ、非常に空腹だ。急げ。』


「あっ、そうだ。言いこと考えちゃった。」




――――――――――――――――




―牛丼チェーン店・ 吉田屋―



『牛丼よ。…………待たせたな。今日も会いたかったぞ。』


「いや、もう恋しちゃってるじゃん。」


「おい! なんで、お前らと牛丼屋なんかに……!!」


「いいじゃないの、負けたんだから!

 ちょっとくらい付き合ってよ。

 私1人じゃ、拾いきれないときがあるの!」




夕食時で賑わう店内。三人並んでカウンター席に腰掛け、

目の前には、湯気を立てる3つの牛丼が並んでいた―





――――――――――――――――




お客様の声(NEW!!)



男性(30代)


お隣さんと、そのお隣さんと同時に注文が届きました。

せっかくだからと3人で僕の家に集まって仲良く

食べることが出来ました。改めて考えてみても、3軒同時に配達できる人なんて、初めて見ましたよ。驚きです!!

でも、僕たち3人はそんな所ではなく、もっと別のところに

驚いていました。

そう…….、あの女の子の後をずっとつけている謎の軍人。

服装も独特だったし、何より顔が怖かったんだよ……ブルブル





――――――――――――――――




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― 新着の感想 ―
まだうちに商品届いてないんだが、、、
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