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おっさん、JK、DCと世界最恐のばーさんを添えて

作者: みかちー

 異世界からこんにちは、しがないおじさんです。スーパーで買い物をしていただけだと言うのに、気がついたら見知らぬ場所に立っていました。しかも周りにはついさっきスーパーにいた数人もいる。

 目の前には黒いフードを被った数人の人らしきものがザワザワしているし、なんとなくこれはもしかしてと思うようなことはあるけれど、おじさん口にしたくない。オカルトもファンタジーもお断りしたい所存です。

 でも社会人になると理不尽と理不尽のコラボなんてよくある話だから、つまりそういう話になるんだろう。今回に限っては異世界理不尽召喚といったところだろうか。勘弁してください。善良な一般人のただのサラリーマンになんていう仕打ちを……慈悲もないのか、なんてね。

 しがないサラリーマンのおじさん、異世界召喚でどうこうするというのは15年前にお願いしたかったです。きっとその頃だったら、うっひょ〜!異世界召喚だって?オラわくわくすっぞ!!って思えたよきっとね。

 そういえば、干してきた洗濯物は無事なんだろうか、とか、昨日の残り物は大丈夫なんだろうかとか、水道の蛇口ちゃんと閉めたかな、電気も消し忘れないかなとかどうでもいいことが頭に過ってしまう。現実逃避といえば現実逃避かもしれないが、一人暮らしの身としてはいつ帰ることができるか分からない以上、かなり深刻な問題なので仕方がない。帰ったら高額請求の電気代水道代とか嫌すぎる。昨日の残り物は冷蔵庫の中身諸共最終的には燃えるゴミの日行きで勿体無い。洗濯物……はもうどうしようもない。いやほんとマジでクソだな異世界召喚。これで帰る方法がないとか言い出したら、今日は厄日かもしれない。

 いやそもそも急な出張に出なければならなかったから、今日は朝から厄日だったわ。

 無意識にため息が出てしまったのだろう、それに気がついた他の制服を着た少年と少女、そしてお婆……マダムから視線を向けられてしまった。不安なのはみんな一緒だよなあ。

 本当にどうなることやら、と思ったところで何やら奥から騒がしい音が聞こえてきた。

 これはやっぱりテンプレ中のテンプレかなー、とうっすらと思う。おじさんこの手のカンは外したことはないんだ。

 



「ほほう、この者たちが異世界人か! して、こやつらのジョブはどうなっているのだ?」

 いえーいビンゴだドン! 明らかに一人体型がふくよかで派手で成金……じゃない、煌びやかな服装に王冠。ザ・権力者っていう中年男性がお供を引き連れてやってきた。軽く現実逃避していたら、いかにもなその男がジロジロ見てきて、内心であーあと思ったおじさんは悪くない。こっそり他の人を見れば明らかに嫌そうな顔をしていて、思うことは一致してるのがほっとした。だよねえ、あの王様っぽい人偉そうだし、こいつらを都合よく使い潰してやろうってもう態度に出てるよね。権力者って顔に出しちゃダメじゃないかなあなんて思ったけど、案外そういうものかもしれない。知らんけど。

 でもおじさんサラリーマンだから社内の偉い人のことは知ってる。案外異世界も似たようなものかもね。嫌な共通点だよ。

「陛下、まだ召喚が成功したばかりで、鑑定などはこれからでございます」

 おっと、ローブ軍団の中で少しローブに刺繍が入ってるローブ人間が進み出てきたぞ。ちょっと高そうなローブだ。身長はおじさんと同じくらいで体格はローブの上から見ても普通体型。声からするに男性っぽい。ローブ軍団のまとめ役かなにかかな。

 なぜだろう、滲み出るオーラのようなものがおじさんよく知ってる。なんというか、ダメな上司に説明しなきゃならない感じのやつ。で、その後報告した上司が不機嫌そうになるやつよ。

「ならばとっととせぬか!」

 男、もう面倒だからオッサンでいいや。オッサンはいきなりローブ人間を怒鳴りつけると、ローブ人間は頭を下げた。ほらやっぱりねー! 社会人だと割と見る光景だわ。嫌だね、異世界っぽいところに召喚されても似たような光景見るなんて。ため息出ちゃうよ。

「皆様方におかれましては、こちらの結晶に手を翳していただきたい」

 おおマジックかな。ローブ人間の手の上に水晶玉みたいな透明な石が急に出てきたぞ。さすが異世界。すごいな。おじさんちょっとワクワクしてきたぞ。

「では私から」

 こういうのは年長者からやっとくべき、とおじさん最初に手を翳してみたよね。い、いや知的好奇心的なものが疼いたとか、オラワクワクすっぞと思ったわけではないんだからね!

 だってさあ、おじさんの他に一緒にいるの、明らかに年下の学生二人におじさんより年配の女性だよ。実際、この水晶っぽい何かで何されるかさえはっきりと言われたわけじゃないのに。危ない目に遭うかもしれないしって思ったら、やっぱりおじさんからやるべきだと思うんだよ。まあおじさんはしがないサラリーマンだからね。勇者とかそういうのは遠慮したいなあ、なんて思いながらおじさんは手を翳したわけです。

 結果、水晶が輝くわけでもなければ、突然電流が流れてくるわけでもなく。なんなら魂抜かれるわけでもなかったわけで。そんなおじさんの様子を見て一緒にやってきた三人はちょっとホッとしたようで。それから三人も同じように水晶みたいな石に手を翳したわけです。


「……サラリーマン、女子高校生、男子中学生、マダム。それがこの方々のジョブになります」

 結果だドン!

 なるほどなるほどー、あの水晶玉(仮)はジョブを調べるやつだったんだ。RPGとかにあるジョブってやつかな。いやまんまじゃんって思ったおじさん悪くないよね。間違ってないしね。

「な、なんだそのジョブは! そのようなジョブなど聞いたことがない! 誰一人として勇者や聖女がおらぬではないか!」

 わあ、王様めっちゃぷんすこしてるー。まあ、期待していた鑑定結果誰一人として持ってないもんねえ。なにせ、おじさんはサラリーマン、女の子は女子高校生、男の子は男子中学生、妙齢の女性はマダム、だし。見たまんまだったわ。期待外れですみません、って頭下げたらどうなるのかなーって少しだけ思ったけどおじさんもう若くないからね、さすがにそんな煽るような真似はしませんよ。

「くそっ、このようなゴミなど喚び出したところで何の役もたたん! さっさと追い出せ!」

 王様ドスドス足音立ててさっさと出て行ったけど、このまま何も知らない土地にポイ捨て? いやたしかにやりそうな感じの人だったけど。あのザ・悪役な出立の王様だもの。何かしら全員思うことがあっただろうなあ。

 だってさあ、水晶(仮)に手を翳したときに頭の中に響いたよくわからない声がそうしろっていうからさあ。すまんの。さてこれからどうなるのか。どうするか考えないと。

「あらあら、困ってしまったわ。わたしたち何の理由もなくこちらに来させられて、このまま放り出されてしまうの? まだ小さい子供二人になんの力もない老人、それをこのかた一人に押し付けようなんて。せめて当面の生活費くらいは支援いただけないかしら? そちらのご都合でわたしたちは呼び出されたようですし、それくらい人としての情けはあっても良いかと思うのです」

 マダムが残っていたローブの一人におっとりとした声で問いかける。マダムの言うのは尤もであり、最低限の支援を望んでも許されるべきだ。勝手に召喚して必要なかったらポイ捨てなんてさすがに人としてどうかと思う。あの王様には通じないかもしれないけれど。

 まあ通じていたらそもそも異世界召喚なんて突飛なことしないだろう。いや、切羽詰まった人間は何かするかわからないから、それはないか。舅臍猫を噛むって諺あるくらいだし。

「……少し待っていろ」

 例の刺繍いりローブが部屋を出ていくと、マダムはまだ残っている他のローブたちに声をかけた。

 おっと意外。まさかの実行者っぽいローブが動いたぞ?

「ごめんなさいね、わたしたちが期待通りではなくて。この後あなたたちも大変でしょう? でもあなたたちは結果はどうあれ、ちゃんと役割は果たしたのだから自分の力は大事にしなさいね」

 マダムの気遣いはこんな所にも。さすがマダム。おじさんまだまだだね。

 それにしても、こういうのにときめいてワクテカしそうな学生さん二人はずっと黙っているけれど、大丈夫かなあ。この手の話って最近の流行りじゃなかったっけ?

 

「これで当面はどうにかなるだろう」

 時間としては五分程度くらいだろうか。しょうもないことを考えている間に、刺繍ローブが戻ってきてグローブに包まれた手には小さな皮袋四つ。それを一人一人に渡されて、中身を確認したら金貨らしきものが何枚も入っている。質量保存の法則ガン無視の、例の何とかバッグというやつかな。小さい巾着もどきのそれは財布代わりになりそうだ。

「一人金貨50枚分だ。これくらいあればこの国……この世界では五年くらいは過ごせるはずだ。……悪いことは言わない、その金を持って他の国に行け」

 おっと。この刺繍ローブの男はどうやらちょっとおじさんたちに同情してくれたようだ。五年分ってだいぶ太っ腹じゃない? 刺繍ローブ大丈夫? なんかすごい巾着に金貨五十枚ってあとで王様に怒られない? いや、遠慮なくありがたくいただきますけれど。よし、これから彼のことは刺繍ローブくんと呼ぼう。

「ありがたくいただきます。ついでに何なんですけど、どのあたりがおすすめとかあります? あとよろしければ今後のアドバイスとか、今夜の宿のおすすめ教えていただけるととても助かるのですが。いえね、国を出ろと言われましても、ご存知のようにこちらの常識など我々には全くないものでして」

「……」

 刺繍ローブくんがめちゃくちゃ深く深ーくため息ついちゃった。いやあ、でもさあ、現実問題として右も左もわからないままにいきなり城から追い出されたとしてどうしろとって話じゃん。せめて雨風凌げて、休めるところに行かなきゃ他国に行くにしたってどうにもならんて。ついでに最低限の知識がないのに彷徨くのなんて危険極まりない。地球だって、何なら平和ボケした日本だって最近ちょっと物騒だったけれど、あの程度の物騒さなんて海外ではデフォルトだ。押し込み強盗、カージャックなんて日常茶飯事な国だってあるんだから。それに世界には紛争を抱えている国だってある。人種問題や宗教問題様々あるのだから、そんなところに知識ゼロで突っ込んだらそれこそ命なんてあっという間に失う。異世界なんてそれこそ一寸先は闇と考えたほうがいい。

 まして、この国のトップであるあのオッサンが異世界人の命を消耗品のような扱いである、という傲慢さが滲んでいて……いや結局最後は隠しもしなかった。そのような権力者が治める地が他にもあってもおかしくはない。日本にはない階級制度だってきちんと学ばなければ、身分などないおじさんたちなど、いつ斬られたっておかしくないのだ。

 まあ、そう思いつつもおじさんが図々しく聞いたせいかローブ軍団が騒めいけど、知らなーい。うるさいローブ軍団も刺繍ローブくん以外一度見知らぬ異世界召喚されてみるといいよ! よし、おじさんが心の中で呪っておくね! 効かないかもしれないけど気持ちは大事だよね! ついでに禿げるように、大事な時息子さんが役に立たないようにもお祈りしておくね! ふはははは、見知らぬ異世界にぼっちで放り込まれるか、男としての矜持を失うといい! 異世界人こっわ!! まあそんな恐ろしいお祈りしたのは、しがないおじさんなんですけどね。

 まあお気持ちだけなので、就職活動の一環であるお祈りメールくらいの小さなお祈りだよ。可愛いもんだよね。まあ、それが後々とんでもないことになるなんてこの時おじさんは思いもしなかったのである、なーんてね。



「うーん、本当に放り出されたわけだけど。とりあえず、自己紹介とか今後の話とかそういうのは今日の宿を見つけてからでどうかな?」

 あれからなんだかんだで、面倒見の良いのかわからない刺繍ローブくんはオススメの宿を教えてくれた。ここだったら暫く宿泊しても大丈夫だろうってことで。それからすぐにおじさんたち全員お城から連れ出されて城門前にいるわけだけど。

 とりあえず他の三人に提案してみた。だってもうそれしかできないし。落ち着いて話をするにしても座れる場所で、かつ、ある程度プライバシーの確保ができるところがいいし。

「そうねえ。いつまでもここにいるわけにもいかないし。あなたたちもいいかしら?」

 マダムが振り返って学生二人に聞いてくれる。おじさんが聞いてもいいけど一歩間違えたら案件だしね。

 二人とも頷いてくれて刺繍ローブくんの教えてくれた宿に向かってみる。あのローブくんの考えることはよくわからないけれど、きっといい人だと思いたい。まあ違ったらさっきのおじさんのお祈りが届けばいいよ。

 


 城門からまっすぐに大通りを南に向かうと、刺繍ローブくんのいうところの商業区っぽい所に出た。徒歩で大体十分くらい。途中に門がいくつかあったけれど、その区画は役所や高貴な身分の方たちの住む住宅街があるらしく、一種の境界のようなものなんだろう。庶民の暮らすようなエリアはそのさらに外側。

 教えてもらった目印を頼りにオススメされた宿に着くと、刺繍ローブくんが何かしてくれたのか今日から一週間で部屋をとってくれていた。仕事早いというか、そこに裏はあるのかさっぱりわからない。でも疑ってばっかりでも申し訳ないので、ここは厚意に甘えておくとしよう。王様がアレだけど、全てがああいう人間ばかりじゃないはずだ。

 ただなあ、なんであの刺繍ローブくんはあの王様に仕えているんだろうな。ローブくん、裏がなければ割とまともっぽい人だと思うんだけど。まあその辺りは刺繍ローブくんの人生だから、あの人自身が考えることだからどうでもいいけどね。

 さて宿の人に部屋を案内してもらったわけだけど。何か思ってたのと違った。いや部屋が男女別れた二部屋か各々で一部屋ずつとか思ってたんだけど、いわゆるファミリールームみたいな部屋だった。部屋の中にリビングがあってそこから個別の寝室につながっているタイプの。スイートに近いといえば近い。

「ずいぶんいいお部屋ねえ」

 おっとりマダムが部屋を眺めて多分全員が思っていたことを口にすれば、部屋まで案内してくれた従業員が首を振った。

「確かに一般の客室とは違いますが、このタイプのお部屋は冒険者パーティで借りることも多いのです。大きめの都市や各国の冒険者ギルドや商業ギルドが運営している宿であれば大抵ありますよ。部屋のランクでという意味であれば、閣下からのお手配でしたのでランクは当宿の二番目に良いお部屋をご用意させていただきました」

「あらそうなの? それはありがたいわ」

 マダムの言い方だと、おそらく刺繍ローブくんらしい閣下の気遣いにも宿の気遣いにもどちらとも取れる。ニコニコと微笑んでありがとう、と言われたら宿側にしたら安堵するだろう。そのままマダムに部屋の案内と食事について説明すると部屋を出ていった。学生二人はなすがままって感じで壁際に立ってた。おじさんはおじさんだからね、とりあえず目の前にあったソファに座るよね。あの刺繍ローブくん閣下って呼ばれるほどの地位にあるんだ。へー。ふーん。なんかモヤモヤするね。

「さて、ようやっとこうしてわたしたちだけでお話しできるようになったのだけれど……まずは自己紹介からかしら。ほら、あなたたちもこっちに来てお座りなさい」

 マダムに手招きされて学生二人も空いてるソファや椅子に座る。何気に二番目にいい部屋ってだけあって座り心地のいいソファだ。このままダラダラしたいけれど、そうそう自己紹介。さっき言ったねそういえば。

「わたしは杉本弥生っていうの。しがないおばあちゃんよ。年齢は乙女の秘密なの、よろしくね」

 おっとりとマダムこと杉本弥生さんが自己紹介を始める。女性の年齢は永遠の秘密なのはしょうがない。世界の最大の秘密だからね。うん。

「あー、俺は三村暁斗。しがないサラリーマンのおじさんだよ。いやあまいったね。実は今、出張中でさ、これって出張先で行方不明騒動にならないかなって思ってる社畜だよ。年齢? おじさんっていう生き物はただでさえデリケートな生き物だから、そのあたりは永遠の二十歳にしておいて」

 えへって可愛くジョークを交えて見たけど学生二人にドン引きされちゃった。いやでも事実だし。社畜だし。しがないサラリーマンなのは本当なんだよ。そしてマダムもおじさんも、年齢問題は繊細かつ扱いは慎重にしないといけない問題なんだよ。

「そんじゃ次私ね! 私は伊藤皐月だよー! 高校通ってる。さっちゃんもしくはサツキって呼んでね、よろしくー」

 ハイハイ、って手を挙げて名乗ったのは女子高校生の伊藤皐月さん。見た目完全にギャルファッションの女子高校生。

「ぼ、僕は渡辺凛。中学生です。よろしくお願いします」

 最後の一人、渡辺凛くん。おずおずと自己紹介したけれど、まだ中学生か。どこか不安げなのは仕方ないよね。突然訳のわからない世界に飛ばされちゃったし。

「それでこれからのことなんだけど。さっきの刺繍ローブくんの話どう思う?」

 マダムがじっとこちらを見てくるから仕方なく思っていたことを口にした。あ、間違った。これ大人の俺とマダムで話するべき話題だった。でもまあ口にしちゃったしなー。

「えー、なんか裏ありそうー。ウチらに害を与えてくるかはわかんないけど」

「僕もその辺りの意図はわからないです。ただ何となくですけど、王様っぽい人と繋がりがあるような気がしました」

「あらそうなの?」

「はっきりとは言えませんけど、あまりいい繋がりって思えないですけど」

「そういうカンは結構大事だぞ」

 渡辺凛くんが恐る恐る口にした印象は恐らくそう間違ってないはずだ。伊藤皐月さんの裏がありそうという言葉もおじさんが抱いていた印象とほとんど変わらない。

 それにおじさん少し不思議な体験しちゃったしなー。まさにSF体験だけに。っていうつまらないネタは置いておくとしても、水晶玉のジョブ鑑定の時に頭に響いたような声。あの時からどうにも視るものが変わったというか。

「おじっち実感籠ってんね?」

「おじっち……?」

「おじさんって女子高生から言われて悲しくない?」

「そこは、三村さんとか暁斗さんとか色々あるでしょうよ」

「だからおじっち。で、私のことはさっちゃんとか皐月って呼んでね、おじっち」

 すげえおじっち呼びの圧が強え……。おじっちになんの拘りがあるというんださっちゃんよ……。確かにおじさん呼びはぐっさりくるけどさあ。でも三十過ぎた男は須くおじさんなんだと思う。おじさんもう四十路過ぎてるからおじさんでもいいけどさあ……やっぱりこのままおじっちにしてもらおう、うんそうしよう。おじさんのガラスの繊細なハートは、女子高校生や男子中学生におじさんって呼ばれたら粉々になっちゃうよぴえん。

「あら、じゃあわたしは暁斗くんって呼ばせてもらうわ。それからさっちゃんに、凛くん」

「ぼ、僕はみなさん年上なので、弥生さん、暁斗さん、皐月さんって呼ばせていただいてもいいでしょうか!」

 おっとりと弥生さんがそう告げれば、凛くんもそれぞれの名前を呼ぶ。なぜだかここに変な仲間意識が湧いたような気がしなくもない。そういう雰囲気に持っていったのは間違いなく皐月嬢のお陰かもしれない。そのせいで少なくとも悲観し絶望するような思いを抱いて、なんていう鬱ルートには突入していない。

 だってさ、異世界召喚され、当面の生活資金を受け取ったとはいえ右も左も全くわからない世界に放り出されて、元の世界にだって戻れるかさえわからない。絶望の淵が近くに忍び寄っていたっておかしくないのだ。

 問題の先送りと言われたらそこまでだけれど、それでもネガティブに陥っていても仕方がない。それにこれからどうなるかさえ未知数だ。ネガティブになるのはいつだってできる。

「おっけー。リンリンよろー。ばあばとおじっちも!」

「あらあら、若い子は元気ねえ」

 うふふ、と孫を見るような眼差しで弥生さんは二人を見つめる。ばあば呼びありなのか、とちょっぴり思ったのをおじさんは懸命にも口にはしなかった。だっておじさんがばあばなんて呼んだら、とんでもないことになりそうなんだもん。おじさんこういう直感は本当に外さないんだ。

「でさ、呼び名もだいたい決まったところで! なんかさージョブ? っていうの? の時にウチらのこと学生とかサラリーマンとか言ってなかった?」

 皐月が鑑定の時のことを持ち出す。そう、皐月がおじっち呼びをする前におじさんが考えていたことである。そう、おじっちの圧が強過ぎでどこかへいってしまったジョブのSF体験である。

「あれなあ……俺あの時最初に手を挙げたろう? あの時なんか知らない誰かに、サラリーマンですか? って聞かれて、はいそうです、って思ったんだよなあ。で、あちらはマダム、女子高校生、男子中学生ですか? ってその次に聞かれたから、多分恐らく、って思ったんだよ」

 いやあ、アレ本当に誰だったんだろうな。

「えぇー!? じゃあおじっちのせいでジョブ? がそうなったの!?」

 皐月が身を乗り出しておじさんに詰め寄ってくるけど、結果として良かったのか悪かったのかおじさんにもわからないよ。でもさあ、あの王様の所でどうこうするよりは、こうして結果オーライだったけど出奔できるのならそれなら良かったんじゃないかなあっておじさんは思うのです。

「えっ、じゃあ本当は僕たち勇者や聖女とかだったかもしれないってことですか?」

「いや、流石にそれはおじさんもわからないな。心の中の返事しただけだし」

 おじさんだってあの不思議体験は初めてだからよくわからないよ、凛くんよ。しかも君ちょっとがっかりしてない?

「暁斗くんはその声、のようなものが聞こえたのはその時が初めてかしら?」

「そうですねえ。間違いなく、初めてです。あの不思議な声は一体なんだったのか……って、えぇ……」

 弥生さんに問いかけられて頷いたら、いきなり目の前に画面が現れた。

「えっと、聞かれたからには答えてあげるのは世の情け、愛と正義の味方泣く子も商人も黙る鑑定・看破・隠蔽・偽装の商人泣かせのスキルレンジャーである! ……なにこれ」

 メッセージウィンドウのようなところに出てきた文章を読み上げると、なぜだろう、このどこかポンコツ臭のするメッセージは。しかもレンジャーってなんだ。戦隊モノかよ。なにがどの色だよ。隠蔽と偽装のどっちがブラックだよ。そこにヒロイン枠のピンクはいないのかよ。

「多様性につき現在ピンクはおりません、ってせめてヒロイン枠くらい用意しろよ、切ないだろ!」

「おじっちなに見てんの?」

「知らん。なんか近未来ネタでありそうなメッセージウィンドウが出てきた。皐月には見えないか?」

「見えないよー。おじっちの頭が可哀想になったのかと思った」

「おじさんまだ髪の毛フサフサだから。おわっ!」

 皐月に視線を向けるとメッセージウィンドとは別のウィンドウが開く。そこには皐月のステータスのようなものが表示された。そう、よくあるRPGにあるあいつだ。

「……スキルレンジャーすげえ」

「も、もしかして……!」

 先ほどからソワソワしている凛は恐らくゲームを嗜むタイプなのだろう。鑑定・看破・隠蔽、と言ったときに少し表情が綻んでいた。そうだよね、君くらいの年齢だったらわくわくしちゃうよね。おじさんだってちょっと心ときめいたもの。


 サツキ・イトウ

 ジョブ:女子高校生(隠蔽:剣聖)

 称号:学園の聖女、バトルマスター

 スキル:聖女の微笑み、聖女の慈悲、格闘術、剣術、弓術、馬術、護身術

 ギフト:異世界を渡るもの

 備考:現在隠蔽スキルによりステータス隠蔽、偽装スキルによってジョブを偽装しています

 よって、こちらは簡易ステータスとなります


 隠蔽・偽装スキルを解除しますか?

 ▶︎はい

  はい(条件付け解除)

  いいえ


 おっと。偽装スキルの影響が出ていたのか。これってアレだよなあ、おじさんが返事したからだよなあ。しかも解除を問われてるとしても条件付けってあるぞお。

 これはもしかしてというやつではないですか。

「あー……偽装と隠蔽でステータス参照不可、ジョブも隠されてる状態らしいぞ。解除するか?」

「うーん? それって私だけに掛かってるわけじゃないよね? おじっちも?」

「多分? きっと? そうだと思うぞ」

 最初に簡易ステータスっぽいものを見たのは今初めて起きたことなのだ。おじさんだってどうなっているかなんて知らない。試しにじっと自分の手のひらを見つめてみると、先ほどと同じようにウィンドウが現れた。


 アキト・ミムラ

 ジョブ:サラリーマン(隠蔽:賢者)

 称号:世界を股にする商人、雑学王

 スキル:鑑定、看破、隠蔽、偽装、叡智、格闘術、銃術、護身術、操縦術、交渉術、料理

 ギフト:異世界を渡るもの、世界を知るもの

 備考:現在隠蔽スキルによりステータス隠蔽、偽装スキルによってジョブを偽装しています

 よって、こちらは簡易ステータスとなります


 隠蔽・偽装スキルを解除しますか?

 ▶︎はい

  はい(条件付け解除)

  いいえ


「俺にも掛かってたわ」

「それじゃあわたし達も掛かってるわねえ」

 弥生さんがしっかりとおじさん見ながら断定するけど、間違いなく掛かってるね。むしろそれで掛かってなかったらおじさんびっくり。簡易版ってことは解除したら隠されている能力とか出てくるってことだよねえ。何せジョブのところがなんだかおじさんも大概だけど、皐月も剣聖ってなってるし。聖女って称号にスキルがあるけど聖女じゃなくて剣聖ってどういうこと? そもそも聖女なのにバトルマスターの称号もあるし?

 おじさんは自分の人生を考えたらあーね、でわかるんだけど。女子高校生が聖女でバトルマスターで剣聖とは? #聖女とは #バトルマスターとは #剣聖とは ってタグ付けしたくなっちゃうよ。

「あの、僕はどうなっているんですか?」

 おじさんの内心はともかく、ちょいちょいさっきから気にしていた凛がちょっとだけ堪えきれない期待を滲ませて聞いてくる。これはどうなっている、というのはきっとジョブだよね。

「それってジョブがってことだよな?」

「はい!」

 偽装されてるって聞いて少し期待してるんだろうね。いいね若いって証だよ。おじさんぶっちゃけ賢者じゃなくて商人くらいが良かったよお。何事も平凡が一番大変だけど一番平和なんだよ。四十路を過ぎると平凡が一番いいっていやでもわかるよ。おっとこれを口にしたらすごい恨まれそう。

「口にしていいなら言うけど……」

「お願いします!」

 おおう、随分と食い気味できたね。いやまあ気持ちは分からんでもないけども。

 おじさんもきっとあと二十年くらい若かったら同じ反応だったよ。


 リン・ワタナベ

 ジョブ:男子中学生(偽装:魔法使い)

 称号:純潔なるもの、苦労人

 スキル:勤勉、変装、絵画技術、描写技術、体術

 ギフト:異世界を渡るもの

  備考:現在隠蔽スキルによりステータス隠蔽、偽装スキルによってジョブを偽装しています

  よって、こちらは簡易ステータスとなります


 隠蔽・偽装スキルを解除しますか?

 ▶︎はい

  はい(条件付け解除)

  いいえ


「魔法使い……だよなあ。おじさんその歳で魔法使いじゃないって言われたらちょっとショックだよ……」

「魔法使い……! って、あのその、それは……!」

 まだ中学生だからちょっと早いとおじさんは思うの。彼女はいてもいいと思うけど。おっとこれはセンシティブ扱いだったな、やば。セクハラの一種じゃん。いくら思ったからって口にしたらダメだ。

「凛、申し訳ない。デリカシーのないことを言った。二度とこのような事は口にしない」

「あ、いえ、そんな気にしないでください。そのそれにその通説は三十過ぎたらって話ですし! 魔法使いだって分かっただけでも嬉しいので」

 まあ確かに。三十過ぎたら魔法使いになるっていうアレは当分先だからな。未来は誰もわからないし。ここは俺の謝罪を受けてくれた凛が気にしないと言ってくれた以上、おじさんは二度と再発防止に努め、これ以上は触れないようにしよう。一応、おじさん賢者だけど、どちらかというと遊び人経由の賢者だからね。賢者の育成ルートは魔法使いじゃないんだなあ。

「あら? それならこの流れならわたしも見てもらうべきかしら?」

「いやあ、そこはご自由にとしか……女性のプライバシーですし」

 マダム、何気にジョブが気になるところだけれど、かといってホイホイと勝手に見ちゃうのはなあ。ほらよく言う好奇心は身を滅ぼすってやつ。

「あらあら遠慮しなくていいのよ。わたしたちもうここまできたら一蓮托生、地獄の果てまでって言うようなものじゃない」

「いやあ、いつの間にそんな事になったんでしょうね……ははは」

 うふふ、あはは、と笑いながらきっとマダムから逃しやしねえぞって気配がしてる。同郷だとしても、ずっと一緒って言う関係を築くだけの期間なんてなかった、ただの見知らぬ他人だ。これからそういう関係を築いていくと言うのなら仕方がないと思うしかない。

 おじさん長いものには巻かれて、大きな流れにはなすがまま流されるタイプでいたいんだ。



 ヤヨイ・スギモト

 ジョブ:マダム(偽装:最凶のババア)

 称号:歴戦のマダム、女傑

 スキル:家事、棒術、体術、護身術、剣術、格闘術、操縦術、交渉術

 ギフト:異世界を渡るもの

 備考:現在隠蔽スキルによりステータス隠蔽、偽装スキルによってジョブを偽装しています

 よってこちらは簡易ステータスとなります


 隠蔽・偽装スキルを解除しますか?

 ▶︎はい

  はい(条件付け解除)

  いいえ


 ????

 あれ??

 おかしいですね。なんかジョブの部分がとっても不思議なことが書いてあるような……。

 思わず目を擦って何度もそのウィンドウを見つめ、それから目の前でおっとりと微笑んでいるマダムと見比べてしまう。

 最凶のババアって何。おっとりマダムなのにそれはガワだけってこと?

 うわああああ、やっぱりおじさんの直感は正しかった! 逆らったらダメなやつ〜〜!!

「何、おじっち目を擦ってばっかだけど。ばあばがどうかしたの?」

「い、いや、な、なんでもないよ」

 その前に最凶のババアってジョブ何。普通じゃないよね、どう考えても。これってどこかで調べられないの? 鑑定、とは違うだろうし……ってなんかウィンドウ内のジョブに赤い光が出たけどこれどうすればいいの。仕様がさっぱり分からないからとりあえず手を伸ばしてみようとしたら、小さな注釈が出てきたぞ。

「えぇ、ユニークジョブ……?」

「面白いジョブってこと?」

 皐月が首を傾げながら問いかけてくる。ユニーク、って事は大抵レアな感じだとか個人固有のジョブって意味だけど。歴戦のマダム、って称号もなかなかな称号も持ってるマダムだからなあ。個人固有って事なんだろうかね。

「大抵こういうのは珍しいって感じのジョブに使われることが多いんですが……」

 おずおずと凛が皐月に説明している。グッジョブ凛。おじさんこの手の事は嗜むくらいでそこまで詳しいわけじゃないんだよね。そういうものがあるんだ、くらいの軽い認識っていうか。

「それで結局何だったのかしら?」

 若い二人が話し合ってれば、当の本人はまあ俺に聞くよね。そもそも俺の鑑定が本題だったわけだし。

「あの、怒りません? けしてこれは俺がどうこうとかそういうわけではなくてですね……」

 そう、ジョブの確定はおじさんが決めたわけではなくて、と一応断っておく。俺の本意ではない、とちゃんと言っておかなければ後々責められても困ってしまう。それにジョブっていうのだって誰が決めたのか、という話であって俺ではないのだと精一杯アピールしておかないと。

「あら、いくらなんでも暁斗くんのせいなんて言わないわよ。その感じだと、あまりいい意味があるわけじゃないのよね?」

「はい、まあ。そういうところです」

「元の世界でも散々色々あったから、今更なんだろうと構わないわ」

 さすが歴戦のマダム。覚悟が決まっていらっしゃる。おじさんなんてやっぱり青二才だわ。まだまだだね。おじさん結構修羅場潜ってきたけど、マダムからしたらおじさんなんてちょっと修羅場を齧ったお子様程度かもしれないなんて思っちゃったわ。

「……あの、本当にこれは俺の本意ではなく。隠されていたジョブは、最凶のババア、です……」

 おじさんが悪いわけじゃないけど、すごく最後は尻窄みになってしまったのは仕方がない。他人様に対してババアってさすがにいうのは失礼すぎて気が引ける。小さな子ども、それも悪ガキと呼ばれるような年齢だったらそりゃあ他人に対してババア、なんていうかもしれないけれど。でも俺と弥生さんはほんの少し前に出会ったような見知らぬ他人である。そのような人に、いい大人をした男がいう単語ではない。

「あらあらまあまあ……、うふふ、最凶のババアなんて、いいじゃない」

「えっ、ばあば、それでいいの!?」

 皐月も驚いたように声を上げている。おじさんもそう思うよ。俺が自分でおじさんっていうのはありだけど、他人からオジサンだのオッサンだの言われるのは嫌だなあ。いや三十路過ぎた男は中年なんだからおじさん呼びは当たり前なんだけど、でもやっぱり気持ちはいつだって若いつもりだから、時として事実は残酷なのをわざわざ教えてくれなくてもいいと思うんだ。

「うふふ、いいのよそれで。そのうち皐月ちゃんもわかるようになる日がくるわ」

 なんだろう、おじさんとっても背筋がゾクゾクしちゃうよ。底なし沼のような踏み込んだらやばい気配がビシビシするよぉ。よし、ここは深掘りするのはやめよう! 

「あー……それでなんだけど。俺を含めて全員偽装と隠蔽スキルを解除するかって聞かれてるんだが……、それも限定的解除も可能みたいで。どうする?」

「あの、偽装今すぐ解いてしまうかは、まずは身分証がどうなっているのか等確認した方がいいと思います。この国で召喚された際の鑑定のこともありますし」

 凛がおずおずと意見を出してきたけれど、そんなに控えめじゃなくてもいいんだぞ。まあ出会って数時間だから仕方ないか。仲良くなったらもう少し遠慮がなくなるといいな。

「身分証つくるならギルドだったっけ?」

 刺繍ローブ閣下から王都を出るための基礎知識はざっと聞いた。神殿に行けばスキルが確認できるというし、各種ギルドに行けば身分証を兼ねたギルド証が発行される。ギルド証は世界共通で、国境を越える際の手続きや大きな街に入る際に身分証として使えるらしい。パスポートみたいなものだな。ちなみにローブ閣下のおすすめは、まずは冒険者ギルドで登録して落ち着いた先で自分に合ったギルドに登録するといいと言っていた。冒険者ギルドの登録が文字書き読みができるなら1番簡単だからだとも。

「とりあえず、ギルドの前に神殿に行くのもありっちゃあり。それは明日以降でいいとおじさんは思います。治安とかよくわからないから、夕飯時に軽く聞いた方がいいな」

 手荷物に何があるか確認したり、ちょっと思いついたこともしてみたい。それに正直いうと精神的疲れたのもある。少しゆっくりしたいし。

「そうね。私も明日朝から動いた方がいいと思うわ。まずは今日はゆっくり体を休めましょう」

 年長組のおじさんとマダムが休むことを選んだからか、学生2人も頷く。本当は少しは外を見て回りたいんだろうが、今日は諦めて欲しい。




「アー、疲れた」

 部屋割りで少し時間が取られたものの、俺は振り分けられた部屋のベッドに突っ伏した。日本で暮らしていたようなベッドではないが、文句は言えない。雨風凌げて個室であるだけでもよしとしなければ。

「それにしても、異世界召喚とはな……」

 正直なところ厄介だなと思っている。地球に帰れるかは未知数だし、そもそもなぜ何の目的があって召喚したのかさえわからない。流石にあの刺繍ローブ閣下は教えてくれなかったが、あまりいい理由では無さそうだ。

「身包み剥がれて殺されるよりはマシか」

 異世界の人間の持ち物を奪われることなく、ある程度の補償も得たのは運が良かったからだ。あの王様がジョブが偽装されていたから興味を引かなかったのもあるだろう。

「そういえば、何持ってたんだっけな」

 通勤用の鞄を開けてベッドに並べる。財布に社員証、ノートパソコンにハンカチ、デオドラントシート、マスクに充電器、ティッシュ、防災ポーチ。スーツにはスマートフォンと名刺ケース、ハンカチ、タブレット菓子。

「出張用のキャリーケースあったら便利だったなー。あー、そう言えばあれホテルだわ」

 これでは本当に出張先で行方不明になったということになりそうだ。本当に厄介なことになったもんだ。はぁ。

「あ、そういえばスマホとかどうなんだ?」

 ノートパソコンもスマートフォンもバッテリーはまだ残っている。起動してみたらもしかしたらなにか起きたりさないかと思いながらノートパソコンを開いた。

「スキルレベル不足につき使用できません……? えっ、スマホは? おっ、開けた」

 ロック画面が解除され、見慣れたアプリが並ぶホーム画面になる。だが電波は当然圏外だ。

「……やっぱり駄目だよなー。いや、でも待てよ? そもそもオカルトもファンタジーも元を正せば似たようなもんなんだし、異界に連れ去られても匿名掲示板にはアクセスできたんだから、俺のスマホちゃんだってやればできるのでは?」

 そう、オカルトができるならファンタジーだって頑張ればいけるはずだ、スマホちゃんがんばれ♡がんばれ♡君ならできるよ! パソコンみたいに最初は機能制限あってもいいから、ぐー先生とペティア先生と可能なら異世界配達可能なゾンパイセンは使えるようになって!!

 ほらあ、他のラノベ小説だってできるんだからあ。おじさんのスマホちゃんもできる子だから!!ガラケー時代だってきさらぎ駅からちゃんねる掲示板にアクセスできたんだぞ。おじさんのスマホちゃん最新の機種変したばっかだから!!どうぞよろしく、スマホちゃん!!



「おじっちー、そろそろ夕飯に行かないかってばあばがー……って何してんの?」

「ふむふむ、まずは神殿に行けばいいのか。へー」

「暁斗さん、何見てるんですか?」

「スマホのググれるヤツ」

「は? スマホ使えるの? マ??」

 だよね、普通は使えないと思うよね。でもよく考えたらオカルトもファンタジーなんだし、オカルト定番某掲示板に書き込みできるならファンタジーだって出来てもいいはず頑張れスマホちゃん!て念じながらスマホ使ってみたら使えちゃったんだよね。

 まあスマホちゃんのちょっといいところ見てみたい〜とか、めちゃくちゃ頑張ってとか、使えるようになってから我に帰るとやべー奴一歩手前みたいな感じでスマホ握ってたけど。でもスマホちゃん、マジ頑張ってくれたっぽい。さすが最新機種のスマホちゃん。お高いだけある。

 いきなり勝手に再起動したと思ったら、機能制限はあるもののぐー先生にペディア先生に異世界配達仕様のゾンパイセンが使えるっぽい。試しにパイセンアプリから下着買ったら買えたのは今日一番のクライマックスだとおじさんは思う。しかもチャージ機能あるし。ただ購入できるものについてはやっぱり制限はあったけど。この世界にあっても問題はなさそうなやつ、っていうの?

 そういうのは買えるけど、電化製品とかは表示はされても、現在注文はできません、ってなっている。

 そこは売り切れとかじゃないんだ、とは思ったけども。現在ってことはいつかは買えるんだろうかね?

「えー!? 私も部屋でスマホ使ってみたけど駄目だったんだけど!! ねーねにも連絡できないし、SNSに異世界飛ばされたんだけど草って呟くこともできなかった」

「僕もです。連続ログインボーナスが途切れてしまう……」

「わたしもダメだったわ。宅配便の配達指定日変更もできなかったわ」

 3人も試してみたんだな。まあ試してみるよな、駄目元で。

 ちょっと一部に問題そこかよ、ってのはあったけど。いや配達日変更は確かに大事だわ。

「俺の荷物の中にパソコンがあったから先に開いてみたんだけど、そっちはロック画面のままでスキルレベル不足で使用できませんって表示されたんだよ。じゃあスマホはって開いてみたらロック画面からホームに行けた。三人はそこまでいったか?」

 首を横に振る三人。やっぱりおじさんが使えたのはあの狂気に満ちたがんばれ♡が効果あったのだろうか。

「えー、おじっちなにしたらそうなるの? うらやまなんだけど!」

「……聞いても引かない?」

「何かしたんですか?」

「したというか、なんというか。我に帰るとだいぶヤバいなって思う程度にはしたかも」

 部屋に入って約1時間半のうち1時間はスマホを握りしめてがんばれ♡ってしてたからなぁ。あっ、やっぱこれドン引き案件だ!

 でもなあ。本当にがんばれってしたら使えたしなあ。

「えー、おじっちなんか人に言えないようなヤバいことしたの?」

「いや、ただ単にスマホ握りしめて必死にお祈りお願いおねだりする感じでずっとスマホがんばれ♡って言い続けてた」

 最後はあれだ、ちょっとスマホちゃんのいいとこ見てみたーい、とかどこのシャンパンコールだよって思いながらスマホ握ってた。いやでも最後これで再起動したからね。

「……えぇ……」

「だから聞いただろ!? 引かないかって!」

 いやあ、思い返すと異世界召喚ハイだったんだよ多分。ふふっ。だが、まあおじさんドン引きされてもいい、スマホちゃんが使えるんだし!!

 開き直って使えるスマホ機能使っていくんだもんね!!そう、これは、ドン引きされたって文明の利器が使える方が勝利。たとえおじさんの狂気だとしても。

「あれ……?」

 こういうのは使ったもん勝ちなんだよぉ!って思っていたらさっきのウィンドウが勝手に開いたぞ。

 

 スマホちゃん

 暁斗の並々ならぬ願いが込められた最新型スマートフォン

 暁斗の狂気によって呪われているもののスペックは落ちていないが異世界につき機能制限はある

 優秀なAIが若干鬱気味ではあるがバッドステータスにはならない

 安心してください、正常です


 安心要素どこだよ。いや、無機物を追い詰めたお前がいうななんだけど。まあそこはおじさんの反省点だけど正常に使えるならまあいいか。すまんの、スマホちゃん。おじさんちょっと異世界に召喚されたせいでちょっととち狂ってたよ。でもそんなおじさんのために起動してくれてありがとう。


「いーなー! 私も使いたい! 使えるようにならない?」

「SNSは無理っぽいぞ。あ、でも連続ログインは大丈夫そうだけど、三人のスマホが使えるようになるかどうかについては俺にはわからないなあ」

 なんというか、おじさん的にはおじさんの狂気も原因だとは思うけど、職業もしくはスキルが影響あるような気がするんだよな。ほら、おじさん一応賢者だし、叡智あるし、ギフトもあったし。どれが影響してるかはわからないけどね。

「うーん。スマホちゃんどうにかならない?」

 一応ダメもとで聞いてみた。流石に万能までとは言わないからさあ。ってちょっと? かなり? 結構? 無茶振りしてみたら、スマホちゃんが慄くように震えた。ふええまた無茶振り来たよおぉって言われてるみたい。いや。みたいじゃなくて意思表示かもしんないけど。


「おっ……? レンジャー??」


 ステータスウィンドウみたいなものが目の前に現れたけど、……がしばらく流れてる。AIが思考してるのか、それともパソコンでよくある砂時計アイコンの代わりなのか。もしそうなら3点リーダじゃなくて砂時計アイコンの方が分かり易いなあ……。

「あ、変わった」

 今回は画面が凛にも見えているらしい。そんなことを考えたせいか、砂時計がくるくる回り出した。これが主ナイズというやつかー。すごい。


 異世界のスマートフォン×3

 ・以下条件下でのみ使用可能

  暁斗とこの世界でパーティを組んでいる場合のみ使用可能

  ただし機能制限があり、ロック解除は暁斗に準ずる

  使用者は持ち主のみ使用可能、他者には使用不可

  不可視の魔法が掛かっているため安全に使用ができます

  通話はパーティ間でのみ使用可能

  他アプリについては順次カスタマイズの後レベルロック解除から使用可能

 ・現在使用可能のアプリについて

  通話 *機能制限あり

  メール *機能制限あり

  マップ *機能制限あり

  ブラウザ *機能制限あり

  ソシャゲ連続ログボ取得 *機能制限あり

  ネット通販 *機能制限あり


「やった! おじっちさすが!!」

 凛に見えたんだから皐月にも見えるよね。そうだよね。読み上げる手間がなくて大変便利でありがとう、レンジャー。とりあえず、レンジャーかスマホちゃんかが頑張ってくれたらしい。機能制限ありって注意書きがあるけれどまあそこは仕方ないって諦めてもらうしかなさそう。

「少し気になることがあるんですが……」

「どうした?」

「あの、このソシャゲ関係のことなんですけど、ログボ取得って限定的なのは後々何か解放されるってことでしょうか。順次カスタマイズされてレベルロック解除ってありますし」

 さすが凛、そこ気がついた? おじさんもちょっと気になった。そもそもアプリのカスタマイズって何って思ったんだよね、おじさん。

「そこんところどうなの、スマホちゃん」

 これはレンジャーの方じゃなくてスマホちゃんが教えてくれそうな気がしたから声をかけてみた。機能制限とかそこんところもう少し教えて欲しいなあ。

『レベルロック解除後に一部のアプリが魔導書として機能するよう調整中です。他のアプリについてもそれ以外に機能できるかどうか調整しています。生活基礎魔法については教会で祝福を一人5ダラー支払っていただければ覚えることが可能となります。そちらを受けて冒険者ギルド登録の後に出国をおすすめします』

 スマホちゃんが答えてくれたよー。ただ、異世界渡る前は女性っぽい声だったと思うんだけど、すっごい疲れたおじさんみたいな声になったのなんで? いや別にAIだから男だろうと女だろうと構わないんだけど。

『私の声については若干の差異です。少し自分探しの旅をしているので気にしないでください』

「自分探しの旅」

 AIに自分探しの旅なんてあるの?

 新たなる疑問を生み出したスマホちゃんは機能を終了させてしまった。

「だって。凛が聞きたかったことってこれでいい?」

「あ、はい。大丈夫です。そっかあ、魔導書になるんだ。うん、楽しみ」

 異世界転移特典の俺Tueeeeができるってことかな。

 でもあのいけすかない王様に召喚されて放り出されたのはおじさんがそうしたからだけど、それくらいの特典がなければやっていけないよなあ。

 とりあえずスマホが限定的だとしても使えるみたいだし、そろそろ夕飯食べに行こうとおじさんは思います。

 今夜寝たら異世界から日本に戻れるといいな!

 多分無理だろうけれどね、希望の一つくらいはあってもいいとおじさんは思います。

 そんなこんなで始まるおじさんの異世界生活。

 次回!おじさん、冒険の準備をする。また見てね!

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