7話 最初の魔法の練習はトイレの練習?
「まさかそこからとは。本当お前に一体何があったのか」
一時的に危機的状況に陥った俺だったけど、カーライルさん達に救われ。そしてまさかの当面の間、お世話になることが決まったが。
記憶喪失設定の俺には。いや、記憶喪失ではないが、この世界の事を何も知らない俺は。カーライルさんの家に招かれてからも、いろいろと問題が発生した。
まず、カーライルさんの家だけど、湖からちょっとだけはなれた、森の少し開けた場所にあった。家は2階建てで、日本の4LDKって感じの、木でできているしっかりとした家だったぞ。
そして家の周りには、俺がさっきから生き物と言っていた。この世界ではライトノベルと同じ、魔獣と呼んでいるようで。その魔獣達の小屋と畑があり。自給自足の生活をしているという事だった。
魔獣小屋には、ミルクをくれるミルモーという牛に似ている魔獣と、ニワットと呼ばれる、鶏に似ている魔獣がいたぞ。俺が挨拶をすると、みんな寄ってきてくれて。俺を受け入れてくれた、とタイラーが教えてくれた。
そうそう、ミルモーやニワット、そして俺についてきてくれたフェアリーラビットとは話せないのに、タイラーやトールと話せるのは何でか聞いたら。魔力量によると。魔力量が多ければみんな話せるらしい。
それから契約をすれば、魔力が少なくとも話せるようのなると。契約……。どうやら魔法で、魔獣使いという能力があるらしく。その能力で、魔獣と契約をすることができるようだ。詳しく聞くと、ライトノベルのテイムと同じような能力みたいだった。
この魔獣使いという能力を持っていると、魔獣と心を通わせる事により、契約を結ぶことができ、その魔獣と家族や仲間になれると。
また契約する事により、お互いの能力のレベルが上がることがあるらしく。家族や仲間というだけではなく、共に戦う事もできると。そのため街には、沢山の契約した魔獣がいるらしい。
な、テイムと同じ感じだろう? と、ここまで説明を受けた時にカーライルさんが、俺にどんな魔法が使えるか聞いてきたんだけど。
俺が魔法を使う? 確かにここはそういう世界かもしれないけれど、今まで地球で暮らしていた俺だからな。どうすれば魔法を使えるか分からないし、使えるかどうかさえ怪しい。
だから魔法? 魔力? って聞いてみたんだよ。途端に何とも言えない顔になったカーライルさん達。タイラーは、そういえば魔獣使いについて説明したこと自体、おかしな事だったなって。
それで冒頭のカーライルさんの言葉だ。『まさかそこからとはな』って。それからカーライルさんは俺に、簡単な魔法を見せてくれた。火に水に光にってな。
何かを洗う時には水魔法を使い、何か料理をするときは火魔法を使う。夕方になり暗くなってきたら光魔法という感じだ。
「わぁ、凄いですね。そんなにたくさんの魔法が使えるなんて!!」
初めての魔法に興奮する俺。そんな俺を可哀想な目で見てくるカーライルさん達。何だと思っていたら。
「お前、最低限の魔法は、皆使えるだろう。レベルの強い魔法はそれぞれの力によって変わってくるが。それでも生活に使うような魔法は全て、皆使えるだろう? ……そこまで記憶から消えてしまったのか……。お前、何があったか分からんが、本当に大変な目にあったんだな」
基本魔法は、この世界の人々全員が使えるらしい。
「という事は、トイレも教えないとダメだな。後で俺が綺麗にしても良いが、あんまりなぁ。と、その前に魔法からか? ……よし、お前、トイレはまだ大丈夫か?」
トイレ。この世界でもトイレと言うらしく。家に到着してすぐに、それを聞かれたけど。実は1回、湖を見つける前に、森の中でさせてもらっていたので、その時は大丈夫と答えた俺。今もまだ大丈夫だったため、大丈夫だと答えると、トイレのための訓練が始まった。
まさかの最初の魔法の訓練が、身を守るための訓練でも、攻撃の訓練でもなく、トイレの訓練になるとは……。でもトイレは大事だからな。お世話になるのに、粗相をするのはまずい。
俺を椅子に座らせたカーライルさん。これから俺の魔法の訓練と言う事で。興味が湧いたのか、魔獣小屋で遊んでいたフェアリーラビットが急いで俺の所へ戻ってきた。そろそろ本格的に暗くなりそうだったから、呼び戻そうと思っていたからちょうど良かったよ。
「何も覚えてないって事は、魔力の使い方も、魔力がどういう物かも分からないって事だよな?」
「はい」
「それじゃあ今から俺が、魔力がどういう物か、お前の体の中に魔力を流すから。その感覚をよく覚えておくんだぞ」
「はい」
カーライルさんが俺の肩に手を乗せるとすぐだった。体全体が温かくなると、それが胸の中心に集まり出し。1分もしないうちに胸の辺りだけがポカポカと、お風呂に入っているような、とても気持ちのいい暖かさに包まれた。
「どうだ? 何か感じるか?」
「はい。胸の辺りがとても温かいです」
「よし、ちゃんと分かったな。これが魔力だ。この魔力の感じをよく覚えておけよ」
「はい」
カーライルさんが手を離すと、すぐに温かい感じが消える。
「よし、じゃあ今の魔力の感覚を思い出しながら、全身に回っている魔力が、体の中心に集まるのを思い浮かべろ。……ただ、そうだな。お前の場合は、完璧に魔法を忘れているから、サラッと思い浮かべるんじゃなく、強く思い浮かべてみろ」
「強くですか?」
「ああ、魔法を習いたての小さな子供は、そうやって強く思い浮かべて練習をするんだ。簡単に魔力を使えるようになるまでな。何も覚えていないお前も、それくらいやった方が良いだろう」
「分かりました」
俺はカーライルさんの魔力を思い出しながら、自分の中に魔力があると信じて。魔力が集まる感じを思い浮かべた。