5話 初めての人との接触
「おい、大丈夫か? 見た感じだと、怪我はしてないみたいだが」
「えっと、あの、大丈夫です」
「そうか。しかしそうだな、疲れてるみたいだな。まぁ、あんな魔獣に襲われたんだ、精神的にもきてるだろうからな。とりあえずこのポーションを飲んでおけ。疲れがとれる。話しはそれからだ」
男の人が、紫の液体が入った小瓶を俺に渡してきた。今、ポーションって言ったよな? ポーションって、怪我を治したり、体力を回復したりする、あのポーシュンであってるか? 疲れが取れるって言ってたし。
それにしても、これ、本当に飲んで大丈夫なのか? 凄い紫色だぞ? 何ていうか回復のポーションっていうより、毒みたいなんだけど。思わず飲むのを躊躇する俺に、男に人が話しかけてくる。
「何だ? さっさと飲んじまえ。じゃないと話しが進まないだろう」
そう言われて、しかもさっきの男の人達の話しから、やっぱり助けてもらったようなので、これも大丈夫だろうと。
いや、この男の人達が、何かを企む悪者だったら、抵抗しようが俺に勝ち目なんかないし。どちらにしても今は飲むしかないと、勢いよくポーションを飲み干した。
ん? これ色は真紫だけど、味ははちみつ味か? 見た目と違いかなり飲みやすいポーションだった。
そして飲んですぐ体に変化が。ずっと知らない場所を歩き続け、しかも知らない生き物に襲われて、とても疲れていたのに、その疲れがすぐに消えたんだ。男の人の言った通り、疲れが取れるというのは間違いなかった。
「よし、じゃあ話しをするぞ。タイラー、奴は近くにいないな?」
『ああ。自分の寝床に帰ったようだ。俺が傷を負わせたからな。回復するかでは、自分の寝床からそうそう動かんだろう』
「じゃあ結界は必要ないな。おい、あそこの石に座って話しをするぞ。あれはお前の荷物か?」
「は、はい!!」
「じゃあ荷物も持ってこい」
言われて俺は、急いで荷物を取りに行くと。リュックと扇風機を持って、男の人がすでに座っている石の場所まで移動したて、自分も石に座った。
すると男の人は、ガサゴソと自分のカバンの中を漁り。中から包みを出すと、その包みを開く。包みの中には、お饅頭のような物が2つ入っていて、そのうちの1つを俺に渡してきた。
「お腹空いてるんじゃないか? これでも食べながら話しをしよう」
まだ少し警戒しているものの、俺はまだここに来て、何も口にしていなかったことを思い出し。ありがたくそれを受け取ると、すぐに口に入れた。うん、やっぱりお饅頭だった。中身はこし餡みたいな物が入っていたぞ。
男の人は俺がお饅頭みたいな物を食べたことを確認してから、自分もそれを食べ始め、ついでに話しを始めた。
「それで、お前……。まずは名前からか。お前の名前は? 俺はカータイルだ」
「俺は風真涼です」
「ん? かざ?」
あー、もしかして名前だけの方が良いのか? なんかライトノベルであったよな? 苗字があると貴族に間違えられるとか。この世界に貴族がいるか分からないけど。
「リョウです」
「そうか、リョウか。こっちにいるのは俺の相棒のタイラーとトールだ。お前さんが危険な事に気づいたのはタイラーでな。俺が場所を確認する間もなく、猛スピードで走って行っちまった。とりあえず、何とか間に合って良かったぞ」
大型のヒョウ似の生き物の名前はタイラー。鳥はトールと言うらしい。俺の危険に気づいて猛スピードで駆けつけてくれたなんて。知らなかったとはいえ、少しの間でも敵かと思って悪かったな。見た目が完璧敵の生き物だったんだよ。
「えと、タイラーさん。ありがとうございます」
とりあえずさん付けで、ちょっとドキドキしながら、タイラーに声をかけてみる。なにしろ生き物に話しかけるなんて、初めての経験だからな。
『さん、なんてつけなくて良い。俺はただのタイラーだ。ここまで来てみれば、まさか木の枝でサンダーファングタイガーに立ち向かっている子供がいるとは、さすがに俺も予想外だった。が、間に合って良かったぞ』
おおお!! きちんと話しができた!!
「何だ、ニヤニヤして、どうしたんだ?」
「あ……、何でもないです」
生き物と話しができる。そんな素晴らしい体験に、俺は感激し嬉しくて、自分で気づかないうちに、ニヤニヤしてしまっていたらしい。
「それで、話しを進めるが。リョウは1人で、こんな所で何をしていたんだ? 両親や仲間とはぐれたのか? ここに住んでいる俺が言うのもなんだが、ここはとても危険な森なんだぞ? お前だってここがどんな場所か、分かって入って来たんだろう?」
「……」
何とも答えられず、思わず黙ってしまう俺。そんな俺の様子に、カーライルさんも何かを思ったんだろう。
「……何か訳ありか? お前の歳で考えたくはないが、もしお前が俺達にとって、この森にとって害をなす者なら。助けはしたが、このまま黙っているわけには……」
「ち、違います、俺は!!」
俺はカーライルさんの話しを慌てて遮った。せっかく助けてもらったのに、ここでもしも、カーライルさん達の敵だと思われたら大変だ。
「あの、俺。どうしてここに居るのか分からないんです!!」
「は? 分からない?」
「はい!! ……実は気がついたらこの森にいて」
「……詳しく話せ」
俺は俺に起きた出来事について、カーライルさんに話し始めた。