4話 続く出会い
大きな叫び声が響いたかと思うと、それまで俺の前にあった威圧感と気配が消えた。そして俺から離れた場所で、おそらく大型のトラ似の生き物の唸り声と、それとは別の新しい唸り声が聞こえて。
俺はそっと目を開けて、唸り声が聞こえる方を見てみる。と、そこのはやはり俺を食べようとしていた大型のトラ似の生き物と。
新たに、黒いヒョウ似の生き物が、大型のトラ似の生き物と向かい合っていた。新しい方の大型のヒョウ似の生き物も、地球のヒョウよりも2倍は大きい。
何だ? ここには大型な生き物しかいないのか? いや、そうでもないか。さっきの羽根つきウサギ(仮)は、地球のウサギと同じくらいの大きさだったし。
と、今はそれよりも、あいつ、どこから来たんだ? というか、何? 食料としての俺の奪い合い? 俺、こんなところでまさかの人気者? 嫌な人気者だな。今のうちにおれ、逃げられないかな?
なんて、次々に起こる事態に、さすがについていけなくなっていた俺は、そんなくだらないことを考えていたんだけど。その間に、大型の生き物によるバトルが始まった。そして思った事。うん、やっぱりここは地球じゃないな、だった。
地球の生き物は、雷や岩、水に土なんて物を使って、攻撃しないからな。う~ん、さすが異世界?
『グギャアァァァァァァ!?』
お!! 大型のトラ似の生き物に、大型のヒョウ似の生き物の攻撃が当たった。攻撃が当たると、湖の方まですっ飛ばされた大型トラ似の生き物。大きな水飛沫が上がる。そしてその水飛沫が収まると、お腹から少しばかり血を流している姿が見えて。
『グルルルルルル』
『ウ゛ゥゥゥゥゥゥ』
睨み合う2匹。と、ここで大型のヒョウ似の生き物が、大きな声で鳴いた。ここに来て、1番大きな鳴き声だったかもしれない。すると、
『ウ゛ゥゥゥ……』
小さな鳴き声を上げ、大型のトラ似の生き物が、大型ヒョウ似の生き物の方でもなく、俺の方でもなく。俺達から離れるように移動して、最終的に森の中へと走り去っていった。
どうやら後から現れた、大型のヒョウ似の生き物が勝ったらしい。体格的には逃げた奴の方が有利だったが、力はこちらが有利だったようだ。
とりあえずの危機が去って、俺は大きなため息を吐いた。だけどすぐに気を引き締めて、今度は大型のヒョウ似の生き物に向き合う。一難さってまた一難とはこのことか。食べられる相手が変わっただけだしな。どうせ食べられるならこっちでも、少しだけでも抵抗したい。
俺は木の棒を握り直す。が、いくら経っても、その大型のヒョウ似の生き物は、俺に向かってくる事はなかった。それどころか唸ることもなく、その場にそっと伏せをすると、そのままジッと俺を見つめてきて。
何だ? どういう事だ? 何でお前は俺を襲ってこない? もしかして俺をすぐに殺せると分かっていて、そこまでお腹も空いていないから。お腹が空くまでもう少し待ってから、襲おうと思っているとか?
いやいや、殺すならさっさと殺してくれよ。こんな緊張状態で放置されても。どうせならひと思いに、さっきの奴みたいにさ。殺されたくはないけど、それでも苦しい時間が短い方が良い。ただ……。
う~ん、どうにもこの大型ヒョウ似の生き物からは、殺気や怖さを感じないんだよなぁ。もしかして、俺が考えていたこととは真逆で、あの大型のトラ似の生き物から、俺を助けてくれたとか?
俺はどうする事もできず、そしてこの生き物と話しが出来る訳もないしなと、木の棒を構えたまま動けないでいた。
それからどれだけ時間が経ったのか。ほんの数分だったんだろうけど、その時はその時間が何10分にも感じて。ここにきて、また新たな声が聞こえた。
「おい!! タイラー!! どこだ!!」
『カーライル、あっちで声が聞こえた。それに、別の気配がする』
なんて声が、俺の後ろの木が生い茂っている方から聞こえてきて。その途端、大型のヒョウ似の生き物が大きな声で鳴いた。
「そっちか!!」
『ほら、やっぱりあっち。早く行く』
そうして数秒後、木々と草むらから、肩に小さな鳥を乗せている男が現れた。ここに来てまさか人に出会うとは。……たぶん人だ。見た感じは。ライトノベルに出てくるような。獣人やエルフでなないはず?
男の人は俺を見た瞬間、その場に数秒止まったが。俺を気にしながらも、大型のヒョウ似の生き物の方へ移動し、頭を撫でながら声をかけた。
「まずい、なんて言って、急に走り出したから驚いたぞ。それにこの感じ、もしかしてこの子供が襲われていたのか?」
『ああ、サンダーファングタイガーに襲われていた。俺が駆けつけた時には、食べられる寸前だったぞ』
「そうか、よく助けてくれたな」
『なに、誰もここに、人間の子供がいるなんて思わんからな。俺もすぐに気づく事ができなかったが、間に合って良かった』
……俺の気のせいじゃないよな? 今、男の人と大型のヒョウ似の生き物は、普通に会話していた? そういえば、男の人はずここにくるまでに、誰かと話しながら来ていたよな? その人はどこに?
『うむ。ボクがこっちって言ったのに、カーライルは別の方へ行こうとした。減点。でもいつもよりはしっかりと来た』
『ハハハ、お前の方向音痴は相変わらずだな。まぁ、完璧に迷わないだけ良い方か』
んん? あの声。男の人と話していた声だよな? あの鳥から声が聞こえたような?
『で、どうする?』
「まずは話しを聞いてからだ。おい」
男の人が俺に声をかけてきたけど、俺は今起こっていることに、気持ちが追いついておらず、返事をする事ができずにいて。
「おい!!」
大きな声で再び呼ばれて、俺はハッとして、しっかりと男の人達を見たんだ。