3話 やっぱりのライトノベルあるある? チビは逃げろ!
おいおいおいと、声には出さず、なるべく音を立てないように。現れた大型のトラ似の生き物を見つめる。
やっぱりこうなるのか? ライトノベルあるある、転移して目覚めると、その世界の生き物に襲われるってやつ。目覚めてすぐには襲われる事はなかったけど、どう考えてもまずい状況だよな。
あいつ、俺のことはまだ気にしていないけど、あっちの羽根つきウサギ(仮)達の方は、襲う気満々って感じだし。どうせ俺のことには分かっていて、あっちを襲い終わったら、次は俺って思っているはずだ。
今のうちに、なんとか逃げる事はできないか? いや、逃げたところで、すぐに追いつかれるだろうし。少し遠くに逃げられたって、匂いで跡を追われて、結局すぐに追いつかれるよな。だけど、このまま何もしないわけにも。
何とかこの場から逃げる方法を考える俺。と、その時だった。羽根つきウサギ(仮)達が大きな声で鳴いたと思ったら、一斉に大型のトラ似の生き物とは反対に逃げ始めた。
ですよねぇ。やっぱり逃げますよねぇ。そして取り残された俺が、次の標的になるって感じですよねぇ。俺は思わずため息を吐きそうになった。しかし……。
おいおい、あいつ何してるんだ? 早く逃げろよ! 仲間はみんな逃げただろう!! 羽根つきウサギ(仮)達が全員逃げたと思っていた俺。しかしよくよく確かめれば、なぜか1匹だけ、とても小さな羽根つきウサギ(仮)が、その場に残っていたんだ。
そんなとても小さな羽根つきウサギ(仮)に、ジワジワと近づいていく、大型のトラ似の生き物。たぶんあれ、子供だよな? もしかして怖くて動けなかった? ガタガタ震えてるし……。
おい、お前。そんなちっこいの食べたって、腹の足しにはならんだろう。そんなちっこいの放っておけよ。お前は絶対、大型の生き物の方が良いって。なんて心で言う俺。だけど、さらにトラ似の生き物は、羽根つきウサギ(仮)に近づいていき。
俺は次の瞬間走り出していた。そして大型のトラ似の生き物が思い切り、子供の羽根つきウサギ(仮)に噛みつこうとした瞬間。俺は子供の羽根つきウサギ(仮)を抱き上げ、その場から移動した。
空を切った、大型のヒョウ似の生き物の攻撃。奴が俺の事を睨みながら唸ってくる。
『ウ゛ゥゥゥゥゥゥ……』
分かってるよ。食べようとしたのに、俺が邪魔して怒ってるんだろう? だけどもふもふ好きの俺としては。しかも子供で、とっても可愛いもふもふの生き物を、俺は放って置けないんだよ。
お前だって、俺と仲良くできる生き物だったら、仲良くなりたいくらいだけどさ。どう考えても仲良くはなれないだろうし。
俺は大型のトラ似の生き物を見ながら、自分の横に子羽根つきウサギ(仮)を下ろした。
『きゅい?』
「ほら、俺が奴の気を引いているうちに、お前は逃げた仲間の元へ行け。分かるか? 今のうちに逃げるんだ」
『きゅい?』
「逃げろ!!」
俺の大きな声に驚いたのか、子羽根つきウサギ(仮)が、急いで木々と草むらの方へと逃げて行った。ふう、とちあえずこれで、あいつは少しは安全だろう。
で、問題は俺の方だ。ここから逃げるのは、さっきよりみ難しくなったな。
時々左右へ移動しながら、お互いの出方を見る。たぶんこれ、俺は逃げられないよなぁ。まぁ、俺には俺を心配してくれるような家族はいないし、その点については問題ないけど。
それにしたって、よく分からずにこの世界へやって来て、まだ1日も経っていないのに、人生の終わりか。いや、目覚めた時点で殺されなかっただけ良い方か?
少しは生きられて、俺の大好きな、もふもふ、ふわふわの生き物に出会えたんだから。……手触り最高だったな。地球であの子羽根つきウサギ(仮)と、一緒に暮らす事ができたら。仕事の疲れなんて、すぐに消えただろうに。
『ウ゛ゥゥゥゥゥゥ……!!』
俺が他の事を考えているのが分かったのか、さらに唸り声を大きくした大型のトラ似の生き物。良いじゃないか、どうせあと少しの命、少しくらい楽しい事を思い浮かべたって。
食われる時、痛いだろうなぁ。苦しいだろうなぁ。地球でも仕事で苦しい思いをしていたけど、転移しただろうこの世界でも、苦しい思いをして、挙句死ぬのか……。
うん、少しくらいは反撃できないものか。俺の荷物が置いてある場所に、ここまで来るまでに見つけた、先の鋭いちょっと長めで5センチ幅くらいの、木の枝が置いてあるんだけど。ただやられるくらいなら、あれでコイツを攻撃できなか?
俺はチラッと、横目で荷物の置いてある場所を確認する。そんなに距離はない。そして棒の存在をしっかり確認した瞬間、俺はすぐに走り始めた。ここで追いつかれたら終わりだが、なんとか荷物が置いてある場所まで!!
「よし!!」
俺の願いが通じたのか、奴が追いつく瞬間、俺は荷物まで辿り着き。俺は棒を構えて奴を向き合った。
『ウ゛ゥゥゥゥゥゥ!!』
どうせ勝てないんだから、抵抗するなって? 苦しい思いをする前に、少しくらい抵抗したって良いだろう。
それからは、奴が手で俺を攻撃してこようとするたびに、木の棒でそれを交わし。1度だけだったけど、俺も奴に木の棒で攻撃する事ができたのだが。10分もしないうちに、俺は大きな木まで追いやられてしまった。
『グルルルルルル……』
「はっ、お前のその顔、ニヤニヤしてるのか? 俺の抵抗なんて、屁でもないって。まぁ、そうだろうよ。お前に比べたら、ただの社畜だった俺なんかじゃ、少しも相手にならないだろうよ。はあぁぁぁ、俺もここまでか……」
大型のトラ似の生き物が、大きな口を開け俺に向かってくる。子羽根つきウサギ(仮)は仲間に追いついたかな? 俺が食われている間に、できるだけ遠くへ逃げてくれれば良いけど。
俺は目の前に迫る大きな口に、そっと目を閉じた。と、その瞬間。
『グギャアァァァァァァッ!?』
大きな叫び声が響いた。