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短編

真実を明かしましょう

作者: 猫宮蒼

 悪気なく道連れ。



 とある世界。とある国。


 小さいけれどとても平和なその国で、一つの修羅場が発生していた。


 とある王子と恋に落ちた娘。

 幼い頃から王子の婚約者だった令嬢。

 真実の愛をみつけたんだとのたまう王子。


 と、ここまでくればどこかで百回以上見た話だな、と思われそうではあるけれど。


 そこから先がちょっと違った。


 婚約者だった令嬢は、王子との婚約を解消して一抜けした。


 王子と恋に落ちた娘はこれで王子と結ばれる――かと思いきや。


 なんと、王子の真実の愛のお相手は娘ではなかったのである。


 恋に落ちていたのは娘だけで、王子はあくまでも恋愛相談をしていただけだった。

 ふたを開けてみればそんなオチだった。


 王子とて、流石に婚約者だった女性に恋愛相談を持ち掛けるのは違うな、と思っていたし、それもあって婚約は穏便に解消したのだ。白紙解消。つまりは最初からなかった事になったので、令嬢は婚約者に捨てられた惨めな令嬢にもならなかった。

 今まで長い間拘束しちゃってごめんね、と要約すればそんな謝罪とともに慰謝料も名目は異なれど支払われていた。なので令嬢も令嬢の家族もちょっと時間を無駄にしたという思いはあれど、王家にそこまで怒りはない。もし次の結婚相手にこの人がいいなってなって、王家の力を借りたかったら言ってね、応援するよとまで言われるくらいに穏便。


 王子と恋に落ちていたと思った娘は、実のところ王子に恋していただけの娘となった。

 そう、王子の真実の愛はこの娘に最初からなかったのである。


 王子が好きになった相手というのが、娘と同じく市井に住んでいて、たまたま知り合った娘に同じ市井で暮らす者目線でのアドバイスを欲していただけに過ぎない。


 王子の美貌と、あまりにも出会いがドラマチックだったのもあってすっかりのぼせ上がっていた娘は、恋に落ちた事で盲目状態になって恋愛相談も遠回しな自分への告白だと信じて疑っていなかった。いっそ哀れである。


 でも、ごろつきに絡まれて危なかったところをお忍びで市井にやってきた王子に助けられるとか、シチュエーション的に恋に落ちても仕方がない。


 きったねぇツラのごっついおっさんに絡まれてたところに颯爽とやって来た美青年。惚れるなという方が無理である。恋に落ちなかったとしても、それでも一瞬胸がときめくのはどうしたって仕方のない事だ。


 市井に出回ってる娯楽小説みたいな出会いをしてしまって、まるで自分もそんなお話の中のヒロインになれたようで、すっかりその気になってしまっていたのである。

 だがしかし実際はただの道化。

 当て馬にもならなかった。


 あまりにも悲惨である。


 両思いだと信じて疑っていなかった男の心は、最初から別の女のものだったのだ。

 騙されたと泣き喚こうにも、王子は今の今まで一度も娘に対して愛の言葉を直接言った事はないし、贈り物だって相談料程度の物しか渡していない。

 実際娘が貰った物を見れば、まぁ、王子が恋人に贈るにしてはちょっと……となるようなものだったので、これで娘が王子の恋人だと言ったところで、王子を知る者からすれば信じる方が難しいのである。



 王子が本当に好きだという相手は、これまた美しい娘だった。

 婚約者だった令嬢も気品あふれる美しさだったけれど、王子の本命もまたどこか気高さを感じられる美人であった。

 見た目だけなら完全に娘は負けていた。


 娘は確かに愛らしさはあったけれど、あの本命と並べば誰もが本命を美人だと断じただろう。

 美人度合を娘に求めたならば、あと数年後に期待……といったところだろうか。


 最初から望みがないとわかっていたならともかく、一度でも両思いで結ばれたのだと思ってしまった事で娘の恋心は中々諦めがつかなかった。

 最初からないとわかっていれば、そうならなかったと思う。けれど、婚約者との婚約を解消して、これでようやく自分が彼と結ばれるのだと思い込んでしまったが故に、まるで目の前で別の誰かに掻っ攫われたような気がしてならなかったのである。


 頭ではわかっていたとしても、心がそう簡単に納得してくれなかった。


 なので娘は、嫉妬に身を焦がしつつも王子の本命である美人について徹底的に調べようとした。

 もし、王子を誑かすような悪女だったなら、そんなの彼に相応しくない!

 あの女を追いやれるような理由があるなら、追い払って自分こそが彼に相応しいのだと証明してみせる!


 と、娘は燃えていた。

 そもそも最初から選ばれてすらいないのに、相応しいも何もあったものではないのに。

 まんまと恋に踊らされていた。


 そうして美人を付け回す事数日。

 娘はとうとうその美人の秘密を知ってしまったのである。


 これで彼は私のものよ! とうっそり微笑む娘の顔は、とてもじゃないが人様にお見せできるものではなかった。



 娘は早速とあるお店へと駆け込んで、これこれこういう品が欲しいのだと注文をつけた。


 その品は娘が手にするには少々お高くはあったけれど。

 それでもこれで……! という思いが確かにあったのだ。



 娘が駆け込んだ店は、魔女が経営する店だった。

 娘が所望した品は、真実を映し出す鏡であった。


 王子が恋をしている相手は、どうも己の姿を偽っていたようなので。

 では、真実の姿を見せれば王子はきっと百年の恋も冷めるに違いないと思い、娘は真実を映す鏡を大事に抱きかかえ、絶好のチャンスが巡ってくるのを待ち構えたのである。


 機会は案外早くに訪れた。


 王国の建国を祝うお祭り。

 お城でパーティーも勿論あるけれど、王子が恋焦がれる相手は貴族ではない。いくら気高く美しい見た目で、着飾ればそこらの貴族のご令嬢だと思えるような美女であっても。

 なので王子は平民たちが祝う会場にこっそりと平民を装って忍び込んでいた。


 とはいえとても小さな国なので。

 王子が王子であるというのは、暗黙の了解でもあったのだ。


 王子がお忍びで来ているので、実はこっそりと王子の護衛をしている騎士たちもお忍びで控えていた。


 小さくて、とても平和な国なのでまぁ大丈夫だろうなとは思うのだが、それでも万が一という事はある。


 それに、護衛をしている騎士たちも堅苦しいお城のパーティーよりこっちの方が気が楽でいい、くらいに思っていたのだ。気を緩めていても、いざという時はきっちりと仕事をこなせる優秀な者たちである。王子の周囲に不審な挙動をするような相手がいないかひっそり目を光らせて、けれども警戒している様子を悟らせないように周囲に紛れて祭りを堪能していた。


 王子は意中の相手と一緒にお祭りに参加しているという事実に、見ている周囲がいっそ初々しく思えるくらい照れて、それでいて幸せそうだった。

 美女もまんざらではなさそうだ。


 そんな様子を見てぐぬぬと歯ぎしりしそうになっているのは娘一人である。


 だがしかし、今が絶好のチャンスだとも思った。


 娘は王子に向かって目を覚まして! と声を上げた。

 その女に騙されているのよ! とも叫んだ。


 娘の叫びに周囲はなんだなんだと注目し、そしてこれは好機だと娘は抱きかかえていた真実を移す鏡を美女へ向けた。


 これは真実を映し出す鏡! 今こそ貴方の真の姿を周囲に知らしめてやるわ!


 そう叫んで、娘は美女が鏡に映るようにしたのだが。



 何も、起こらなかった。


 鏡に映る美女は美女のまま。

 しん、と一瞬水を打ったように静まり返る。


 嘘っ!? なんで、だってあんた、この前は老婆だったじゃない! 魔女がやってる占いテントにあんたが入ってくのを見たし、そこでずっと見張ってたけどあんたが出てこないで代わりに老婆が出てきたのをこの目で見たのよ!?


 焦りながらそう言うも、鏡に映るのは相変わらず美女である。

 その美しさは紛れもなく本物であると鏡が証明していた。


 まさかこの鏡が偽物なのかしら!? だとしたらあの魔女の店、騙したのね!?


 なんて娘が叫ぶものだから。



「いいえ、その鏡は真実をきちんと映し出しますよ」


 店の評判を落とされちゃかなわんと、その店の魔女は姿を見せたのである。



「まず、最初に証明しましょう。私もですが、彼女も確かに魔女ではあります。けれども、普段はこうしていかにも魔女っぽい姿をしているだけにすぎません。そうですね、娘、その鏡をこちらに向けて御覧なさい」


 偽物つかませたんじゃないでしょうね、と言わんばかりの娘へ魔女が言う。

 しぶしぶ娘が鏡を美女から魔女へ向ければ、その鏡に映し出されたのは娘とそう年の変わらない若い娘であった。清楚系美人がそこに映っていたのである。


 これには鏡に映った姿と目の前の老婆の姿を見る事になった者たちが思わず交互に鏡と老婆を二度見どころか五度見した程である。

 王子も驚いたように「えっ? えっ、本当に?」と老婆を見て、鏡を見て、それから最後に隣にいる美女に確認するように声をあげた。


「確かに昔はよく悪い魔女が若い娘に化けて悪さをする、なんていう話も多くあったけれども。

 でも最近の魔女は昔みたいに色んな魔法を使い放題ってわけでもなくてね。変身魔法は難しいからほとんどの魔女が今では使わなくなったものなの」


 老婆の姿の魔女が言う。


 えっ、それじゃあその姿は? と周囲が聞けば、魔女はあっさりと答えた。


「特殊メイクよ」



 特殊メイク。


 なんだか聞きなれない言葉に思わず首を傾げてしまったが、魔女は気にすることなく懐からメイク道具一式が入った袋を取り出して、そこからメイク落としを手に掴んだ。

 そうしてみるみる落とされていくメイクと共に、老婆ではなく鏡に映った美しい女性の顔が現れる。


「私たち魔女の大半は若い娘なのだけれど、事情があってこうして老婆の姿を装っているのよ。勿論、本当に老婆な魔女もいるのだけれど」


 やや猫背になって背を低く見せていた老婆だった魔女は、メイクを落としたのもあってすっと背筋を伸ばした。

 いかにもな真っ黒ローブのままではあるけれど、そこにいたのは確かに若く美しい娘であった。



 昔は確かに変身魔法で人間を騙して遊ぶ悪い魔女も大勢いたけれど、時代の流れもあってそういう魔女はどんどん絶えていった。

 そもそも変身魔法というのは扱いが中々に難しくもあったので、気軽に使って遊ぼうと考える魔女が減っていったというのもある。これも一つの時代の流れと言えるだろう。


 次に起きたのは、己の美貌をふんだんに使い男を騙す魔女。

 恋人のいる男に言い寄って仲を破滅させたり、権力者を手玉にとろうとしたり。

 とはいえ、これもそういう事されると色々と困る別勢力の魔女たちが人間に力を貸して打ち倒していった事で、今ではその手の愉快犯はほとんどいない。


 そうして基本的に人と表立って事を荒立てない派閥の魔女たちが残ったのだが。


 問題はこれで全て解決、とはいかなかった。



 なんでも万能とはいかないが、魔法という便利な力を使いこなせる若い娘。

 それに目を付けた者が現れたのだ。


 主に時の権力者である。


 魔女、と一言で言っても中には男性も存在している。だがそちらは圧倒的少数。お目にかかった事がある、と言う人間はほとんどいない。99パーセント女性として存在する。

 両親が人間であっても時々魔女として生まれ落ちる者もいた。

 恐らくは両親のどちらかの先祖に過去魔女が存在したからだと言われている。


 つまり、魔女と結婚して子供を産んでもらえれば、もしかしたら魔法が使える子供になるかもしれないのだ。

 それも狙いではあるが、魔女が身内になればいいように利用できると考えた者もいたのもまた事実。


 ほとんどが若い女性である、というのもそういった考えに拍車をかけたのもあった。

 何せ魔女のほとんどは若く美しい女性だ。子を産んでもらうという名目で性欲も処理できるし、魔法を使って事を有利に運べるのであれば。


 これ以上便利な道具はない。


 地位や名誉、財産、権力といったものを持つ、社会的に上の立場にいる男からすると、魔女というのはそういう認識であっても何もおかしくはなかったのだ。


 魔女に対して女性が擦り寄った、という話は滅多に聞かない。

 私たち、お友達でしょ? とあえて友好的に振舞って、頼みごとを断ればまるでそちらが悪いのだ、と罪悪感を植え付けて言う事を聞かせようとした、なんていう話も少しだけあるのだけれど。


 大抵は失敗した。


 なんだったら魔女ではない人間が産んだ子が先祖返りか何かで魔法の力を持っていた場合、親が子を道具のように扱う、というケースも勿論存在したが、それも大体途中で失敗しているのだ。


 ただの暴力なら腕力を鍛えれば済む話だが、魔法というのは心の力。要は精神力が必要なものだ。

 道具のように酷使していけばいずれ心は摩耗し擦り切れ、何も感じなくなる……と言えば余計な揺らぎも生じず魔法を失敗しないような気がしなくもないが、実際はその時点で大問題だ。


 心が擦り切れてしまえば、もしここで制御を失敗して魔法が暴発したら、と恐れる心すらなくなる。

 こんなの間違ってる、と思ってギリギリのところで理性が耐えていても、心が擦り切れて何もかもがどうでもよくなれば、まぁ失敗してもいいか、で軽率に魔法の事故が発生する。


 わかりやすくいえば安全装置が壊れたも同然なのだ。


 安全装置が壊れてしまった危険物をそうと知らずに使い続ければいずれ最悪の結果が起きるのは、言うまでもない話で。


 心が擦り切れてもうどうだっていいや、という風にならず、その逆に何でこんな奴隷みたいな扱いに甘んじてるんだろう、と怒りで覚醒し、ブチ切れて自分を道具のように扱っていた者たちを虐殺、という事件も複数確認されている。


 一見しておとなしそうな魔女であっても、心など目で見てわかるものではない。

 こいつは言う事を従順に聞きそうだと思っても、意外とそういうのに対して中身は苛烈、なんてのはザラだった。


 発端がどうであれ、魔女と人間が対立していた時代は確かに存在したのである。


 けれども、いつまでも争い続けるのも面倒だ。お互いの落としどころが見つかれば良いが、大抵欲深い人間がいらん事をして火種に可燃材料をぶち込むので、先に面倒になったのは魔女たちである。


 それなりの牽制をした上で、一度人間たちの前から姿を隠し、そうして長い年月を適当に隠れ住み、その後ある程度魔女の事など伝承になりかけた頃に再び姿を見せ人間たちの中に溶け込むようになった。


 争っていた当事者たちも、とっくのとうに寿命で亡くなり伝承としてしか話を知らない人間たちからすれば、敵対しなきゃまぁいいか、くらいの認識で受け入れたのである。


 再度姿を見せるようになった時、魔女と名乗る者のほとんどは老婆の姿であった。


 若い女であったなら、身体も魔法という力も好きに使おうと思う男はそれなりにいたが、見た目からして老婆であれば、ちょっと殴っただけで死にそうなババアに欲情する者はほとんどいない。ごくまれに特殊性癖の持ち主がいなかったわけではないが、ともあれ『そういう目』で見られる事はほとんどなくなったと言ってもいい。


 だがしかし、その魔女の姿は実のところほとんどが偽りである。

 実際は若く美しい姿をした女性が本当の姿なのだ。


 けれども世の中の伝承にあった魔女の話では、人間に都合の悪い部分がいくつか消され、ついでにこっそり魔女たちも自分たちに都合の悪い部分を改ざんし、結果人間たちの世間一般の魔女という認識は老婆がデフォルトになってしまったのだ。


 若い女性というだけで性的な目を向けられた挙句、便利道具みたいな扱いを強制させられたり、なんていうのも過去にあったわけなので。

 魔女たちは己の身を守るために普段は学んだ老婆メイクによって老婆を装っているのであった。


 老婆以外の変装メイクも勿論学んでいる。

 何かあった時、何かと便利なので。

 変身魔法の方が便利なのはそうだけど、しかし扱いが難しく、またそれ以外の何かで魔法を使おうとなった時、複数使いこなせる状態でなければ変身魔法が強制解除、なんて事になれば。

 それはそれで面倒なので魔法を使わずできる事は魔法を使わずやりましょうね、がいつしか魔女たちの当たり前になりつつあったのである。魔女なんだから魔法使えよ、と思われがちだが、意外と魔女たちは大抵の事はそこらの人間と同じようにこなすのである。

 人間たちの中に溶け込むには、その方が確実というのもあった。

 普段魔法で何でもかんでも解決していると、いざという時魔法を使わず何かをするというのは逆に上手くできなかったりする事もあるので。


 魔女としての力を使うのは、基本的に魔女として仕事をしている時に限る。


 それは例えば、魔法の道具を作って売ったりする時だったり、魔女として、魔法を用いて精度の高い占いをしたり。それ以外にもあるけれど、全部を述べたらキリがない、と言える程度には多岐にわたる。


「まぁね、昔話で悪い魔女が若い娘に化けて男をたぶらかした、なんて話もあるし、大抵の魔女は老婆が正装みたいな感じでやってるから、若い姿が本当の姿だ、なんて思う人が少なくなってるから、貴方が真の姿だと思い込んだのも仕方が無いとは思うのだけれど」

「だったらどうしてあっちの姿が本当だって言ってくれなかったの!?」

「言って信じました? 人間って自分の都合のいい部分しか聞かない事多いから、言うだけ無駄だと思ったんですよね。でも、だからって真の姿を映してる道具を偽物呼ばわりされるとそれはそれでこちらの信用問題にかかわってくるので、今回こうして打ち明けたというわけです」


 実は老婆の姿をしている魔女のほとんどが若い女性だ、と知られれば、本当の姿目当てにやってくる者が増えるかもしれないのだけれど。


 まぁ昔と違って今は関わりたくない相手との縁を切る魔法というのも開発されたので、いざとなればそれを使えばいいだけの話だ。この魔法も覚えるのは大変だったけれど、変身魔法に比べればマシな方だ。

 目には見えないけれど、何分縁をぷちんと切ってしまえばいいだけの話なので。変身魔法は変身している間魔法を維持し続けるので、下手に心を揺らすと魔法が解ける恐れがある。長時間の魔法コントロールが苦手な魔女なら、数秒で解除、なんて事もあるのだ。


 それなら維持しなくても効果を発動すればそこで終わる縁切り魔法の方が使い勝手はいい。


「とはいっても、面倒ごとは避けたいから私は店じまいして他の国に行こうと思うのだけれど。アナタは?」

「そうね……ワタシも行こうかしら。占いで生計立てるにしても、今までと同じようにってわけにはいかなくなりそうだし」


「そんな、待ってくれ」

「さよなら、王子様。アナタと一緒にいるの、短い間だったけどとても楽しかったわ」

「あっ……!」


 魔女の言葉が終わると同時に、魔法を使ったのだろう。パッと、魔女の姿が消える。

 消えたのは王子の想い人もだが、もう一人の魔女もだった。


 忽然と消えた場所を王子は呆然と見ていた。


 娘はというと、老婆ではなく自分よりも圧倒的な美人の偽物だと思っていた姿が本当の姿と知って、嘘でしょ……とぼやいている。


 そんな娘に、君が余計な事をしなければ……と王子の恨みがましい目が向けられて、もう二度と構わないでくれとまで言われてしまって。


 娘の恋は呆気なく散ったのだ。

 あくまでもあの魔女が、王子の想い人であって恋人になっていなかったからその程度で済んだ。

 もし恋愛が成就していた状態でこの結末を迎えていたなら、娘はきっと王子によって相応の目に遭わされていた事だろう。




 結果として、魔女がごめーん真実打ち明けちゃったぁ、と魔女仲間に暴露したからなのかどうかはわからないけれど、この日を境に複数の女性の姿がこの国から消えたのである。

 魔女と知られていない者、はたまた真の姿が既に老婆である魔女はこの国に残ったようだけれど。


 それ以外の魔女は面倒ごとを避けるように、あっという間に国を出てしまった。


 ちなみに魔女が娘に売った真実を映す鏡は使用回数に制限があったらしく、気付いたら割れて壊れていた。



 娘が失恋するだけで終われば良かったのに、真実を明らかにしようとした結果とばっちりで王子の恋も破れた。まぁ、仮に魔女との恋が成就したとしても、果たして結婚できたかどうかは謎なので……これはこれで良かったのかもしれない。

 次回短編予告

 よくある大々的に婚約を破棄……を事前に阻止する話。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 結局真実の鏡を使わなくても、王子の思い人の方の魔女は交際をしないか、しても結婚はせずに別れる気だったのかな? それなら早いか遅いかだけでこの娘も罪はないよね。 [一言] むしろ王家から…
[良い点] 普通に相談時に好きな女性の職業なり特徴言えば「あ、私じゃないわ…」で勘違いせずに済む話なのに、恋心を隠さずアプローチしていたであろう娘を都合良く相談要員として利用し、自分の恋を成就&結果的…
[一言] 特殊メイク! 真実の姿(すっぴん)を映す鏡とは、恐ろしい…… 乱用されたら上位貴族の女性を中心に国が荒れるだろうし、回数制限つけたのは争いに巻き込まれまくってきた魔女の苦労の現れなのかもしれ…
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