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8 刺繍のハンカチ

文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

 食堂で先に待っていたフィリップはアラベルを見ると驚き、どうしたのか尋ねた。アラベルがそれに答えられずに泣き続けていると、ベルタがことの経緯を説明する。その間、アリエルは横でただ悲しそうな顔でアラベルを見つめていた。


 話を聞くとフィリップは険しい顔になった。


「アラベル、泣くのをやめなさい。お前はどれだけお姉様に失礼なことを言っているかわかっているのか?」


 そう言われたアラベルはとても傷ついたような表情でフィリップを見つめたが、やっと泣くのをやめた。誰も慰めてくれないと理解したようだった。


 横で見ていたアリエルはアラベルがフィリップに怒られたことで、今度は両親を逆恨みして(おとしい)れたりはしないだろうか? と、少し心配になった。


 そんなアリエルの心配をよそにフィリップは言った。


「さぁ、お祈りをして食事にしよう」


 アラベルは食事中、終始うつむいて悲しげにしていたが誰もそんなアラベルに構うことはなかった。


 朝食が終わり、部屋へもどる時に追い抜きざまアラベルがアリエルに呟いた。


「お姉様、酷い……」


 よく言えたものである。アリエルは思わず怒りを覚えた。


「アラベル、お姉様は逆にそんなことを言う貴女のことが心配ですわ」


 思わずそう返すと、アラベルは振り向きじっとアリエルの顔を見つめたあと、薄ら笑いを浮かべ自室へ戻っていった。アリエルはそんなアラベルに何かしら得体のしれない恐怖を覚えた。


 自室へ戻るとアリエルはまず、一番信頼できるアンナにイヤリングについて話すことにした。


「アンナ、少しふたりだけで話したいことがあるの」


 アリエルがそう耳打ちするとアンナは頷き、メイドたちを全員下がらせた。


「お嬢様、改まってなんでしょうか?」


 アリエルは抽斗(ひきだし)の中のイヤリングを取り出し、つまんでアンナの目の前で揺らして見せた。


「このイヤリングに見覚えがあるかしら?」


「えっと……お嬢様のものではありませんね、でも見たことはあります」


 そう答えると、しばらくそのイヤリングを見つめたあと思い出したように言った。


「そのイヤリング、アラベルお嬢様のものですわ!」


「やっぱりそうよね」


 するとアンナは不思議そうにアリエルに訊いた。


「ですが、なぜアラベルお嬢様のイヤリングがその抽斗(ひきだし)に?」


 アリエルはとぼけて見せる。


「さぁ、(わたくし)にもさっぱりわからないわ」


「そうですよね……。とりあえず、そのイヤリングを私がアラベルお嬢様に返してくればよろしいのですか?」


「いいえ、すぐにアラベルに返してしまえば犯人が警戒して雲隠れしてしまうかもしれないわ。それだと誰が犯人で、なんの目的でこんなことをしたのかわからなくなってしまうでしょう?」


「確かに、そうですよね。アラベルお嬢様も物がなくなれば嫌な気分になるとは思いますけれど……。あっ、アラベルお嬢様にこのことは伝えますか?」


 アリエルは(かぶり)を振る。


「いいえ、あの子は少し弱いところがあるから、言わない方がよいと思うの」


「そうですね、確かにアラベルお嬢様は繊細でらっしゃるから……。でもお嬢様、こんな大切なことを誰にも言わないだなんて」


 アリエルは微笑む。


「もちろん、お父様とお母様には相談しますわ。でないと不安ですものね」


 それを聞いてアンナはあからさまにほっとした顔をした。


「お嬢様は一人でなんでも抱えてしまうところがありますから、安心いたしました。それで私はどのようなお手伝いができますか?」


「ありがとうアンナ。さっしがよくて助かるわ。アンナにはこれから毎日どこに何か置かれていないか部屋の隅々まで確認して、置かれていたらそれを詳細に記録してほしいんですの。(わたくし)も気を付けて見るようにはしますけれど、見落としがあるかもしれないもの…」


「はい、わかりました。お任せ下さい! でもこのことは他のメイドには知られないようにしなければいけませんね」


「そうね、こんなことができるのは疑いたくはないけれどメイドの誰かでしょうしね。隠れて詳細な記録を書いておけばそれらが置かれる日に必ずいる人物をあぶり出せるはずですもの。それまでは頑張りましょう」


「はい! お嬢様のことはしっかりお守りしますからね! 任せて下さい!!」


 そう言ってアンナは息巻いており、アリエルはそんなアンナを見て微笑んで言った。


「本当にいつもありがとう、アンナ」


「お嬢様、いいんです。私はいつでもお嬢様のお役に立ちたいのですから」


 アンナはそう言ってはにかんだ。


 以前のあの経験がなければ、こんなに自分を心配してくれている人がいることやその有り難みに気づかなかったかもしれない。アリエルはあの経験も決して無駄ではなかったと、アンナを見つめながら思った。






 舞踏会から数日、アラベルは王宮に通いエルヴェに会いに行っているようだった。


 アラベルがいない間に、両親にアラベルの私物が部屋に紛れ込んでいたことを話した。ベルタは難しい顔をしてアリエルを心配するばかりだったが、フィリップは思い当たる節があるようで他の誰にも言わないよう固く口止めをした。


 こうして窃盗に関して手を打つと、ひとまず落ち着いてアラベルの動向を見ることにした。


 前回アリエルは、舞踏会のあとエルヴェの誤解を解くため何度も王宮に足を運んだ。会って話がしたいと何度も掛け合ったが、エルヴェがアリエルに会ってくれることはほとんどなかった。それを思い出すと、胸がぎゅっと締め付けられるような感じがした。


 今はもうそんな無駄なことをする必要はない。時間ならたくさんあるのだからこの時間をもっと有効に使おう。


 そう頭を切り替えると屋敷でゆっくり好きなだけ刺繍をして過ごすことにした。

 昔はそこまで刺繍が好きなわけではなかったが、エルヴェに刺繍したハンカチをプレゼントするという目標を立ててからは努力を重ね、気がつけばかなりの腕前になっていた。

 それからは刺繍が楽しいと感じるようになった。


 カゴから前回続きにしていた刺繍を取り出すと、たたんでしまわれている完成されたハンカチに目が留まった。

 そのハンカチは舞踏会でエルヴェに渡すために刺繍したもので、エルヴェの紋章と自分の紋章であるユリ三つが刺繍されたハンカチだった。


 アリエルとアラベルは母方のユリの紋章を譲り受けた。だが見分けるためにアリエルはユリ三つ、アラベルはユリ二つとしていたので、エルヴェにはユリ三つが入ったハンカチを持っていてもらいたかった。


「アンナ」


「はい、お嬢様なんでしょうか」


「このハンカチは失敗作ですの、捨てておいてちょうだい」


 そう言ってアンナにそのハンカチを渡した。


「でも……お嬢様。これはあんなに頑張って練習して刺繍したものじゃないですか。全然失敗作なんかじゃありません」


 アンナは渡されたハンカチを寂しげにじっと見つめた。アリエルはそんなアンナの優しさが今はつらいと思いながら答える。


「渡す相手がいなければ、失敗作も同じだもの」


 それを聞いたアンナはそのハンカチを握りしめると言った。


「そんなこと仰らないでください。私はこのハンカチを完成させるためにお嬢様がどれだけ努力されてきたのか知っているのですよ?」


「そうかもしれないわね。でもそれはすべて無駄だったということよ」


「わかりました。でも捨てることなんてできません。これは私がお預かりしても?」


「貴女がそうしたいのなら……」


 アリエルはそう答えると続きにしていた、他のハンカチの刺繍に取りかかった。


誤字脱字報告ありがとうございます。


※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。


私の作品を読んでいただいて、本当にありがとうございます。


個人的にDMで返事をさせていただいていたのですが、あまりにもご指摘をいただくことが多いのでこちらにて失礼致します。


時々誤字脱字にてご指摘いただいているパイプラインの削除に関してですが、ルビを入れるための仕様です。


このパイプライン→|を消してしまうとルビをつけることができなくなってしまうので、ご理解のほどよろしくお願い致します。


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