37 妹
文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。
すると、アラベルはさらに目を見開いてにんまり笑うと言った。
「あぁ! アリエルお姉様! その恐怖の瞳も美しいですわ。けれど裏切られた時や、死に直面した時に見せる絶望を宿した瞳はもっと美しいに違いなかったでしょう。それを見れないことが私残念でなりませんわ」
それを聞いたエルヴェは急いでアリエルに駆け寄るとアラベルからアリエルを隠すように抱きしめ、兵士にアラベルを連れて行くように命令した。
後ろ手にされ、兵士に歩かされながらアラベルは無表情ながらいつもと変わりない口調でアリエルに言った。
「アリエルお姉様! 一つだけお願いがありますの! 私の死をその最後の瞬間まで見届けてくださいませ!!」
エルヴェがそれに素早く反応する。
「早く連れて行け!」
アラベルはすぐに部屋から連れ出された。それにシャティヨン伯爵も続く。大臣たちはベルトラードの周囲に集まり協議を始めた。
その間、エルヴェはアリエルを落ち着かせるように優しく抱きしめ背中をなでた。アリエルも落ち着くまでずっとそうしてエルヴェの胸に体を預けていた。
アラベルに憎まれているとは思っていたが、あんなにも深い闇を抱えていたとは知らずショックを受けた。
まだ憎まれていた方がよかったかもしれないと、そんなことを考えていた。
そうしてアリエルが落ち着いた頃、大臣たちの協議も終わったようでみんな立ち位置に戻り始めた。
アリエルとエルヴェも体を離して改めてベルトラードの方を向いた。
そんなアリエルたちにベルトラードが声をかける。
「エルヴェ、貴方は立派でした。見事にこの件を先回りして解決しましたね、私は誇らしい」
「王妃殿下、お褒めに与り至極光栄に存じます」
ベルトラードは微笑むと頷きアリエルに視線を移す。
「アリエルも大変だったわね。王宮にはいつまで滞在しても構わないわ。少なくとも気持ちが落ち着くまではこちらに滞在したほうがよいかもしれないわね」
そう言うと大臣たちに向かって言った。
「アラベルとシャティオンは極刑と決まった。後日改めて処刑は執り行うとする。では、今日の申し開きはこれまで」
その一言で、その場にいた全員が膝をおり、ベルトラードに頭を下げた。
大臣たちもベルトラードも部屋を去っていく中、エルヴェは立ち上がるともう一度アリエルを抱きしめた。
「アリエル、大丈夫か?」
そこへフィリップとベルタも駆け寄り、アリエルの頭を優しく撫でた。エルヴェがアリエルから体を離すと、フィリップは話し始める。
「アリエル、お前にはずっと言っていなかったことがある。アラベルのことだ。この機会に話しておきたい」
「はい、わかりました」
フィリップはエルヴェに向き直る。
「殿下にも聞いていただきたいのですが……」
「わかった」
フィリップは改めてアリエルを見つめると話し始めた。
「アラベルは小さな頃、笑わない娘だった。変わった娘だと思っていたがそれも個性だと思って見守っていた」
そう言うと言葉を切って少し躊躇ったあと続ける。
「これを話すとお前はショックを受けるかもしれない」
アリエルは頭を振って答える。
「それでもアラベルについてなにかあるなら教えてください」
すると一息置いてフィリップは話を続けた。
「あの子は昔、お前のことを亡き者にする方法やその計画を書いたノートを持っていたんだ。それに何をすればどのような反応をお前がするかを事細かにそのノートに書いていた」
そう語るフィリップの顔は少し青ざめて見えた。自分の娘がそんなことをしていると知った時は、さぞショックだったろう。
今も自分の娘があんなことをしでかし、極刑を言い渡されたのだから複雑な思いをしているに違いなかったが、そんなことはおくびにも出さずフィリップはアリエルを気遣うように言った。
「アリエル、大丈夫か? つらかったら聞かなくともいいんだぞ?」
「大丈夫ですわお父様、続けてください」
「そうか、では続ける。そのノートを見つけた時にあの子の異常性に気がついた。それでもまだ幼いあの子を更生できるかもしれないとも思った。それと同時に、同じ屋敷内でお前とアラベルを一緒に育てることはお前の命に関わるのではないかと不安に思い、私達はアラベルを他へ預けることも考えた」
「アラベルを他へ?」
「そうだ。そうしてアラベルを預ける予定だったんだが、いつも楽しそうにしている二人を見ていてこう考えた。アリエル、お前と一緒にいればアラベルも更生するのではないか? と」
そう言うとアラベルが連れて行かれた扉を見つめる。
「だが、私たちはあの子を救うことはできなかったのだな」
「お父様……」
悲しそうな顔をしているアリエルの頭を撫でるとフィリップは話を続ける。
「だかな、アリエル。アラベルはお前といるときだけ、お前と遊んでいるときだけはいつも笑っていたんだ。あの子の愛情は歪んだものかもしれないが、お前を愛していたのは確かなんだよ」
話を聞いていてアリエルは、お互いに家族として愛情を持っていたとしても、歪んだ愛情ではどんなにアリエルが仲良くしようとも、優しくしようとも、どちらかが破滅に向かうことは避けられないことだったのだと気づき悲しい気持ちになった。
そうしてアリエルも同じように扉を見つめた。しばらくそうしたのち、アリエルはフィリップに向き直ると、疑問に思っていたことを口にした。
「では私がアラベルの物が私の部屋にあると言った時、お父様はそれがアラベルの仕業だと気づいてましたの?」
「薄々な。だがアラベルが何をしようとしているのか見極めなければならなかったし、下手に動けばお前を命の危険にさらすかも知れなかった。だから自分で調べることにしてお前には関わらないように言ったのだ」
「そうだったんですの……」
「しかもアラベルはよく殿下に誘われていると出かけていたが、当の殿下がお前を誘いに屋敷へ来る日があったからね。アラベルが嘘をついていると気づいた私は、やはりなにかあると思った」
そう言うと微笑み、エルヴェの顔を見た。
「アラベルの異常性に気づいていた殿下からも忠告があったしな」
アリエルが驚いてエルヴェの顔を見ると、エルヴェは苦笑しながら頷いた。
「私は君を守るためフィリップに忠告し、アラベルを監視することにしたのだ。彼女は私の所へ行くと言って、シャティヨンのところへ通っていた」
そう言うと、少し言いづらそうにフィリップを見てから言った。
「アラベルはシャティヨン伯爵親子と関係があったようだ」
それを聞いてベルタが倒れそうになり、それをフィリップが支えると、エルヴェに向き直った。
「やはりそうでしたか。社交界でその噂を聞いた時は信じられない気持ちでしたが」
エルヴェは頷くと話を続ける。
「それと別荘での馬の事件だが、メイドのことを疑った私はすぐに王宮へ戻り調べることにした。そうして先ほど話したとおり、メイドにアラベルの息がかかっていると知り、そのメイドを利用し奴らの情報をこちらに流すように仕向け、今回の計画を知った」
「ではお父様やお母様、殿下も私をそうやってずっと守ってくれていたのですね?」
そこでオパールがアリエルに抱きつくと口を挟む。
「お姉様、私も協力しましたわ! アラベルがおかしいのはなんとなく気づきましたもの。息を吐くように嘘をつくし、とにかくお姉様に近づく人間をすべて遠ざけようとしていて、ただの姉好きには見えませんでしたわ」
エルヴェは呆れたように言った。
「それはオパール、君も変わらないと思うが……」
「失礼なこと言わないでちょうだい! 私は純粋にお姉様が好きなだけですわ! お姉様が本気で嫌がるようなことはしません!!」
そう言ってむくれると、アリエルの体に顔を埋めた。アリエルはオパールを抱き締め言った。
「オパールもその小さな体で精一杯私を守ってくれたのね? ありがとう」
すると、オパールは満足そうにさらにアリエルを強く抱きしめた。
話し合いが終わり、屋敷へ戻らずしばらく王宮に滞在することになったアリエルは、王宮内の客間に戻って一息つくことにした。
部屋に入るなりアリエルは、ほっと胸を撫で下ろすと全身の力が抜けるような気がした。
これですべてが終わった。自分は処刑を免れることができたのだ。
そう思うとどっと疲れがでて、思わずベッドに寝転がった。うつらうつらしていると、アンナに声をかけられる。
「お嬢様、お休みのところ申し訳ありません。王太子殿下がお見えになられています」
「エルヴェが?」
アリエルは慌てて身支度を整えると、エルヴェを待たせている応接室へ向かった。扉を開けると、エルヴェは部屋の中央で立ってアリエルを待っていた。
誤字脱字報告ありがとうございます。
※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。
私の作品を読んでいただいて、本当にありがとうございます。
個人的にDMで返事をさせていただいていたのですが、あまりにもご指摘をいただくことが多いのでこちらにて失礼致します。
時々誤字脱字にてご指摘いただいているパイプラインの削除に関してですが、ルビを入れるための仕様です。
このパイプライン→|を消してしまうとルビをつけることができなくなってしまうので、ご理解のほどよろしくお願い致します。




