35 親心
文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。
「殿下、そういうことですのね?! 先日ルーモイの別荘でハイライン公爵令嬢にもそのように言われましたわ。では改めて公の場で証言いたします!」
「ならば今日、申し開きの場を作ろう。そこで証言すればいい。その申し開きの場で、君にはこの『ティア・ドロップ・ザ・ムーン』が必要になるだろう? それまでこれは君に預けよう」
そう言われたアラベルは、エルヴェに信頼されていると思ったのか嬉しそうに立ち上がると、エルヴェから偽物の『ティア・ドロップ・ザ・ムーン』を受け取り、アリエルを憐憫の眼差しで見つめ一礼して去っていった。
エルヴェは振り向くとアリエルに言った。
「大丈夫か? 気分が悪くなったりしていないか?」
「私は大丈夫ですわ。アラベルの言ったことにとても腹は立ちましたけれど。それよりアラベルを帰してしまってよろしかったのですか?」
アリエルがそう答えるとエルヴェは微笑んだ。
「かまわない。ここで彼女を問い詰めても嘘をついて罪を認めないだろう。申し開きの場で問い詰める必要がある。さて、私たちは盗難の真犯人を追い詰めるための準備をしなければね」
そう言うとエルヴェは、アリエルの手を引いてベルトラードの部屋へ向かって歩き始めた。
その日の午後、改めて『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』窃盗についてアリエルに対する嫌疑の申し開きが王宮で行われることとなった。
国王陛下は多忙なため参加しなかったが、国宝の窃盗といった国にとっての大事だったため数人の貴族たちと大臣、それにベルトラードが参加することになった。そしてアリエルの両親もアラベルの訴えで呼ばれることになった。
これだけ早く準備ができたのは、以前からエルヴェが計画を立てていたからだろう。
玉座に座るベルトラードの前で、アラベルは偽物の『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』を大切そうに胸に抱え、恭しくカーテシーをすると悲しげに説明し始めた。
「昨日『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』をホラント家の屋根裏のチェストで見つけた私は、すぐに『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』を持って王宮に参じました。そして直ちにそれを見つけた経緯を王太子殿下に説明したのです。一昨日、姉のアリエルがそれを自室から持ち出しチェストへ隠すのを見たと」
大臣たちはざわめいた。それが静かになるまで待つとアラベルは続ける。
「それに普段から姉のアリエルには盗癖がありました。私の物をいつも盗んでいたのです。家族間のことなのでずっと目をつぶってきたのですが、こうなるとわかっていればちゃんと追及すべきだったと思っています」
そう言って悲しげな顔をすると、フィリップを見つめた。
「お父様、アリエルお姉様を庇うのはもうやめましょう。私アリエルお姉様が窃盗した証拠を提出しますわ。お父様、証言をお願いします。アリエルお姉様の部屋で私の物が見つかったときのことですわ」
フィリップは言われてゆっくりベルトラードの前に出ると口を開く。
「王妃殿下、恐れながら申し上げます。ただいま娘のアラベルに証言を求められた内容ですが、私ごとであり、このような公の場で証言すべき内容ではないことだと私は判断いたします」
するとベルトラードは眉根を寄せて言った。
「これはお前の娘でもあるが、私の娘になるアリエルのことでもある。必要かどうかは私が判断するべきことでお前の判断することではない。証言せよ」
フィリップは恐縮したように答える。
「申し訳ありません。承知いたしました」
そして深々と頭を下げると振り向き、使用人に合図した。すると、使用人はジュエリートレーに載せたアクセサリーを王妃殿下に差し出した。
「女王陛下、これは先日アラベルが『最近紛失した』と訴え、アラベルが証言した場所を探したところ出てきた品々です。実はこれらは姉のアリエルの部屋から出てきました」
ベルトラードは興味なさそうにトレーを一瞥するとフィリップの顔に視線を戻す。それを見てフィリップは続ける。
「ですが、私はアリエルから王宮で開かれた舞踏会の直後に相談を受けていました『自分の部屋に知らないうちにアラベルの物が置いてある』と」
それを聞いていたアラベルは驚いた顔をしアリエルを見つめてきたが、アリエルはそれを無視してフィリップを見つめつづけた。
フィリップは少し悲しそうにそんなアラベルを見つめると、ベルトラードに視線を戻して言った。
「こんなことをする目的はあまりにもわかり過ぎています。アリエルに罪を着せるためでしょう。ですから慎重に調べることにいたしました。すると一人のメイドがアリエルの部屋にアラベルの私物を隠しているのを見つけたのです」
それを聞いてベルトラードは興味深げに身を乗り出して質問する。
「それで、そのメイドは雇い主や目的を話したのか?」
「はい。アラベルに命令されたのだと証言しました」
ベルトラードは鼻白むと言った。
「やはりな」
そこでアラベルが叫ぶ。
「お父様、違いますわ! アリエルお姉様は私を陥れようとしているのです」
フィリップは大きくため息をつくとそれに答えた。
「ではお前はなぜ、犯人を姉のアリエルと言い切り、その盗品がアリエルの部屋にあると断言した?」
そう聞かれアラベルは瞳を潤ませながらフィリップを見つめた。フィリップは憐憫の眼差しで見つめ返すと話を続ける。
「普通、姉を疑う前にメイドを疑うはずだ。現にお前の部屋から品物を持ち出したのはメイドだった。まずはそのメイドを調べるのが筋であろう。だがお前は最初からメイドたちを調べもせず、姉を犯人と決めつけた挙げ句、姉の部屋のどこに盗品が隠されているかまで言い当てた」
「お父様、酷いですわ!」
そう叫びながらフィリップに駆け寄ろうとするアラベルを、兵士たちが取り押さえた。そこでベルトラードが口を開く。
「アラベル、お前は少し発言を控えなさい。ではフィリップ、話を続けよ」
フィリップは短く返事を返すと続ける。
「アリエルが幼いころ、アクセサリーがよくなくなると侍女から報告がありました。私は使用人の誰かが盗みを働いているのだろうと思い、アリエルに与えるアクセサリーには一見してわからないようアリエルの名を刻印することにしたのです」
それを聞いたベルトラードは、アラベルを侮蔑の眼差しでちらりと見るとフィリップに視線を戻して言った。
「それがこのアラベルが盗られたと主張するアクセサリーの中から発見されたと?」
「はい、そうです」
そう答えると、フィリップはアラベルが盗られたと訴えたアクセサリーの中から数点を他のものとわけて横に寄せた。
「確認していただければアリエルの物だとわかると思います。これをアラベルは自分の物と断言したのです」
アリエルは昔からよく物がなくなるのは自分がいけないのだと思い両親に言わないでいたが、それについてフィリップが気を揉んでいてくれたことを嬉しく思った。
そしてアラベルが自分のものを盗んでいたなど、今の今まで気づきもしなかったのでとても驚いた。アンナも気づいていたのだろうが、アリエルを不安にさせまいと黙ってくれていたのだろう。
フィリップは言いにくそうに続ける。
「これらのことから、一連の犯人はやはり妹のアラベルなのだろうと私は判断しました。ですがこれは家族の問題であり、公にするつもりは毛頭ありませんでした……」
すると背後からアラベルの叫び声が聞こえた。
誤字脱字報告ありがとうございます。
※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。
私の作品を読んでいただいて、本当にありがとうございます。
個人的にDMで返事をさせていただいていたのですが、あまりにもご指摘をいただくことが多いのでこちらにて失礼致します。
時々誤字脱字にてご指摘いただいているパイプラインの削除に関してですが、ルビを入れるための仕様です。
このパイプライン→|を消してしまうとルビをつけることができなくなってしまうので、ご理解のほどよろしくお願い致します。




