34 演技
文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。
廊下を歩きながらエルヴェは言った。
「王妃殿下は大層君を気に入ってしまったようだね。だが、私も君を王妃殿下に渡すつもりはないから安心して欲しい」
そこで言葉を切り、懐中時計を取り出した。
「予定どおりならもうすぐアラベルが王宮へ来るだろう。君が犯人だと証言するためにね」
そう言うと立ち止まり振り向く。
「君はそれに立ち向かうことができるか? つらくないか?」
「もちろんですわ。だって殿下が、エルヴェが守ってくださるのでしょう?」
そう答えると、エルヴェはアリエルを抱き締めた。
「ありがとう、私を信じてくれて。愛してる、君を全力で守るよ」
そこへ執事がやって来ると、エルヴェに声をかけた。
「殿下、ホラント伯爵令嬢が殿下との謁見を望まれているのですが、どうされますか?」
アリエルは人に見られていたことが恥ずかしくなり慌ててエルヴェの胸から逃れようとしたが、エルヴェはそんなアリエルを逃さないとばかりにさらに強く抱きしめて答える。
「適当な部屋で待たせておいてくれ」
「承知しました」
エルヴェは執事がその場を去ってしばらくしてからやっとアリエルを解放すると言った。
「さっき、名で呼んでくれたね?」
恥ずかしくなり目を逸らそうとすると、エルヴェはアリエルの頬を両手で挟み込み瞳を覗き込む。
「嬉しいよ。これからは名で呼んでくれるか?」
アリエルは恥ずかしすぎて目をギュッと閉じると無言で何度も頷いた。そんなアリエルをエルヴェはもう一度強く抱きしめた。
エルヴェはアラベルが待っている部屋を執事に確認すると、アリエルの手を引いてその部屋へ向かった。
扉が開くと中でアラベルが不安そうにエルヴェを待っていたが、エルヴェがやってきたと気づくと満面の笑みで顔を上げた。
「殿下、私どうしたらいいかわからなくて!」
そう言うとアリエルの存在に気づいて立ち止まり、不安そうな顔をして言った。
「アリエルお姉様? なぜ殿下と一緒に?」
そして目に涙を溜めるとボロボロと大粒の涙をこぼして言った。
「アリエルお姉様と一緒だなんて、殿下は私の言うことは信じてくださらないですわね」
するとエルヴェは答える。
「そんなことはない。私はいつでも公平無私でいようと心がけている。さぁ、アリエルのことは気にせず話すがいい」
「でも、私の話を聞いたら殿下はとてもショックを受けるかもしれませんわ。だって殿下は、その、アリエルお姉様を信頼なさってますもの」
エルヴェは苦笑する。
「君には私がそんなにやわな人間に見えているのか」
「そ、そんなことはありませんわ。そこまで仰るならお話しします。アリエルお姉様ごめんなさい」
そう言ってアリエルを見つめるアラベルからエルヴェはアリエルを隠して言った。
「今はとにかくアリエルのことは気にしなくていい。さぁ、話して」
そう促され、アラベルはうなずくと意を決したように話し始めた。
「昨夜の話です。お茶会から帰ってきたアリエルお姉様は疲れたと言って部屋にこもってしまわれましたわ。私はそれを聞いてとても心配したのです」
そう言うとハンカチを取り出し自身の涙を拭った。それまでエルヴェがハンカチを差し出してくれることを期待していたようだったが諦めたのだろう。
エルヴェは顔色ひとつ変えずに話の先を促す。
「そう、それでどうしたんだ?」
アラベルは怯えたようにアリエルをちらりと見ると、申し訳なさそうに続きを話し始める。
「それで、夜中にふと目が覚めた私はアリエルお姉様のことが気になって、アリエルお姉様の部屋の前まで行きました。ノックをしようか迷って部屋の前を行ったり来たりしていたら、突然中からお姉様が出てきたのです。アリエルお姉様はとても怖い顔をしていて、私驚いてしまって思わず隠れてしまいました」
アリエルはこの話を聞いていて、前回もアラベルはこんな嘘八百をエルヴェに聞かせたのかと腸の煮えくり返る思いでその話を聞いていた。
そうしてアリエルがアラベルを見つめると、それに気づいたアラベルはわかりやすく怯えて見せた。
「ひっ! 殿下! 今アリエルお姉様が私のことを睨んでますわ!」
そう言ってアラベルはエルヴェに助けをもとめたが、エルヴェはアリエルの手をギュッと握るとアラベルから守るように隠した。
アリエルは頭に血がのぼったが、エルヴェの対応で少し落ち着きを取り戻すと、これ以上不快な思いをしないようにアラベルから視線を逸らす。
エルヴェはアラベルに言った。
「私がここにいるのだから君の安全は確保されているはずだ。必要以上に怯える理由はないだろう。とにかく話を続けてくれ」
そう言われアラベルはすがるようにエルヴェを見つめると、さらに涙をこぼした。
「殿下、なんだか冷たいですわ。以前はあんなに優しくしてくださったではないですか。どうされたのですか?」
「君にそのように接した記憶はないが? それに君は話をする気がないのか? 話の筋に関係のない発言は謹んでくれ。こちらも時間がないのでね、君にだけ構ってはいられない」
エルヴェはそう答え大きくため息をついた。するとアラベルは慌てる。
「そんなつもりはありませんわ。とても大切な話をするために私も覚悟を決めてここに来ているのです!」
「ならば早く話さないか」
半ば呆れたようにエルヴェがそう答えると、アラベルはまた涙をこぼしながら話を続ける。
「はい、すみません。それで、部屋から出てきたアリエルお姉様は何かを大切に抱えていました。不思議に思った私はそのままアリエルお姉様の後ろを静かに追ったのです。そうしたら、アリエルお姉様は屋根裏部屋のチェストの前で立ち止まると、周囲を警戒しながら大切に抱えていたものをチェストに隠したのです」
そう言うとアラベルはエルヴェの顔色を窺うように見つめたが、エルヴェは眉ひとつ動かさずに無言でアラベルが話すのを待っている。
アラベルはエルヴェがなんの反応もないことに戸惑った様子になりながら話を続ける。
「えっと、あの、そのあとアリエルお姉様も私も部屋に戻ったのですが、今朝になって私はチェストに隠された物がなんなのかとても気になってしまって、屋根裏に向かいました。そしてチェストの中を確認するとこれが……」
アラベルは震える手で布に包まれた物をエルヴェに渡した。エルヴェはそれを受け取ると布を広げる。すると中から『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』が姿を現した。
突然、アラベルはその場に泣き崩れた。
「殿下、アリエルお姉様が、申し訳ありません!」
エルヴェは顔色一つ変えずにそんなアラベルに言った。
「わざわざここまで持ってきてご苦労だった。だが犯人に関しては私の知っている事実と大きく異なるようだ」
アラベルは涙に頬を濡らしたまま顔を上げてエルヴェを見つめる。
「殿下、信じてくださらないのですか?」
エルヴェは鼻で笑って答える。
「信じる? 君が真実を訴えると言うのならば、公の場で申し開きをするがいい。私も証言できるものを集めよう」
それを聞いたアラベルは、何を勘違いしたのか微笑むと言った。
誤字脱字報告ありがとうございます。
※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。
私の作品を読んでいただいて、本当にありがとうございます。
個人的にDMで返事をさせていただいていたのですが、あまりにもご指摘をいただくことが多いのでこちらにて失礼致します。
時々誤字脱字にてご指摘いただいているパイプラインの削除に関してですが、ルビを入れるための仕様です。
このパイプライン→|を消してしまうとルビをつけることができなくなってしまうので、ご理解のほどよろしくお願い致します。




