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33 寝顔

文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

 そんなことを考えていると、馬車は屋敷の前に到着した。

 馬車から降りるとエントランスホールでアラベルがアリエルを待ち構えていた。


「アリエルお姉様、お願いがありますの」


 アリエルはアラベルに見向きもせずにアンナに素早くコートを脱がせてもらいながら答える。


「なんですの?」


「アリエルお姉様から殿下やハイライン公爵令嬢に今日のドレスについて誤解だと仰ってください」


 動きを止めるとアリエルは、(さげす)むようにアラベルを見つめる。


「なぜ? 貴女が(わたくし)のドレスを盗ったのは本当のことでしょう? 貴女も自分の行いには責任をとらなければね、もう大人なのだから」


 そう吐き捨てると、急いで階段を駆け上がる。その背中に向かってアラベルは叫ぶ。


「そんな、酷いですわ。(わたくし)をそうやって(おとしい)れて楽しいのですか?」


 それはこちらの台詞だと思いながら、アリエルはアラベルを無視して自室へ向かった。


『アラベルには屋敷を出ることがばれないようにすること』


 エルヴェにそう言われていたアリエルは細心の注意を払って準備をしなければならなかった。

 急いで自室の扉を開くと、そこに両親が立っていた。


「お父様?! それにお母様も?!」


 フィリップは悲しげな顔でアリエルを見つめると抱き寄せた。


「アリエル、私が不甲斐ないばかりにすまない」


「お父様……」


 するとベルタも悲しげに微笑むと、アリエルの背中をさすりながら言った。


「アリエル、王太子殿下から話を聞いて準備は済ませてあるわ。あとの事は(わたくし)たちに任せて貴女は何も考えず早く着替えて裏口から屋敷を出なさい」


「お母様も……、ありがとうございます」


「アリエル、何があってもお父様とお母様はお前の味方だ、わかっているな?」


「はい、わかっています」


 アリエルがそう答えるとフィリップもベルタも微笑んで返した。


 慌てて支度をしたが屋敷を出る頃にはだいぶ日が傾いていた。急いで屋敷の裏手に行くと、そこにはエルヴェが手配したであろう馬車が迎えにきていた。

 アリエルは馬車に乗り込むと両親に見送られながらアンナと共に屋敷をあとにした。


 馬車に揺られながらアリエルは自分の知らないところで何かが起こっているのを感じた。


 どこへ向かっているのか少し不安になりながら窓の外の暗闇を見つめていると、御者は馬車を止める。


「お嬢様、おかえりなさいませ」


 門番がそう言うと、馬車は門の中へ進んで行く。アンナが驚きながらアリエルに言った。


「お嬢様、なぜ馬車は王宮へ?」


 アリエルも混乱した。


(わたくし)もわかりませんわ、殿下は安全な場所に匿うとだけ言っていましたもの。てっきりオパールかファニーの屋敷だと思ってましたし」


 そうこうしているうちに馬車は王宮の裏手の扉の前で止まり、馬車を降りるとエルヴェがアリエルに手を差し出して出迎えた。


「殿下、これは一体どういったことなのでしょう?」


 するとエルヴェは苦笑して答える。


「現状についてあとで君には必ず説明する。とにかく今日は疲れているだろうからすぐに休むといい」


 そう言ってアリエルをエスコートした。


「とりあえず、客間で過ごしてもらう。君の部屋はまだ改装中でね、急がせているのだが間に合わなかったんだ」


(わたくし)の部屋ですの?!」


「そうだ。まだ返事をもらっていないが、どんなに君が拒否しようと私は君を手放す気がないのでね」


 そう言ってエルヴェは照れ臭そうに微笑むと客間へ案内した。


「君と一緒にいたいが、私は急ぎやらなければならないことがある。君はゆっくりしていてくれ」


 そう言い残し部屋を去っていった。アリエルは客間のソファに腰かけると、ぼんやり怒涛の一日を思い出していた。


 アンナがそんなアリエルに声をかける。


「お嬢様、王太子殿下がお嬢様がお疲れだろうからと部屋にお食事を運んでくれるそうです。お食事を済ませて今日は休みましょう」


 そう言って微笑んだ。


 翌朝、余程疲れていたのかアリエルが起きたのは昼前だった。


「昨日はいろいろありましたから、お疲れだったんでしょう。一度心配してお見えになった王太子殿下も、ゆっくり休むといいって仰ってましたよ」


「殿下がここへいらせられましたの?!」


「はい! それで食事をとったらいつでもいいから部屋へ来てほしいとの事です」


 アンナは嬉しそうにそう返事をしたが、アリエルは失礼なことをしてしまったと申し訳なく思った。


 慌てて遅めの朝食を兼ねた昼食を取るとエルヴェの部屋へ案内してもらった。許可が出てエルヴェの執務室へ入るとアリエルはまず頭を下げる。


「一度部屋まで様子を見に来られたそうで、お手を煩わせてすみませんでした」


 話しているアリエルの手を取り指先にキスするとエルヴェは言った。


「アンナに頼んでね、君の寝顔を思う存分眺めることができたのだから君が謝ることはないよ」


「えっ? はい?! ね、寝顔をですの?!」


 アリエルはカッと顔が赤くなるのを感じた。


「うん、すまない。どうしても見たくてね、どうせ夫婦になるのだからとアンナも渋々承諾してくれたよ」


「な、えっ? あの、は、恥ずかしいです……」


 アリエルがそう言って俯くと、エルヴェはじっとアリエルを見つめた。


 しばらく沈黙が続き、エルヴェは咳払いをすると口を開いた。


「とにかく、今日は君に話したいことがあるからソファに座ってくれないか?」


「はい……」


 アリエルがそう言ってソファに座ろうとした瞬間、扉を叩く音が室内に響いた。


「なんだ」


 エルヴェがそう言うと扉の向こうで使用人が言った。


「あの、王妃殿下がお呼びです。大切な用事だそうで……」


 エルヴェは真剣な眼差しになると呟く。


「きたか」


 そして、アリエルに向き直ると言った。


「アリエル、君はここで待っていて欲しい。そして、呼ばれたら来てくれ」


 アリエルは(かぶり)を振った。


「殿下が(わたくし)を守るために陰で奔走(ほんそう)してくださっていることは承知しております。ですが、自分のことですからなにもわからないまますべてが終わってしまうのは嫌なのです」


 そう訴えると、エルヴェはしばらく考え頷いた。


「たしかに君の言うことはもっともだ。私は君を危険から遠ざけようとすることだけ考えて、君の気持ちを(ないがし)ろにしてしまっていたようだ。では一緒に行こう」


 そう言って手を差し出した。アリエルがその手をつかむと、ふたりは互いに見つめ合い頷いた。


 エルヴェのエスコートでベルトラードの部屋へ行くと、ベルトラードはゆったりソファに座って待っていた。


「エルヴェ、来ましたね。挨拶抜きにして用件だけ言うわ。お前が言っていたように国宝である『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』が盗まれた」


 アリエルは前回、これを窃盗した罪で処刑されたことを思いだし血の気が引いた。


 エルヴェはため息をついて答える。


「はい、想定内のことです。心配はいりません」


「そうね、お前が事前に偽物とすり替えてくれていたから大事には至らなかったわ。それにしても、アリエルを昨日から匿ったことは得策だったわね」


 そう言うとアリエルを見つめる。


「アリエル、怯えているようね。でも安心なさい、エルヴェがすべて解決するわ。この子は貴女を守るために必死だから、貴女を傷つけるようなことには絶対にならないはずよ?」


「は、はい!」


 アリエルがそう答えると、エルヴェは振り返りつないでいる手をさらに強く握ってアリエルを見つめた。そんなエルヴェをアリエルも見つめ返す。


 そんな二人を見てベルトラードは微笑むと続ける。


「エルヴェ、この可愛らしいお嬢さんを全力で守りなさい。それにしても……」


「なんでしょうか?」


「オパールがこのお嬢さんをそばに置きたい気持ちもわかるわねぇ。(わたくし)もそばに置きたいもの」


「それはできません!!」


 エルヴェはそう言うとアリエルを背中に隠す。それを見てベルトラードはふふっと笑うと言った。


「大丈夫、お前から取り上げるようなことはしません。大切にしなければその限りではないけれど」


 そう言ってエルヴェの背後から少し顔を出したアリエルをじっと見つめた。その視線をエルヴェは体で遮ると、一礼してアリエルの手を引いて部屋を出た。


誤字脱字報告ありがとうございます。


※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。


私の作品を読んでいただいて、本当にありがとうございます。


個人的にDMで返事をさせていただいていたのですが、あまりにもご指摘をいただくことが多いのでこちらにて失礼致します。


時々誤字脱字にてご指摘いただいているパイプラインの削除に関してですが、ルビを入れるための仕様です。


このパイプライン→|を消してしまうとルビをつけることができなくなってしまうので、ご理解のほどよろしくお願い致します。


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