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2 断頭台

文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

「では証人をここに」


 裁判官の合図によって連れてこられたのはアラベルだった。信じられない気持ちでアリエルがアラベルを見つめていると、アラベルはアリエルに向かって涙ながらに言った。


「アリエルお姉様、ごめんなさい。(わたくし)嘘はつけませんでしたわ」


 すると、裁判官がアラベルに注意する。


「証人は今回の件と関係のない発言は慎みなさい。さぁ、何があったのか証言しなさい」


 アラベルはうつむきながら、大粒の涙をこぼすと話し始める。


「あの、騒ぎになった日『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』が行方不明になったと騒ぎになった日ですわ。あの日の深夜にアリエルお姉様が『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』の入った箱を持って自分の部屋に向かっているのを見てしまったのです」


 それを聞いていた傍聴人たちがざわざわと騒ぎだし、裁判官は木槌を打った。


「静粛に! それで君はどうしたのかね」


 アラベルはちらりとアリエルを見ると、申し訳なさそうに続きを話し始める。


「それで、まさかアリエルお姉様がそんなことをするはずはないと思っていたのですが、その、アリエルお姉様は日頃から(わたくし)の物も盗っていくというか、あの、盗むことがあって……、でも(わたくし)もまさかアリエルお姉様が?! と驚いて最初は自分の見たことが信じられなかったのですけれど……」


 小さな声で戸惑い気味にしどろもどろで話すアラベルに、裁判官は痺れを切らす。


「証人はもう少し簡潔に大きな声で話しなさい」


 その言葉でアラベルはびくりと身体が跳ねた。そして、怯えた目をして続ける。


「どうしたら良いかわからずエルヴェ殿下に相談いたしました。そうしたら殿下がアリエルお姉様の部屋を捜索して『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』がアリエルお姉様のお部屋から出てきたのです」


 その証言でさらに傍聴席が騒がしくなった。アリエルはアラベルの様子を見て、誰かに脅され言わされているのではないかと考えていた。だが誰が自分を(おとしい)れようとしているのか、皆目見当がつかなかった。


 裁判官がまた木槌を打つ。


「静粛に! アリエル、君はこれに対し反論はあるかね?」


「これは誰かの策略に違いありませんわ。(わたくし)には『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』を盗む動機がありませんもの。それに妹は誰かに脅されて証言させられているに決まっています。でなければ実の姉の犯罪を証言するはずがありませんわ!」


 すると、アラベルが訴える。


「アリエルお姉様、もうやめて! 裁判長、アリエルお姉様はほんの一時の気の迷いでこんなことをしてしまったのです。今は反省しているはずですわ。お願いいたしますどうかご慈悲を!」


 その発言に驚きアラベルを見ると、泣き崩れているアラベルの肩を神妙な面持ちでエルヴェが抱き寄せ慰めていた。

 アリエルはその光景が信じられず、思わずじっと見つめていると裁判官が木槌を打った。その音に驚き、裁判官に視線を戻す。


「国宝である『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』を己の私利私欲から盗んだ被告人の罪は、言い逃れることのできない重罪である。にもかかわらず、被告はその罪を認めもせず反省の色も見られない。これらを踏まえ被告人アリエル・ファン・ホラントに極刑を言い渡す」


 アリエルはこの現実が信じられずに呆然とした。まるで夢でも見ているような気分だった。


「そんな、こんなことが許されるだなんて……」


 後ろから両親の悲痛な叫び声がした。そして、娘であるアリエルの罪を軽くしてくれるように必死に訴え始めた。アリエルは振り向き両親に手を伸ばすが、兵士にそれを押さえられる。


「お父様! お母様!」


「あぁ、アリエル。私たちはお前を信じている。絶対に助けるから待っていなさい!」


「アリエル、アリエル! 絶対に諦めてはダメよ?! 気を強くもって、お父様もお母様も貴女を心から愛しているわ」


 アリエルはその言葉に涙が溢れた。だが両親の願いは届かず、翌日にはその刑が執行されることとなった。


 後ろ手に縛られ、兵士に歩くよう促されると断頭台へ向かって歩く。


 周囲を取り囲む群衆が一斉にアリエルに罵声を浴びせていた。虚ろな眼差しで周囲を見渡すとそこにエルヴェがアラベルの肩を抱き慰めている姿が見えた。


 と、その時。アラベルがエルヴェの手を振り切りアリエルのもとへ駆け寄った。


「お姉様と、最後にアリエルお姉様と話をさせてください!!」


 兵士は一瞬嫌そうな顔をしたが、背後でエルヴェが無言で頷いたのを見て話をすることを許可した。近づいてきたアラベルにアリエルは訊いた。


「アラベル、最後に一つだけ教えて。誰に言われてあんな証言をしたの?」


 すると、アラベルはそっと顔を近づけて耳元で囁いた。


「まだ気づかないの? 鈍感ね。(わたくし)は誰にも脅されてなんていないわ。アリエルお姉様を(おとしい)れたのはこの(わたくし)よ?」


 信じられない台詞に目を見開いてアラベルを見つめる。


「そんな。アラベル、なぜそんなことを?」


「だって同じ顔は二ついらないでしょう?」


 そう言ってニヤリと笑った次の瞬間、アラベルは突然ポロポロと涙をこぼした。


「アリエルお姉様、そんな……。絶対に(わたくし)を許さないだなんて!」


 そう叫ぶとエルヴェの胸へと迷いなく飛び込んで行った。その後ろ姿を見て、アリエルはあまりにも悔しくて下唇を噛んだ。


「ほら、もういいだろう。歩け!」


 そう言われ兵士に断頭台の前に立たされると、その横にいた兵士がアリエルの髪を剣で切り落とした。

 その場に(ひざまず)かされると無理やりに断頭台に頭を乗せられる。そして、首筋をむき出しにされると執行人が斧を振り上げた。


「待て、待て! 止めろ! 止めろー!!」


 そう叫ぶエルヴェの声がしたような気がしたその瞬間、アリエルは首筋に冷たいものを感じた。






 気がつくとアリエルは屋敷内の自分のベッドに横たわっていた。思わず起き上がりまず自分の首筋を触った。


 つながっている……。


 状況が理解できずに慌てて侍女のアンナを呼んだ。アンナはアリエルの部屋へ駆けつけると、寝ぼけ(まなこ)で言った。


「お嬢様、こんな夜中にどうされたのですか?」


(わたくし)の処刑は中止になりましたの?!」


 アンナは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をすると、笑いだした。


「お嬢様、悪い夢でも見たのですね? 大丈夫です。処刑だなんてそんなことはありえません。安心してお休み下さい」

誤字脱字報告ありがとうございます。


※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。


私の作品を読んでいただいて、本当にありがとうございます。


個人的にDMで返事をさせていただいていたのですが、あまりにもご指摘をいただくことが多いのでこちらにて失礼致します。


時々誤字脱字にてご指摘いただいているパイプラインの削除に関してですが、ルビを入れるための仕様です。


(わたくし)


このパイプライン→|を消してしまうとルビをつけることができなくなってしまうので、ご理解のほどよろしくお願い致します。


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