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深夜の追跡者

 一気に三級に上がって気分は上々だ。

 今日はお金を使って初めてレストランで食事をしてみた。

 僕達は特に食事をとる必要はない。

 

 食べなくても死ぬことはないし、お腹が空くということもない。

 冥体は生きているわけでも死んでいるわけでもないから、いわゆる生命維持に必要なことは不要だ。

 だけど食べられないわけじゃないし、おいしいものを味わうことはできる。


「ルト様。とてもおいしかったですわ」

「現世の肉があんなに新鮮だなんて知らなかったよ。死臭がしないなんてね」

「あんなにおいしいものが食べられるのだから、死んでなんていられませんわ」

「その通り、死んでいいことなんて一つもない」


 メンバーは僕とアレイシア、バルロイ、グライザー、ギルバインだ。

 ノアグレンも誘ったんだけど断わられた。

 冥体と亡者が現世で食事だなんておかしな話だけど、どうやら全員満足してくれたらしい。

 グライザーなんかは舌が肥えているせいか、あーだこーだうるさかった。

 スパイスが足りないとか出汁が取れてないだとかソースが薄いだの、うるさい亡者だ。

 店に迷惑がかかるから怪収(ダークサイド)で引っ込んでもらった。


 でもこういうのが現世でやりたかったんだ。

 生きているからこそできること、生きているからこそ実感できること。

 食事終わり、夜の町を歩いて宿へと向かう。


 夜の空気を吸いながらぶらぶら歩いていると、どうもおかしい。

 ずっと一定間隔で僕の跡をつけている奴がいる。

 攻撃してくる様子もない。


「そこに隠れているんでしょ? 出てきてよ」


 立ち止まって声をかけると、建物の陰から一人の女の人が出てきた。

 綺麗な鎧を身に着けた人だ。どこかに所属している騎士かな?

 敵意は感じないけど、僕への視線が強い。


「初めまして。私は西聖騎士団のレニカ、跡をつけて申し訳ない」

「西聖騎士団? 東聖騎士団とは違うの?」

「東聖騎士団は東のアスカーラ領が抱える騎士団だ。私はフリド領の西聖騎士団所属だ」

「ふーん、つまりサーランドと違って敵じゃないってことを言いたいんだね」


 レニカは表情を崩さない。

 サーランドの件があったから少し脅かしてみたけど一切動じないな。

 もしかしたらその辺が絡んでると思ったんだけど違うのかな?

 どっちにしろこのレニカ、かなり場慣れしている。


「単刀直入に頼もう。あなたの力を借りたい」

「……話くらいは聞こうかな」

「ありがとう。あなたには我々と共に王国に仇成す敵と戦っていただきたい」

「王国に仇成す敵?」

「現在、この国には王国を転覆させようと画策している組織が存在するのだ。彼らは王国の至る所に潜み、資金や戦力を組織に供給している」


 そんな話を聞いても僕には何の感情も湧かなかった。

 レニカの真剣な態度からして、鬼気迫る状況なのは理解できる。

 それは国に仕える騎士として正しい。


 僕が裁いた魂の中にも自分を犠牲にして散った騎士達がいた。

 彼らは後悔するどころか、国のために死ねたことを誇りとしている。

 それは確かに善良な人間であり、人間獄以外に行く理由はない。


 普通はね。


 国のために自分を犠牲にしている以上、誰かを悲しませていることになる。

 国のために死んだ人の家族や恋人はどう思う?

 その人達は自分達が大切にしている人を失ってまで、国を愛しているのかな?

 それに――


「国を転覆させたがっている連中は果たして間違っているのかな?」

「……なんだと?」

「どっちが悪いかなんて誰にもわからないよ。僕にはどっちもどっちかなって思えるからね」

「なっ! それは……さすがに聞き捨てならないな。我々がテロリストと同じだと?」


 レニカが敵意を向けてきた。

 それに伴ってアレイシアが僕の前へ出るけど、あえて片手で止める。

 僕はあえてレニカに近づいた。


「君はどんな両親に育てられて、どんな家庭で育ったの?」

「何を突然……」

「答えてよ」

「伯爵家の生まれで父親は西聖騎士団の名誉騎士、母親は男爵家から嫁いできたと聞いている」


 それを聞いて僕は思わず笑ってしまった。

 これがレニカの癪に障ったのか、いよいよ表情が険しくなる。


「何がおかしい?」

「じゃあ、両親はきちんといて食べるものや住むところには困らなかったわけだ」

「当然だ。それの何がおかしいと聞いている」

「僕は両親の顔すら知らないし、丸一日食べられないことなんて珍しくなかったよ」


 僕がそう言うとレニカが虚を突かれたように黙った。

 この程度で言葉を詰まらせるような裕福な家で育った女の子が騎士なんてやっている。

 そりゃ国に感謝もしたくなるわけだ。


「少なくともこの国は弱者を救わない。その日を生きることすら困難な人のことなんて知ったことじゃないでしょ」

「しゅ、主君であるベルフェット公は常に下々の者達を気にかけておられる人格者だ! きっと救いになられると信じている!」

「口でそう言ってもいつまでも何も変わらない。僕にとってはそれも反国王派がやってることと同じくらい悪いことだと思うよ」

「さすがに口が過ぎるぞッ!」


 レニカが腰の鞘から武器を抜いた。

 すごく細い武器で、あれは確かレイピアとかいったかな。

 斬ることよりも突くことに重点を置いている上に軽いから扱いやすい。


 それにしても自分から頼み込んでおいてこれか。

 このレニカは騎士である以上、主君への侮辱は許さない。

 国のために僕を引き入れたがっていたはずのレニカだけど、結局は誇りや忠誠を選択したわけだ。


「二度は言わない! ベルフェット公への侮辱、撤回しろ!」

「嫌だと言ったら?」

「……許せるものではないな!」

「下らない……。明日の食事さえもわからなかった僕からすれば、主君への忠誠なんてゴミ以下だよ」


 レニカのレイピアによる突きが放たれた。

 一瞬だけ光となって見えて、なかなか綺麗だ。

 だけどこれじゃ純粋にパワー不足かな。


 終の剣(ダークセイバー)で完全に受けきると、レニカはレイピアをまったく動かせない。

 更に引いてもう一度突きを繰り出すも結果は同じだ。


「かわされるならまだしも、完全に受けられているだと!?」

「君、剣適性は?」

「Aだ!」

「Aでこれかぁ……ちょっと鍛錬不足じゃない? 何十年くらいやった?」

「は? 何十年……?」


 人間の寿命に合わせて控えめに言ったつもりだけど、このレニカはたぶん二十年くらいしか生きてなさそう。

 剣適性Aでも鍛錬の期間が短いんじゃ何の意味もない。

 でもそれは寿命の問題もあるけど、純粋に恵まれた適性のせいでもある。


 最初から適性が高いと必死になる必要がない。

 何せ適性Eが十年かかるところをAなら一週間で済むからね。

 そりゃ頑張る気なんて失くすよ。


「ならばこれでどうだ! はぁぁぁーー!」


 レニカが連続突きを繰り出した。

 光の点がキラキラと見えて、まるで夜空の星みたいだ。

 鋭く速いそれはブルやカーク程度の三級冒険者ならたぶん何をされたのかもわからない。


 だけどあまりに単調で芸がない。

 バルロイみたいな無数の斬撃を繰り出すにしても、あれは緩急がある。

 そのせいでこちらの反応が一瞬でも遅れてそれが命取りになった。

 バルロイクラスの一瞬は少なくとも百回以上の死を生む。


 それに比べてこれはただ力強いだけだ。

 相手の命を奪うことに対して何も考えられていない。

 言ってしまえば殺すということを舐めている。


「う、う、クッ……先端を、合わせられて……」

「たくさん突いたところでレイピアは一つなんだから、こうして止めれば終わりだよ」


 レニカの表情が苦しそうだ。

 さっきまでの勢いは完全に消えていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 敵で終わるか味方になるのか、このままなら敵ですが、服従する可能性もありますね。 立場が違えば正義も変わるって事ですね。
[良い点] 更新お疲れ様です。 騎士レニカ登場。やはり冥王組は西聖騎士団に助力しなかったぜ!ww 悲惨な現実を舐めてきたルトの主張に言い返せず剣を抜くレニカ。 なるほど、反王国組織エデンにクライブがい…
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