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悪事の後

 屋敷の外では捕らわれていた人達が互いに喜びを分かち合っていた。

 抱き合い、はしゃぎ、泣く。

 長らく太陽の光を浴びていなかったようで、日光浴のようなポーズをとる人もいた。


 生きるためだけに必死だった時とは違って、今は感情豊かだ。

 もう誰かに脅されて戦わなくてもいい。

 互いに殺し合わなくていい。


 当たり前のことのはずだけど、その当たり前を得られない人達が大勢いる。

 太陽の光や自由、友人、家族。生きる上で欠かせないものだとこの人達が証明している。

 長らく死の世界にこもっていた僕も忘れていたものだ。

 

 騒ぎを聞きつけた人達の中には、捕らわれていた人の家族や友人がいて抱き合っていた。

 そう、ここは冥界じゃない。生きている人達が暮らす世界だ。

 これが生きるということ、自分でこれからの生き方を決められるということ。

 

 そんな希望はあって当たり前だ。

 だけど力がなければ、それすら奪われる。下手したら命さえも。


「ルト様。なんだか嬉しそうですね」

「これが生きる喜びだと思うと感慨深くてね。ずっと冥界にいたからすっかり忘れていたよ」

「わたくしも、あの方々が楽しそうにしていると気分が弾みますわ。なんでしょう、この気持ちは……」

「それはたぶん……」


 アレイシアが聖女として生きた時に感じたものだよ、と言おうとしてやめた。

 聖女時代に嫌な思いをしたとしても、人を喜ばせたいという気持ちがアレイシアの中にあるんだろうな。

 かくいう僕も悪い気はしない。


 この人達を見習って、改めて生きる実感というものを知りたくなった。

 といっても僕に友人や家族なんていない。

 生きているうちにしかできないことがある、なんて誰かが言っていたけど言葉通りだ。


 友人や家族がいないならこれから作ればいい。

 生きているうちにしかできないなら、そうすべきだ。


 冒険者体験、山賊に襲われる体験、貴族の館の地下で襲われる体験。

 どれも冥界じゃ味わえないものばかりだけど、これは別に一人でもできる。

 あの人達みたいに互いを称え合う仲間ができたらいいなと思った。


「貴様ら! そこでなにをしている!」

「ゲッ! 衛兵がきたぞ!」


 大はしゃぎしていると、ついに衛兵達がやってきた。

 険しい表情で詰めてきて一人ずつ顔を確認している。


「一体どこにいた? 身分を証明できるものはあるか?」

「あぁーん? そんなもんあるわけねぇだろ! 俺達はついさっきまでクライブ邸の地下に捕らわれていたんだ!」

「クライブ邸だと? 何を言い出すかと思えば……それにその身なり、ずいぶんとボロボロだな。まさか貴様ら、反乱を企てようというわけではあるまいな!」

「はぁ!?」


 衛兵の一人が反乱というワードを出した途端、僕を含めて取り囲む。

 このまま冥体変異で飛び立って逃げればいいんだろうけど、ここまできたら最後まで付き合うか。

 僕は槍を突きつける衛兵の前に立った。


「な、なんだ? む、お前は確かデメロ山賊団を捕らえてきた……」

「クライブはこの人達を地下に閉じ込めて、奴隷のように戦わせていた。疑うなら調べればいい」

「あのクライブ様がそんなことをするはずがない! 申し訳ないが君も彼らと一緒に」

「だから調べろ」


 僕が少し強い口調で言うと衛兵達が下がる。

 話を聞かずに僕を捕らえるというのなら話は別だ。


「僕を捕らえるか、調べるか。どっちを選ぶ?」

「だ、だがクライブ様の許可なくしては……」

「僕を捕らえるか、屋敷を調べるか。早く選んでよ」

「しかし……」


 これ以上の問答は付き合えない。

 大体、なんで悪事を働いている奴を調べるのに許可がいるんだ?

 あぁそうか。前に裁いた魂の中に貴族がいたのを思い出した。


 権力というやつは僕が思っている以上に強力なものらしい。

 衛兵は悪事を働いた人間に対して、調べさせてはどうでしょうかとお伺いを立てる。

 仮に許可が下りたとしても、肝心な部分への立ち入りは禁止。

 もしくは事前に打ち合わせしてあって形式だけの捜査をして終わり。


 そして捜査をしたけど何も見つかりませんでしたという既成事実を作る。

 民衆の中にわずかに疑心を抱く人がいたとしても関係ない。

 どうせ大多数が安心するんだから。


 そうでなくても捜査対象者の上にいる権力者が利権絡みで捜査打ち切りを極秘で指示することもあるみたいだ。

 つまりこの世の中は権力者が作り上げたものであり、あいつらにとって都合がいいのは当然だった。

 すべて思い通りにできるようにしてあるんだからね。


「おい! 衛兵ども! クライブは恐ろしい魔物を何匹も飼っているんだ!」

「俺達はそいつらと戦わされていたんだよ! 今頃はクライブも食われているかもな!」


 捕らわれていた人達が意外なことを言い出した。

 僕がクライブを裁いたのを見ていたわけじゃあるまいし、なんでそんなことを?

 いや、もしかしたら察してくれたのかもしれない。


 もしクライブが生きていたら今頃、こんなことしていられないからね。

 皆が無事に出られた時点でそういうことなんだろうと思ってくれたのかもしれない。


「違うぞ! 騙されるな! そいつらは脱走したんだ!」


 やってきたのはクライブの手下達だ。

 怪我の具合からして、だいぶあの人達に苦戦したみたいだな。

 あんな風になってまでクライブを守ろうとするなんて、大した忠誠心だ。


「そこにいる黒マントのガキと女、それから……もう一人、あのバルロイがいたんだ! 復活したんだよ! ちゃんと調べろ!」

「黒マントとはこちらのルトか? 女はこちらの美人として……バルロイとは? あの剣聖と同名とは珍しいな。それでそいつはどこに?」

「そりゃ……あれ? い、いない……」

「クライブ様はどちらにいらっしゃるのだ? お話を聞きたいのだが?」

「ク、クライブ様が見当たらないのだ! そいつらが何かしたに違いない!」


 手下が出てきたところでクライブ側の旗色が良くなることはない。

 死体がなければ事件にもならないとは言うし、気が済むまで調べればいいよ。


 それにしても皆、まさか僕を庇ってくれるとは思わなかったな。

 お礼は期待してなかったけど、そういう気持ちはありがたく受け取ろう。

 純粋な気持ちで誰かに感謝するなんて、冥界じゃまずありえなかったことだから。


 それからクライブ邸がくまなく調べられた。

 だけどもちろんクライブの死体は出てこなかった上に、地下のおびただしい残虐の跡だけが発見される。

 死体を放り込んだと思われる焼却炉や捕らわれていた魔物など、瞬く間に町中が大騒ぎになった。


 今回の事件は重要参考人であるクライブが行方不明とあって、捜査は迷宮入りするそうだ。

 屋敷は封鎖されて立ち入り禁止となる。

 領主を失ったこの町がどうなるかはわからないけど、僕の知ったことじゃない。


 あまりいい思い出がないこの町だけど、たった一つだけ思い出深い場所がある。

 後日、僕達はそこを訪れた。

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