地下の惨劇
「こ、ここはどこだ? おい、カーク! 起きろ!」
俺達は気がつけば薄暗い地下室に寝かされていた。
鉄格子の向こうには廊下を挟んでまた鉄格子と、牢獄としか思えない風景だ。
衛兵の詰め所で取り調べを受けた後は確か牢屋に移されたはず。
こんな石造りで辛気臭い場所とは違う。
燭台の松明が揺らめき、まるでダンジョンを彷彿とさせる場所だ。
カビ臭さが鼻をついて、かなり居心地が悪い。
「ブルさん、ここは……?」
「目が覚めたか。オレにもさっぱりわからねぇ。お、誰か来るぞ」
コツコツと足音が聞こえてくる。
衛兵か? 息をひそめて足音の主を待った。
「気がついたかい?」
「ク、クライブ様!?」
現れたのはクライブ様だ。
なんでクライブ様がいるんだ?
頭の中で何もまとまらない。
ただ一つ言えることはクライブ様はオレ達を無事で済ます気はないということ。
ルトを殺し損ねたことがバレているとしか思えない。
クライブ様はほほ笑んで、鉄格子越しにしゃがむ。
「君達が衛兵に捕まったと聞いてね。少し取り引きをして、君達を引き渡してもらったのさ。実直な衛兵で助かるよ」
「じゃ、じゃあ、やっぱり……オレ達のこと……」
「この町で起こったことが私の耳に入らないわけがない。あぁ、だけどね。君達が平民の少年を殺し損ねたことは些末な問題だ」
「どういう……」
「最近、人手が足りてないみたいでね。君達に新しい仕事を与えたいと思う」
クライブ様に付き従っていた鉄兜で顔を覆った兵士達が、俺達の牢の扉を開けた。
強引に引きずり出されてから、暗い通路を歩かされる。
オレ達はどうなっちまうんだ? 新しい仕事ってなんだ?
「突然だけど君達は国を愛しているかい?」
「え……」
「ハハハッ、即答できないか。私は国を愛している、抱けるよ。我々イースタム家は先祖代々、この辺りの鉱山事業で財を成した。今は掘りつくされてほとんど何も採れないけどね」
「それは、すごいですね……ハハ……」
「おおよそ二百年前、ほとんど未開だったこの地に価値を持たせられたのはご先祖達の並ならぬ努力の賜物と言えよう。なぜそうまでできるか? それは愛国心故さ。ブリトゥス王国繁栄を思えばこそだよ」
饒舌に語るクライブ様だが、ほとんど頭に入ってこない。
そんなことはどうでもいい。だからオレ達はこれからどうなるってんだ。
貴族様の自慢話を聞かされるためにこんなところに閉じ込められたのか?
歩いているうちに光が見えてきた。出口か?
同時に複数人の叫び声が聞こえた。
「さぁ着いたよ。ちょうど決着がつくところだね」
広い円形の間で、複数人の人間が戦っていた。
身なりからして冒険者か? 鬼気迫る表情で雄叫びを上げながら、剣や槍を握っている。
すでに何人か血を流して倒れていて、まったく動かない。
円形の間の周囲には鉄兜の兵士達が何人も立っている。
見ただけで絶対に逃げられないとわかった。
少しでも妙な動きをすれば、確実にあいつらに殺される。
なんだよ、ここ?
こいつらはなんで戦っている?
オレ達は何をさせられるんだ?
戦いが終わって、二人の男が立っていた。
呼吸を荒げて、今すぐにでも休みたそうな顔をしている。
「ご苦労、今日も生き残れたね」
「はいッ!」
「君達は何のために戦う?」
「王国のためですッ!」
「討つべきは?」
「腐敗した王族ですッ!」
男達は直立不動でまったく同じタイミングで叫ぶ。
その姿はまるで何かに乗り移られたかのようだ。
クライブ様は満足そうに男達を労った後、鉄兜の兵士達に送らせた。
その光景を見てからオレはようやく状況を理解した。
クライブ様がオレ達に何をやらそうとしているか。
クライブ様が何を目的としているか。
逃げなきゃやばい。殺される。
オレもあの男達のように殺し合いをさせられる。
死体は鉄兜達が担架に乗せてから、備え付けられていた巨大な焼却炉に放り込まれた。
「あああぁぁ! あ、あづ、熱い! だすけでくれぇぇぇぇ!」
「おっと、これはいけない。まだ息があったか」
焼却炉から聞こえた悲鳴に対してクライブ様はくすりと笑った。
ウソだろ? 人間同士を殺し合わせただけじゃなく、生存も確認せずに焼くのかよ!
言葉にならなくなった悲鳴がしばらく聞こえた後、静かになる。
「ブル、カーク。初めてのことで驚いただろうね。ここではいわゆる国家不適合者達を集めて戦わせているんだ。彼らは不真面目でね。酒の席で国への悪態をついたり、王国を批判する内容の本を書いたり……まぁ様々だよ」
「オ、オ、オレ達、も?」
「誤解しないでほしい。君達があのルトという少年を殺せなかったからじゃない。君達が以前、ギルドへ虚偽報告をして報酬を多くもらっていたのはすでに調べがついている。オークの耳と偽ってゴブリンの耳を納めたそうだね」
「え、い、や……その……」
「色まで塗り替えて、形を引き延ばしてご苦労なことだ。あのね、君達は結果的にオークを討伐できていなかった。つまり討伐されなかったオークはこの国の大地にのさばっている。人や家畜を襲うかもしれない。そうなると国にとっては損失だ」
なんでバレてるんだ?
オークは思ったより手強くて数も多かった。
せいぜい一体の討伐がやっとだ。だけど、そんなの誰でもやっていることだ。
それにオレ達は今まで討伐をこなしてきた。
たった一回のそれでこんなところで戦わされなきゃいけないのか?
「君達には教育が必要だ。ここで腕を磨いてもらう。勝ち残った頃には国を愛する立派な戦士となっているだろう」
「そんなの嫌です! 負けたら死んで燃やされるなんて!」
「君達みたいなのがのさばっているから国は腐る。そしてそれを見て見ぬ振りをする王族……。このブリトゥス王国が腐らされていく様を見るのは耐えられない。残念だけど今からでも戦ってもらう」
「戦うって……だ、誰と……」
対面の扉から唸り声が聞こえた。
ガリガリと何かを引っかいたり削る音が聞こえてくる。
「私も非道ではない。二人で協力してたった一体の魔物を討伐するだけでいい」
「何が、いるんですか……」
「ファデール・ロストを知っているか?」
「ファデール・ロスト?」
「今から八十年前、当時は最強と称えられた騎士団の精鋭部隊であるファデール隊がデグス山にて消息を絶った。長らく行方不明だったけど山に入った冒険者が王国のシンボルが刻まれた小手を見つけた。それから鎧や兜と次々と発見されるのだが、そのうちの一つが隊長ファデールのものだと判明したのだ」
扉が少しずつ開いていく。
隙間から今か今かと出たがっている何かの腕がはみ出た。
人間の腕の数倍はあるのかと思える太く毛深い腕だ。
「不思議なのが見つかった鎧や兜には血が一切ついていない。ファデールともあろう方が鎧を脱ぎ捨てて逃げた……? もちろんそんなわけがない。鎧には魔物のものと思われる指紋や毛がくっきり付着していたのだ」
「じゃ、じゃあ、そのファデールって人は……」
「血が付着していない鎧や兜を残してファデール隊は消えた。お、出てきたな」
「あ、ああぁ……ああっ、あっ……」
オレはもはやまともに声を出すことすら出来なかった。
扉から出てきたのは毛むくじゃらの巨人だ。大きさはオレ達の二、三倍はある。
顔は皺だらけで一つ目、黒い体毛を生やしたそいつは剣や鎧を玩具にして両手で弄んでいた。
「フゴゴゴ……ウゴァァァルルル……」
「ひっ、あ、い、嫌だ、助けて……」
「ハハハッ! ルウゴの奴、昨日戦った山賊達の武器や防具がよほど気に入ったんだなぁ」
もうダメだ。やだ。動けない。
あのルトを見た時とまったく同じ感覚だ。
勝てない。逃げられない。逆らえない。
圧倒的強者に対する恐怖心に支配されて、オレは二度目の失禁をしてしまった。
「ブ、ブル、さん……無理、無理っすよぉ……」
「帰してくれ、帰してくださいぃ……」
カークも腰を抜かしていた。
そんなオレ達の頭をクライブ様が撫でてくる。
「巨人ルウゴ。八十年前からデグス山に生息していたらしいあの怪物は金属製のものが大好きでね。いらない中身から剥ぎ取ってしまうのさ。好みがわかりやすいから捕らえるのに苦労はしなかったよ」
「ひ、人は、どうなったんですかぁ!」
「さぁ? ただし飽きるのも早いみたいでね。ほら、もう次の玩具を見つけたみたいだよ」
「や、やめて、くれぇ……」
武器や防具だけ血をつけずに剥ぎ取る。
それはつまり襲った人間の強さを問題にせず、戦いすら成立させずに強引に奪い取ったということだ。
それを可能にしているあの剛腕から繰り出される力なんて想像したくない。
まるで人間を人形のように掴んで、鎧だけを外した。
それも当時最強と呼ばれた騎士団の部隊相手に。
「おっと、忘れていた。ほれ、君達の武器だ。防具はそのままにしてあるから十分だろう? これで存分に戦ってくれたまえ」
「うああぁぁーーーーー!」
クライブ様、いや。クライブがオレ達の前に大斧とナイフを落とした。
同時にクライブが姿を消す。
オレ達は追いかけるようにして逃げたけど、すぐに頭を掴まれる。
自分自身から嫌な音が聞こえた後、言葉にならないほど叫ぶ。
激痛に次ぐ激痛の後、オレの意識は消えた。
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