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僕の終わり、そして奈落へ

 ブリトゥス王国の王都から離れたこのハルテアの町周辺には大小の洞窟がある。

 かつては採掘で栄えていたみたいだけど地盤が緩くて、落盤事故なんかが頻発していた。

 そのせいで放棄された坑道が魔物の住処になっているケースが多い。


「おっと、また地震か?」

「ブルさん。この奥でいいんすよね?」


 小さい揺れだ。今日に限ってなんだか地震が多い。

 引き返すべきだと思うけど、意見をしたところで無駄だ。

 僕はブルとカークに連れられて洞窟に赴いている。

 荷物持ちは当然のように僕で、汗が目に入るほどの重労働だ。

 

 だからといって足を止めれば制裁を受ける。

 こんな情けない姿、エーリィには見せられないな。

 なんて自嘲していると、ブルに背負っている荷物の後ろから蹴られた。


「うわっ!」

「なに笑ってやがる。ついにイカれたのか?」

「何でもないよ」

「本来なら万年五級のお前とパーティを組んでくれる三級なんていねぇんだよ。そこんとこ自覚して歩けや」

「僕から頼んだわけじゃないけどね」


 よせばいいものを、口答えなんかしたものだから二発目がくる。

 今度は腹だ。強烈なパンチで思わずまた倒れそうになった。

 相変わらず頭より体が先に動く奴だ。

 

 僕に暴力をふるっても一向に折れないから面白くないんだろうな。

 ブルは三級冒険者の中ではトップクラスの腕力だと聞く。

 最初に殴られた時は気絶したけど、僕の忍耐のおかげだろうか。

 次第にその痛みにすら耐えてしまっている。


「相変わらず口だけは減らねぇ野郎だぜ……!」


 ブルが興奮して鼻息を荒くしていた。

 うん、さすがゾンビだよ。

 そういえばブルとカークって一度でも僕の名前を呼んだことがあったっけ?

 どうでもいいか。

 

「おい、ゾンビ。お前、冒険者カードを見せてみろよ」

「なんで?」

「いいから見せろよ。久しぶりに笑いたいんだからよっ!」

「あっ……」


 ブルに強引に冒険者カードを奪い取られてしまった。

 そのカードには僕の恥ずかしい適性が書かれている。

 今更そんなものを見られたところで、どうということはないけど。


名前:ルト

性別:男

年齢:14

等級:五級

スキル:【忍耐】 あらゆる苦痛に耐えられる。


武器適正

剣:E

大剣:E

短剣:E

小剣:E

槍:E

斧:E

鞭:E

弓:E

鈍器:E

素手:E


魔法適正

火:E

水:E

地:E

雷:E

光:E

神聖:E


「ブハハハハハハッ! ひっでぇな!」

「ヒャヒャヒャヒャヒャ! 全部Eってお前、生まれながらにして神に嫌われてるな! アレイシア教の教会に行ってお祈りしてこいよ! 女神アレイシア様、僕を生まれ変わらせてくださいってな!」


 カークはこの大陸で信仰されているアレイシア教の信者だ。

 かつて大陸が魔神に支配された時、女神アレイシアは神の剣をもって大陸を光で照らした。

 魔神は光と共に消え去り、女神は大陸に平和をもたらす。


 アレイシア教の開祖トゥラは、この世界は女神の慈愛で溢れていると説いた。

 その信仰心が広まって一大宗教となるのにそう時間はかからない。

 今ではこの大陸にある半分近くの国で信仰されているのがアレイシア教だ。


 酒に酔っても王家とアレイシア教の悪口だけはやめておけなんて言われている。

 と、エーリィから教えてもらったっけ。


「安心しろよ、ゾンビ。お前が死んでも、その魂は女神アレイシア様のところへ送られる。そして汚れた魂が浄化されて、やがて現世へと戻れるんだ。だからびびるこたぁねぇぞ」

「だったらカークも安心だね。大好きな女神様のところへいけるんだから、むしろ死んだほうが喜ぶんじゃない?」


 よせばいいのに、また余計なことを言ってしまった。

 カークが見たこともないような赤い顔をして僕に数発の拳を浴びせる。

 更に倒れた僕を刺そうと、ナイフを真っ直ぐに突き立てていた。


「おい、カーク! 落ち着けよ!」

「ブルさん、こいつはよくねぇよッ! こいつは俺に殺されるために生まれてきたッッ! ちげぇねぇよなぁ! 腐れゾンビがッ!」

「気持ちはわかるが待て! ここで殺しちまったら足がつくだろ! な?」

「ふーっ、ふーっ……!」


 ブルに羽交い絞めにされてカークの興奮がようやく収まる。

 珍しい光景だな。いつもは逆なんだけど。僕もつい口が滑った。

 いてて、さすがにダメージが蓄積してきたか。

 この状態で盾になんかされたら本当に死ぬかもしれないな。


 大体、その女神様は誰をどう幸せにしたんだ?

 誰を救ったんだ?

 いるはずもない神様を崇拝するのは勝手だけどさ。


 殴られた痛みをズキズキと感じながら、僕を先頭として洞窟に入った。

 薄暗い洞窟で荷物や松明を持たされて、ふらふらと歩き進む。

 いざという時に逃げられるように、重い荷物はまだ僕に持たせている。

 魔物と遭遇しないのは幸いだけど、なんだか様子がおかしい。


 何がおかしいかって、後ろにいるブルとカークだ。

 ずいぶんと静かだな?

 討伐のために来たはずなのに魔物が出てこないとなったら、悪態の一つもつきそうなものだ。

 ゴブリン一匹出ないというのに、やけにおとなしい。


「……ここら辺でいいか」

「そうっすね、ブルさん。俺、もう我慢できないっすよ」


 何を言ってるんだ?

 振り向くと、ブルとカークがそれぞれ武器を握っている。

 なんだ? どうするつもりだ?


「なに? 魔物なんていないけど?」

「ゾンビ野郎、お前にはここで死んでもらう」

「な、なんで? 盾ならいくらでもやるよ?」

「そうする予定だったんだけどな。そんなもんより、とあるお方にお前を殺せと依頼されたんだよ。こっちのほうが羽振りがいいからな」


 さすがに血の気が引いた。

 つまりこの二人は最初から僕を人の気配がしないところまで連れてきたかったんだ。

 いくらこの二人が粗暴とはいえ、ここまで露骨な悪事に手を染めるとは思わなかった。

 それに殺しの依頼って、まさか。


 僕が後ずさると同時に二人が迫る。

 ここでようやく僕は気づいた。

 さっきのブルの言葉だ。


――気持ちはわかるが待て! ここで殺しちまったら足がつくだろ! な?


「お前だよな。あのエーリィ様と関わっている平民はよ。クライブ様からは何も聞かされてないけど、お前を殺せってことはそういうことだろ」

「ク、クライブ様が、僕を……」

「図星か? 大人しそうな顔をして、やることやってんだな。どうりで底辺生活を続けられるわけだ。お前みたいな奴が、どうやってあんなお嬢様と知り合ったんだよ?」

「待ってくれ! さすがに殺すなんてやりすぎだ!」

「知らねぇよ。あのクライブ様から前金をもらってるんだ。婚約者がお前みたいなド平民に汚されて怒り心頭ってところか」


 僕は迂闊だった。

 クライブ様はとっくに僕のことを特定していたのかもしれない。

 下手をしたら、あの冒険者ギルドに来た時にはわかっていた可能性がある。

 だからあれは警告だったんだ。

 関わるのをやめてこの町から消えろ、と。


「本来は自分の手でぶっ殺してやりたいところだろうよ。だけどさすがに冷静だよな。俺達みたいな半端もんに金を握らせて、自分の手は汚さないわけだ」

「普段からお前を構っている俺達なら、お前に怪しまれずに誘えるからな。ところでこんなに話しちまってよかったんですかね、ブルさん」

「どうせ殺すんだから問題ないだろ」

「そうっすね。あぁー、さっきの女神アレイシア様に対する侮辱は忘れてねぇからな? 楽には死なせねぇ」


 カークの自慢の短剣が光る。

 カークの短剣適正は確かB、ブルの斧適正もB。

 無理だ。一対一でも勝てっこない。


「本当は冒険者殺しのデメロ山賊団討伐の予定だったんだけどな。こっちのほうが羽振りがいい」

「ブルさん、こいつぶっ殺した後はそっちやりましょうぜ。討伐成功すりゃ西聖騎士団からスカウトがかかるくらいの討伐っすからねぇ」


 チクショウ!

 僕が何をしたっていうんだ!

 そんなに大切な婚約者がなんで僕のところに来るんだよ!

 薄々気づいていたけど、最後のエーリィのあの顔は不安と恐れからくるものだ!

 クライブの名前が出た時だからな!


 エーリィもひょっとしたらつらい目にあわされていたかもしれない。

 それなのに僕のことなんか気にかけてくれたとしたら。


「覚悟しろやッ!」


 カークが叫んだ時だった。

 洞窟全体が揺れたと思ったら、一気に激しく揺さぶられる。


「なっ! ま、また地震か!」

「やべぇ!」


 さすがに立っていられなくなって転んでしまった。

 揺れが収まる気配がないどころか、どんどん激しくなる。

 ついに地面に亀裂が入って、落盤が始まった。


「逃げろ!」

「うあぁぁーーー!」


 ブルとカークはなんとか洞窟の出口に向けて走り出した。

 僕はというと岩で進路を塞がれて、完全に閉じ込められてしまう。


「……終わった」


 僕はその場から動かなかった。

 亀裂がいよいよ大きくなって、ついに裂け目に落ちそうになる。

 なんとか片手で落ちないように堪えるけど、次の揺れで振り落とされてしまった。


 殺されかけたと思ったら地震が起こり、人が落ちるほどの亀裂に飲み込まれる。

 これが僕の人生か。

 女神様は大陸を救えても僕を救わなかったみたいだ。

あと少しでルトが覚醒します!

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