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気まぐれの女神

「キラーリザード22匹、ゴブリンソルジャー30匹、トレント24匹。こんなもので認めてもらえるかな?」


 ブルとカークの親切な案内があったおかげで、指定の魔物の生息地に辿りつけた。

 どのくらい討伐すればいいのかよくわからないから、とりあえずこの数で認めてもらえるかな?

 討伐証明としてそれぞれ尻尾、耳、枝と葉を袋に入れて持って帰ることにした。


「ねぇ、ブル。これで四級になれるかな?」

「ば、化け物……化け物……」

「ねぇ、聞いてるんだけど?」

「なれ、なれる! なれるよぉ!」


 本当かな?

 四級になればより報酬が高額な依頼を受けられるから、早いところ昇級したい。

 冒険者で人並みの生活を送るだけなら最低でも四級は必要だと説明してくれた。

 

 それと冒険者の本懐は討伐だけじゃなくて未踏破地帯やダンジョンの探索らしい。

 昔はそういう意味での冒険者だったんだけど、すでに未踏破の場所はほとんど探索されつくている。

 現時点で残っているのは人がなかなか立ち入れない魔境ばかりだから、めっきり探索が進まないらしい。

 じゃあ、なんで冒険者がここまで増えているのか?


 名立たる貴族や英雄の中には冒険者上がりが少なくないからだ。

 都市規模を壊滅させる力を保有する魔獣を含めて百匹以上、魔物を狩り続けた百魔斬りの葬送騎士。

 数多の要人の殺害を成功させて、とある国家の機能をほぼ停止させた音無しの死神。

 凶悪な魔獣が支配するベルクド大陸中央にある自治区、城塞都市の門をたった一人で守っている決闘伯爵。

 未踏破地帯の一割を生涯かけて探索しつくしたと言われる伝説の冒険家。


 嫌でも人々の記憶に焼き付いて、それでいてある種の憧れさえ抱かせる超越者達。

 そんな人達が元々は冒険者というのだから、志望者は増える一方だ。

 ただし近年ではあまりに増えすぎて、中にはよろしくない人達がいるのが問題になっている。


 成果を求めすぎて悪事に手を染めるだけならまだいい。

 敗残兵や犯罪者が身を隠すために偽名で冒険者登録をしていることもあるせいで、度々事件が起こっていた。

 そんなわけで今じゃ冒険者とは名ばかりの職業だ。


 そりゃ冒険者の死者が増えるわけだよ。

 昨日もこっそり冥界に帰って断罪の間で魂を裁いたら、冒険者の死者が本当に多い。

 そのうち人間獄に留まれたのが一割いるかどうか。


「あの、カークさん? なにをされてるのですか?」

「へ、へへ……あなた様が女神アレイシア様にそっくりなんで祈らせてください……。しかも名前もアレイシアだなんて……へへっ」


 カークがアレイシアに跪いて祈っていた。

 アレイシアは困った顔をして僕を見てくる。

 そういえば協会なんかには普通にアレイシアの像や絵があったな。


 まさかアレイシア本人だとは思ってないだろうし、信仰は自由だ。

 だけどアレイシアが嫌がっているなら話は別だな。


「カーク。アレイシアを困らせないでね」

「お、おう! すまん!」

「じゃあ、町に戻るよ。荷物は僕が持つよ」

「とーんでもないッ! ぜひ! 持たせてくれ! 頼む!」


 案内してもらっている身だから、僕が背負ってもいいんだけどな。

 でも本人の熱意を無視するわけにはいかないから頼もう。


                * * *


 夜、帰り道での野営。わたくしは木陰で休んでいます。

 色々と考えることが多くて、なんだか疲れましたわ。


 現代ではわたくしが女神と崇め称えられていて宗教まで出来ている。

 そんな事実をわたくしはどう受け止めればいいのでしょう?

 カークさんの話ではアレイシア教は様々な国々で信仰されている一大宗教とのこと。


 わたくしは滅びの女神となってこの世界を滅ぼしかけた。

 それなのになぜアレイシア教などと称えられているのでしょう?

 そのことをカークさんに聞いたのですけど、そんなことを言ってる奴がいたらぶち殺すなどと大層お怒りでしたわ。


 あの様子だと、カークさんは滅びの女神アレイシアを知らない。

 滅びの女神の時代からかなりの時が経っているので忘れられた?

 誰も歴史を記さず、後世にまで伝えられてしまった?

 もしくは何者かの意図で隠蔽された?


 ルト様とお話しようと思ったのですけど、今は目をつぶって休まれてますわ。

 眠る必要はないのですけど思考をまとめる時はいつもああしていますの。

 ルト様も考えることが多くて混乱されているのかもしれません。


 今は休ませてあげましょう。

 わたくしも眠る必要はないのですけど、夜風に当たりながらこうして休むのは気持ちがいいですわ。

 遠い昔、村に住んでいた頃も同じように夜空を見上げていたのを思い出します。


 わたくしのお父さんとお母さんは幸せに暮らせたのでしょうか?

 お金をたくさんもらって村は助かったのでしょうか?


(コソコソ……ブルさん。あいつ、寝てますよ。今がチャンスです。とっとと逃げましょう)

(バカ野郎。クライブ様の依頼を忘れたのかよ。ゾンビ野郎が生きてるなんてバレたら、俺達は殺されるぞ)

(隣の領地に逃げるんですよ。領主だって他の領地の人間には迂闊に手を出せません)

(お前、頭いいな。よし、今のうちに逃げるぞ)


 あの二人がコソコソと内緒の相談をされてますわ。

 わたくしも寝ていると思って気づいていないのでしょう。


「どこへ逃げようというのでしょう?」

「ひぇっ!」


 二人の上をふわりと飛んでから正面に着地しました。

 この期に及んでルト様を欺く気力があったとは意外ですわ。


「い、いや……ちょっと用を足しに……」

「隣の領地にですか?」

「す、すみません……ル、ル、ルトには内緒に……」

「わたくしはルト様をお慕いしておりますわ。ルト様がガッカリされるようなことをするのは許しませんの」


 怯える二人に指にまとわせた雷を見せつけましたわ。

 これ一つだけでこの二人なんて跡形も残さず生きていた痕跡を消せますの。

 それを本能で理解したのか、ブルさんが地面に手をついて頭を下げました。


「わ、悪かった……。もう逃げない、約束する」

「次はありませんわ。わたくしはルト様ほど甘くありませんの。カークさんも、虚像に祈るくらいならご自分の無事を祈ったほうが賢明ですわ」

「きょ、虚像だって……!? い、今、虚像って言ったな!」


 カークさんがナイフを取り出して、わたくしを威嚇してますわ。

 実力差を忘れるほどのことですの?


「い、いくらアレイシアに似ているからって聞き捨てならねぇな!」

「……あなたも時代の犠牲者かもしれませんわ。ですが当事者としてこれだけは譲れませんの」

「ヅッ……うあああぁぁッ! うでぇ、腕がぁッ!」


 指をくいっと動かして、真空破でカークさんの腕を切断しました。

 血が噴出してパニック状態になったカークさんは涙を流してのたうち回ってますわ。

 ブルさんは尻餅をついて、失禁されてました。


「今、命の危機ですわ。女神アレイシアはあなたをお救いなさるのでしょうか?」

「あぁ、ううぐあぁぁッ! だすけて! 助けてくださいッ! 嫌だァ! 死にたくないよぉッ!」

「かわいそう……女神様は助けてくれそうにありませんわ。女神様は本当はあなた達の破滅を願っているのかもしれませんの」

「ひいぃぃ……やだ、女神、様ァ……」


 もがき苦しむカークさんの前でしゃがみました。そして――


最上位神聖魔法(ゴッドヒール)


 カークさんの腕が何事もなかったようにくっつきました。

 もがいていたカークさんが気づいて、涙を流しつつも腕の無事を信じられない様子ですわ。


「あ、あれ……? 腕、どうなって……」

「今の女神様は人助けをするかもしれませんわ」

「へ? なんだって……?」

「気まぐれで妄信を嫌う。そんな女神様かもしれませんの」


 完全に意気消沈した二人を放置して、ルト様のところへ戻りました。

 戻るとルト様が目をあけていて、一部始終を見ていらっしゃったようです。

 お恥ずかしいですわ。


 二人はその場から身動きをとる様子を見せず、そこで一晩を明かしました。

 それから朝になり、まるで死んだようにゾンビのようによろよろとルト様の後ろを歩いてます。

ハイファン日間ランキング14位です!

どうもここまでみたいです!


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