冒険者生活を思い出した
討伐対象のキラーリザード、ゴブリンソルジャー、トレントの生息地を二人が教えてくれた。
さすが先輩というべき知識で、色々と教えてくれるのはありがたい。
これだけ世話になってるんだから、荷物くらい持つのは当然だ。
「ルト様! そんなものを持つ必要ありませんわ! あの二人はただちに葬送します!」
「いいんだよ。元々無料で引き受けてもらっているからね。でもなんだかこの感覚、なつかしいなぁ」
この重さといい、何かを思い出しそうだ。
昔の僕もこんな重いものを持たされたのかな?
といってもこの程度ならまったく支障はない。
僕が先頭を歩いて、後ろの二人が息を切らしていた。
確かに段差や石が多くて歩きやすいとは言えないけど、まさかついてこられないとは。
せっかく荷物をもってあげているってのにさ。
「ハァ……ハァ……ど、どういうことだ……。あんなに涼しい顔で荷物を背負いやがって……」
「ブルさん、やっぱりおかしいですって……。ハァ……ハァ……あいつ、本当にあのゾンビ野郎なんですかね?」
「あっちの女の子も普通じゃねーな……。ルトのくせに女なんか連れやがって……」
「俺達の世話をさせようと思ったのに、まさかの体力負けかよ……。クソッ、何かがおかしい……どうするか……」
二人がブツブツ言いながら歩いている。
しょうがないな。このまま歩き続けてもあの二人がばてたら意味がない。
荷物を下ろして周囲を見渡すと、だいぶ山奥まで来たとわかる。
この崖の上からは冒険者ギルドがある町を見下ろせる。
最高に眺めがいいし、ここで景色を楽しむのも悪くない。
荷物を下ろしてから座り込んだ。
「ルト、何をしてるんだよ?」
「二人がつらそうだから休憩しようと思ってね」
「て、てめっ! 俺達を舐めやがって! 立て! そんな必要はない!」
「ダメだって。ところで二人は僕を知ってるようだけど、どこかで会ったっけ?」
「な、なんだと?」
二人のうち一人、ブルさんが答えに窮していた。
他の冒険者と同じく、この二人も僕をゾンビと蔑んでいたな。
ただ他の冒険者より明らかに昔の僕と強く面識があるように見える。
言いにくい理由があるんだろうな。
ゾンビと蔑んでいたことは恨んでないから、正直に話してほしい。
「お前、本当に覚えてないのか? それともわざとすっとぼけてるのか?」
「ごめんね。色々あって本当に覚えてないんだ」
「俺達はお前を……もがっ!?」
カークさんがブルの口をふさぐ。
やっぱり何か言いにくいことでもあったのかな?
そして今度はカークさんが代わりに説明してくれるみたいだ。
「俺達とお前は初対面だよ。ブルさんはよく勘違いを起こすからな。混乱させたなら悪かった」
「そう? なんだか初めて会った気がしないんだよね」
「誰かと勘違いしてるんだろ。俺もそういうことはよくあるからな。それより先を急ごう。日が落ちる前にもう少しだけ進んでおきたいからな」
「わかったよ。こっちも変に勘違いさせてごめん」
僕は素直に頭を下げた。
カークさんは片手で応えてくれて、僕が背負っていた荷物を背負う。
「後輩にばかり大変な思いをさせるわけにはいかない。野営地まで俺が運んでやる」
「あ、ありがとう」
気を使ってくれているのはわかるけど、割とつらそうだ。
さっきまで息切れしていたんだから当然か。
でも好意は素直に受け取ろう。
そうこうしているうちにだいぶ山奥まで進んだ。
日が沈んで今日はこの山の中で一晩を過ごすらしい。
どうやら野営というものをするみたいだ。
カークさんが手本を見せるからと、火を起こして食事の準備を進めてくれる。
その手際はなかなかのもので、何もない場所で料理を作り始めた。
火を起こしてから鍋に食材を入れて煮込んだスープを僕達に取り分けてくれる。
「アレイシアちゃん、どうぞ」
「はい!」
アレイシアがカークさんからスープが入った器を受け取る。
アレイシアはおいしそうにスープを一口、飲む。
僕にも手渡してくれたんだけど、一つまみしてから何かをを入れたような?
「はぁぁぁ~~~! 温かくておいしいですわ! ルト様もぜひ!」
「へぇ、それは楽しみだ。どれ……うん! 喉から体の中にカッとした熱さがすとんと落ちる! おいしい!」
見た目はおとなしそうで地味なのに、なかなか意外な味だ。
血や腐臭がする肉じゃなくて、これは紛れもない新鮮な食材が使われている。
香りや喉越しを楽しんで、やっぱり現世は素晴らしいと実感した。
さすがカークさん、こんなところでこんなにおいしいスープを作るなんて。
ぜひお礼を言おうと思ったら、カークさんの顔色が悪い。
「え、え、ウソ、だろ?」
「ど、どうしたの?」
「お前、なんともないのか?」
「なんともって?」
カークさんがわなわなと震えている。
まさか体調でも悪いのかな? だとしたらもう休むべきか。
最悪、引き返すのも視野に入れないと。
「ルト様、カッとした熱さとは?」
「うん。しなかった?」
「しませんでしたわ。えっと、カークさん、どういうことですか?」
カークさんが青ざめて答えない。
なんかおかしいな?
なんで僕だけ違う味なの?
もしかしてだけどカークさん、僕のスープに何か入れた?
だとしたらなにを入れた?
「ねぇ、どういうこと?」
「さ、さぁ……もしかしたら何かの拍子でスパイスが入ったのかもな……ハハ……」
「なんでちゃんと答えられないの?」
「いや、その……」
カークさんがしどろもどろになった時、ブルさんが大斧を両手で握る。
その眼光は鋭く、確実に僕への殺意を放っていた。
この感覚、というかこの光景はやっぱりどこかで見たことがある。
頭がズキンとして、記憶が波のように押し寄せてきた。
暗い洞窟の中で僕はこんな風に殺意を向けられたことがある。
「カーク、もういい……。こいつは何かおかしい! おい、お前は誰だ!」
「……あー、思い出した。確か二人は僕を殺そうとしたっけ」
「正体を見せろッ! カーク! こいつは人間じゃねぇ! そっちの女もな!」
「確かに人間じゃなくなっているけど……」
カークさんがまだ混乱しつつも、ナイフを取り出す。
ブルさんとカークさん、二人が並んだところで完全に思い出した。
二万年前、僕は前にもこの二人に殺されそうになった。
理由は思い出せない。
そして直後に起こった地震で僕は冥界に落ちた。
そうだ。なんで今まで忘れていたんだろう?
ブルとカーク、僕に何かと突っかかってきた二人だ。
放っておいてくれたらよかったのに、自分より弱い人間に目をつけてこき使う。
暴力をふるうのになんの抵抗もない。更に弱みを握って従わせようとしてきた。
この二人はそういう人間だ。
僕はなんて奴らに案内と指導を頼んでしまったんだろう。
でも今更、後悔していられない。
「まぁいいや。ここまで来たんだし、引き続き案内を頼むよ」
「……あ?」
「今から引き返すのも手間だからさ。二人は山に詳しいんでしょ?」
「て、てめぇ、何を言ってやがるんだ……」
僕が近づくと二人は後ずさりする。
二万年前の僕はこの二人に手も足も出なかったけど、それも今となっては信じられない。
この二人のどこに敵わない要素があるのか。
それほどまでに昔の僕は弱かった。
でもだからといって恨みはあまりない。
僕が力をつけてタルタロスを越えて冥王の座についたように、この二人も力を行使しているだけだ。
それにあの筋肉量と重心、何も楽をして手に入れた実力じゃないとわかる。
ブルの力はあの冒険者ギルドの冒険者達と比べてもトッププラスだ。
カークのナイフは、小回りが利きにくくて大胆な動きをしがちなブルを補っている。
そう、何の問題もない。
僕とこの二人に何の差異もない。
「だからこの際、僕を殺そうとした奴らでもいいって言ってるんだよ」
「くぉらぁぁーーーーー!」
ブルが大斧を振りかぶってきた。
重心の取り方や力の入れ方にだいぶ無駄があるな。まだまだ鍛錬が足りていない。
すかさずカークがそれをフォローするかのように、ナイフを投げてきた。
到着が早いのはわずかにナイフ、ということで二本の指で摘まんで止めた。
大斧はもう片方の二本の指で摘まむ。
一応、山賊の時と違って僕から案内を頼んだ立場だ。
武器まで壊しちゃかわいそうだと思って、優しく斧を指だけで持ち上げる。
ブルの体ごと持ち上がって、足をばたつかせた。
「う、うああおぉああぁーーー!?」
「カーク、受け止めてあげてね。そりゃっ!」
摘まんだ大斧を振ってブルをカークのほうへと飛ばした。
ブルに激突されたカークも吹っ飛んで、二人は地面にだらしなく倒れる。
「うぅ……何が、どうなってやがるんだぁ……」
「ブルさん、逃げましょう……やっぱりあいつ、人間じゃ……」
二人がよろけながら立ち上がって逃げようとするけど、そういうわけにはいかない。
一瞬で追いついて二人の頭を掴んでから、互いの頭をぶつけた。
二回、三回、四回。二人が鼻血と涙で顔を濡らす。
「あぐっ、や、やめて、くれ……」
「二度は言わない。案内を頼むよ」
「許して、くれ……悪かっ」
もう一度だけぶつけると、ようやく大人しくなる。
ブルが泣きはらしたかのように顔をぐしゃぐしゃにして何度も頭を左右に振った。
一方でカークは強く頷く。
「わがりまじだ……案内、させて、くだざい……」
「ブルは?」
「案内、ずる……」
「交渉成立だね。あ、もちろん報酬の一部は渡すから安心していいよ」
お互いにとって悪いことはないはずだ。
毒なんか盛らなくても、このままやり過ごせばよかったものを。
そういえばあの毒、おいしかったな。
まだ残っていたら分けてもらおう。気に入ったら自分で手に入れるのも悪くない。
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