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冒険者生活を思い返す

 精魂尽き果てた山賊達はおとなしく僕達についてくることになった。

 山賊達は親切にもこの近くにある町まで案内してくれるらしい。

 そこで衛兵に自首するという潔さだ。


 山賊だから生かしておく理由なんかない。

 場合によっては殺すつもりだったけど、自首するというのなら話は別だ。

 この山賊達は衛兵に捕まった後は裁判を受ける。


 山賊なんてほぼ死刑か鉱山労働だ。

 僕が裁いた魂の中にもそんなのがたくさんいたからね。

 今、ここで僕が一瞬で裁くよりも恐ろしい思いをするのは間違いない。


 裁判とは言うけどほとんど形式上のもので、この山賊みたいなのは有無を言わさず判決が下される。

 そして死刑を免れたとしても、鉱山ではろくに食事も与えられずに死ぬまで働かされるわけだ。

 病気になっても助けてもらえず、使い物にならなくなったら適当な場所に埋められる。


 魂によれば死刑のほうがまだマシなんじゃないかと思うほど過酷な環境らしい。

 そこには権利も尊厳もない。

 冥界と大して変わらない苦しみが現世の時点で待っている。


 そんな山賊達の運命を考えると思わず笑えてきた。

 昔の僕みたいに弱くても真面目に生きればよかったのに。

 誰にも迷惑がかからないところで野垂れ死にしたほうが、人間獄で慎ましく暮らせたかもしれないのに。


 知らないとはいえ、僕からすれば山賊達が不憫でしょうがない。

 もちろんこの山賊達の行先は現時点で畜生獄だ。

 魂として裁く時に余罪がわかった時点で、場合によってはタルタロス。


 未来永劫ともいえるほど苦しんで苦しんで死んでも後悔してほしい。

 そうじゃなきゃ、こいつらに襲われて尊厳を踏みにじられて殺された人達が浮かばれない。

 死の恐怖を味わった後、死後の苦しみを味わってくれ。


「ル、ルト様、あの、ですね。その、もしよろしければ、衛兵の方にすこーし口添えしていただければ……」

「は? もしかしてそんなの期待して自首するつもり?」

「いーえいえいえ! もちろんお気持ちがあれば、です!」

「答えになってないよ。あまり意味わからないことばっかり言ってたらここで殺すよ」

「ひいぃ~~~~!」


 逃げられないとわかっているから、今はこうして隙あらば少しでも助かろうとする。

 それから数時間後、山のふもとにある町に着いた。


                * * *


 山賊達はデメロ山賊団というらしく、割と有名らしい。

 冒険者殺しの異名をとっていて、討伐にも手を焼いていたと聞いて驚く。

 言いたくないけど、それは少し鍛えが足りてないように思う。


 僕達がこいつらを連れてきたのがよっぽど信じられないのか、衛兵達はやたらと質問をしてくる。

 別に信じてもらわなくてもいいし、あれこれ言われても面倒なだけだ。


「じゃあね。後はそっちでよろしく」

「ま、待ってくれ! 五級でありながら、どうやってデメロ山賊団を生け捕りに……」

「そいつらから聞けばいいでしょ」


 何か喚いている衛兵達を置き去りにして冒険者ギルドという場所に向かう。

 町の人達に聞いたら、ものすごく親切に教えてくれたから助かった。

 丁寧に案内までしてくれたし、僕の記憶の中にある人間とは大違いだ。


「さ! あちらが冒険者ギルドです! お荷物をお持ちしましょうか?」

「いや、それは別にいいよ」

「では肩をお揉みしましょうか?」

「また今度ね」


 僕が冒険者ギルドに入るまで、多くの人達が見守ってくれた。

 そんなにあの山賊団を二人で連れてきたのがすごいことなのか。

 よくわからない人だかりは無視して、いよいよ冒険者ギルドだ。


 建物の中では多くの人達が談笑している。

 これが冒険者達か。

 剣、斧、槍。そして鎧やローブと、戦い方に応じて装備が違うと見て取れた。

 中には魔法の使い手らしき人もいるな。


 そんな人達が次第に静かになる。

 僕が入ってきたところで、視線を集中させてきた。


「おい、あれってゾンビじゃ?」

「最近見ないと思ったけど、まだこの町にいたのか」

「おい、ブルとカーク。お前らのお気に入りのご登場だぞ」


 そうだ。僕は前にもこの町でこんな風に蔑まれたことがある。

 僕は気にせず、ゴブリンの討伐証明をあの受付に持っていった。

 そして家賃すら払えない報酬額に愕然として、それから。


「ゾ、ゾ、ゾンビ、野郎……な、なん、でぇ……」

「ブ、ブルさん、落ち着いてくれ……。人違いに決まってる……」


 冒険者の中でも特に怯えている二人がいた。

 あの反応からして、昔の僕を知っているみたいだな。

 その前にあの受付のところにいって色々と確認したいことがある。


「冒険者について質問したいことがあるんだけど、いい? 何せ久しぶりすぎて色々と忘れちゃったんだ」

「え? は? お、お久しぶりです……。今までどちらに?」

「ちょっと遠くにね。それよりこの冒険者というのはお金を稼げるという認識で間違いない?」

「ない、ですけど……」


 受付の女性が戸惑いながらも、たどたどしく説明してくれた。

 僕の等級は五級で、受けられる仕事はゴブリン討伐だとか低級の魔物討伐のみ。

 以前の僕はそのゴブリンばかり討伐していたらしい。


 それでついたあだ名がゴブリンキラーだ。

 ゾンビよりマシなんじゃない?

 そんなレッテルはどうでもいいとして、これで以前の僕の立場がわかったわけだ。


 その上で今の僕達にお金を稼ぐ必要があるのかと考えた。

 今の僕は何かを食べなくても死なないし、眠る必要もない。

 住む場所も当然いらない。

 

 現世でお金をかけるのは主に衣食住だ。

 ただしお金が必要なのはこれだけじゃない。何かが必要になった時にお金で購入する必要がある。

 情報を得るのにだって相手によってはお金を要求してくる。


 僕は冥王という立場になったけど、何でも力づくで手に入れるつもりはない。

 それに何より現世を楽しみにしているのはアレイシアだ。

 食べる必要がないとはいえ、おいしいものだって食べたいだろう。

 女の子らしく綺麗な服だって欲しいんじゃないかな。

 

 僕も服は新調したいと思っている。

 現状、薄手の布の服と短パンでは格好がつかない。

 以前の僕には軽鎧すら買う余裕がなかったから、防具というものは最初からない。


 お金を稼げばやれることも増えるはず。

 というわけで五級でもいいから実績を積んで昇級を目指そう。

 張り出されている依頼に書かれている等級を確認して、できるだけ報酬がいい魔物を片っ端から選んだ。


「マリンさん、これ全部引き受けるよ」

「え……いやいやいや! さすがに無理でしょう! どうしちゃったんですか!?」

「無理じゃないって。あ、もしかして僕が殺されるかどうか心配してる? だったらその罪はあなたにはないから安心していいよ」

「いや、そうじゃなくて……」


 やけに渋るな。

 確かに五級の僕にいきなり大量の魔物討伐を任せるなんて難しいか。

 だったらどうするか?


 先輩達が一緒についていれば解消できる問題だ。

 冒険者ギルドを見渡すと、全員が僕を訝しむかのように目を離さない。

 誰にしようかな?

 あ、いたじゃん。僕達を知っているらしい二人がさ。


「そこの二人、悪いけど僕達と一緒に来てくれないかな?」

「はぁ!? お、俺達に言ってんのか!」

「うん、ブルさんとカークさんだっけ? 僕を知ってるみたいだから、お願いできるよね?」

「お、お前、そもそもなんで……もがっ!?」


 ブルが何かを言おうとしたところでカークに口をふさがれた。

 何か失礼なことを言おうとしたのかな?


(ブルさん、これはチャンスですぜ。なんであのゾンビ野郎が生きてるのかわからんけど、だったらまた殺しましょう)

(そ、そうだな。殺し損ねたなんてクライブ様にバレたらどうなるか……)


 何かコソコソと相談しているな。

 確かに僕みたいな五級のお守りなんて簡単に引き受けられるわけがない。

 知り合いだからといって甘えちゃったかも。


「おう、わかった。一緒にいってやる」

「ありがとう。助かるよ」

「その代わり、俺達の言うことは絶対な。逆らうんじゃねえぞ」

「わかったよ」


 うまく話がまとまったみたいでよかった。

 魔物の居場所なんかも詳しいだろうし、本当に助かる。

 やっぱり持つべきものは先輩だよ。

現在、ジャンベル別ハイファン11位です!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 しかし歴史は繰り返すwwブルとカークに殺されそうになったことすら忘れているとは。二万年も戦い続けてりゃ当たり前か。見事なる人外っぷり。 そうなると悪徳貴族?クライブや仲…
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