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現世で楽しい山賊体験

 現世に出た僕達を迎えたのはまたも眩い光だった。

 上空一面に広がる青空、燦々と輝くあの光はもしかして太陽かな?

 吹き抜ける風が木々の葉を揺らしている。


 ここがどこなのかとか以前に僕は思いっきり息を吸う。

 これほどまでに心地いい空気があるだろうか?

 鼻腔をつく深緑の香りがたまらなく気持ちいい。


「ルト様、ここが現世……ですの?」

「うん。なんだか僕もなつかしいよ。この辺りにある植物は本で見たことがあるな。すごい、現世ではちゃんとした植物が育つのか」

「冥界の植物は枝や実に顔がついていたり、かなり凶暴なものが多かったと記憶してますわ」

「ここの植物はおとなしいね」


 おいしい空気を堪能しながら、僕達は歩き始めた。

 あまりに静かで、怨念の声一つ聞こえない。

 地面から手が生えてきて足を掴んでくることもない。


 こんなにも安全に歩けるとは思わなかった。

 こんなに澄んだ世界なのに、死という概念があるのが少し信じられない。

 この豊かな緑のどこに死と結びつくものがあるんだろう?


 僕はどんな風に暮らしていたんだろう?

 ゾンビと呼ばれて蔑まれた記憶はあるんだけど、他はまったく思い出せない。

 どうしたものかと考えていると、僕の私物を思い出す。


 数千年以上も自分の持ち物なんてチェックしていなかったな。

 道具袋を開けて確認すると、一枚の板を見つけた。

 そこには奇妙なことが書かれている。


名前:ルト

性別:男

年齢:14

等級:五級

スキル:【忍耐】 あらゆる苦痛に耐えられる。


武器適正

剣:E

大剣:E

短剣:E

小剣:E

槍:E

斧:E

鞭:E

弓:E

鈍器:E

素手:E


魔法適正

火:E

水:E

地:E

雷:E

光:E

闇:S

神聖:E


「……これも見覚えがあるな。えっと、冒険者カード?」

「ルト様、これはなんですの?」


 この板は冒険者カードというものらしい。

 現世にいた頃の僕が大切に持っていたということは重要なものなんだろう。

 名前、性別、年齢、等級。これらは僕の情報だ。

 スキルの記載は忍耐のみで、他のものは書かれていない。


 僕は14歳だったのか。

 生まれてからたった14年しか経ってないのに冥界へと落ちたわけだ。

 よく生き残れたものだと我ながら感心する。


 14年なんて、少しタルタロスを歩いていたら一瞬で経過するような時間だ。

 昔の僕は14年間、何をしていたんだろうな?

 ゴブリンキラーだのバカにされたことは覚えてるんだけど、そもそもゴブリンってなんだ?


 昔の僕に討伐できるほど弱い魔物かもしれない。

 だとすると、そんなものを討伐したところで何になるんだろう?


「冒険者か、思い出した。魔物討伐や探索で生計を立てている職業だよ。昔の僕はそれで生活していたんだ」

「まぁ、それは素敵ですわ。わたくしの時代にはありませんでした」

「昔の僕がそうしていたんだから、今の僕も冒険者のはずだ。町へ行って色々と確認しよう」


 飛んでいくのが手っ取り早いけど、まだこの素敵な環境を堪能したい。

 あえて歩いていくのもいい。


 現世がどれだけ広いのか知らないけど、歩けばいつかは町に着く。

 どうやらここは森みたいで、行く先々が木々に阻まれている。

 川のせせらぎが聞こえてきて、向かうと水を手ですくって飲んだ。


 うまい! 濁ってねばついた液体なんか比較にならない!

 血の味に比べて雑味や癖がない!


「アレイシア! 現世ではこんな綺麗な水がいくらでも飲めるんだね!」

「それどころか、これを持っていってもいいんですわ! 何か入れ物があればいいのですけど……。あんなところに洞窟がありますわ。人が入っていきました」

「本当だ! ラッキーだなぁ! 入れ物を貰えるかな?」


 川の近くにある洞窟に行くと、中からいい匂いが漂ってきた。

 この匂いは肉かな? 香ばしくて涎が出てくる。

 ここは現世、絶対に腐った肉じゃない。

 中で誰か暮らしているのかな?


 奥へ進むとたくさんの人達が飲み食いしていた。

 肉にかぶりつきながら、楽しそうに談笑している。

 現世にはこんなところにも人が住んでいるのか。


「賑わってるなぁ」

「あ? 誰だ、てめぇら!?」

「僕はルト、こっちはアレイシア。森を歩いていたらおいしそうな匂いがしてさ。君達はここに住んでるの?」

「お、お頭ァ! ガキが迷い込んできましたぜ!」


 奥にいるお頭と呼ばれた大男が僕達に気づく。

 髭だらけの顔でギロリと睨んできた後、僕達に近づいて見下ろしてきた。

 他の男達も僕達を取り囲んで、なんだかあまり歓迎されてないみたいだ。


「……ガキの迷子にしちゃ妙だな。てめぇら、どこから来た?」

「どこから? えっと、冥界?」

「なるほど、状況を理解できねぇバカなガキが迷い込んできただけだ。ここがデメロ山賊団のアジトだとも知らずに……おい、ガキ。てめぇは身ぐるみを剥がして見逃してやる。そっちの女はこっちだ」

「え? なに?」


 大男達の命令で男達が僕を押さえつける。

 アレイシアも腕を掴まれて強引に奥へと連れていかれそうになった。

 なんだ? こいつら、何がしたいの?

 

 あぁ、そうか。こいつら、山賊だ。

 魂を断罪した時もその類の人間がいたのを思い出す。

 僕の身ぐるみを剥がして、アレイシアには最低なことをするつもりか。

 

 のどかな風景ですっかり油断していたけど、いきなり出会った人間が悪人なんてね。

 こいつらは悪事を働きすぎて、町には住めない。

 だからこんな人里から離れた場所で暮らすしかない。


「何をなさるんですのッ!」

「ぐごばぁッ!」


 やっちゃったか。アレイシアの拳が男のみぞおちに入った。

 血を吐き出して倒れた仲間を見て、他の山賊達が呆気にとられる。


「う、う、ごふっ……」

「はっ!? す、すみません! 大丈夫ですか! だいぶ手加減したつもりですが……」


 大丈夫じゃなさそうだし、これで山賊達を完全に怒らせたな。

 さすがにバカじゃないだろうし、それぞれが武器を持って僕達をまた取り囲む。

 お頭と呼ばれた大男が巨大サーベルの刃を舐めて得意げだ。


「うちのバカが油断して悪かったな。お嬢ちゃん、魔術師か何かだったのか。そりゃ強化魔法だろ?」

「いえ、違いますけど……」

「隠す意味はねぇぜ。何せ俺だって使えるんだからなぁ。ふんっ!」

「わぁ! 見事な強化魔法ですわ!」


 お頭が魔力を解放して、体全体を覆った。

 バチバチとした好戦的なオーラがなんとも山賊らしい。

 だけど肝心の魔力の練りが甘いせいか、魔力が揺らめいて安定していなかった。


 あれじゃ体全体の筋力が強化されていないし、肝心の足腰がやや弱い。

 腕ばかりに集中しているから、いざという時に踏ん張れないぞ。

 どうも鍛錬が足りてないみたいだな。


「おぉ、そりゃ見事なもんだぜ。こんな風になッ!」

「きゃっ!」

「……な、に?」


 お頭が振り下ろした斧がアレイシアに直撃した後、割れてしまった。

 破片が回転しながら飛んでいって、洞窟の壁に突き刺さる。

 ワンテンポ遅れてその様子を見ていた手下達が、破片とアレイシアを見比べていた。


「ルト様。わたくし達、襲われていますわ」

「そうみたいだね。いきなり山賊と出会うなんて、これは貴重な経験かもしれないよ」


 すっかり静かになった中、手下の一人が震えながら僕に武器を振りかぶった。

 手下が持っていた剣が僕に触れた途端に割れて使い物にならなくなる。

 そうか、これが山賊の攻撃か。

 山賊なんてそんなにいるものじゃないし、この機会を逃すわけにはいかない。


「山賊の皆! どんどん攻撃してきてよ! 山賊の攻撃をもっと実感してみたいんだ!」

「な、な、なんだよ、こいつ……お頭、やばいっすよ、こいつら……」


 山賊達が僕達からどんどん離れていく。

 そしてお頭が目で何かを合図した後、山賊達が洞窟の出口に向けて走り出した。


「逃げろぉーーー!」

「せっかく見つけた隠れ家なのに!」

「この山はやべぇ! ありゃ俺の田舎に伝わる闇山童に違いねぇ!」


 山賊達がものすごい勢いで逃げていく。

 そりゃないよ。せっかく山賊の攻撃を体感できるチャンスだったのに。

 

「アレイシア、追うよ」

「はい!」


 汗だくになって走る山賊たちを追うと、勢い余って追い越してしまった。

 急停止したところで、改めて山賊達の前に立つ。


「ひいいぃーーー!」

「さ、攻撃していいよ! せっかく山賊に襲われてあげるって言ってるんだからさぁ!」

「う、うああぁぁーーーー!」


 一人が武器で滅多切りにしてくるけど、全然痛くないな。

 一番強そうなお頭は斧が壊れたんだっけ。

 でも武器がないなら素手があるじゃないか。

 僕はお頭のところに行って、拾った石を持たせた。


「こ、これが、どうしたってんだよ……」

「その石で僕を殴れば、武器なんかいらないでしょ。さ、早く」

「い、い、イカレてやがる! もうわかった! 見逃してくれぇ!」

「命乞いとかいいからさ。ちゃんと全員で攻撃してよ」


 どうやっても僕達は山賊達を見逃すつもりはない。

 こうして山賊達は僕達に一斉攻撃してくれた。

 斬撃、突きを存分に受けて僕は生というものを実感する。


 冥界に山賊なんていなかったから、これぞ現世の体験だ。

 修羅獄は不意打ち厳禁みたいなところがあるし、こいつらみたいな奴らは大体畜生獄で動物にされているからね。

 それを考えると山賊に襲われるという体験は新鮮だった。


「も、もう、いいですよね……はぁ、はぁ、はぁ……」

「え? まだ始まったばかりでしょ?」

「もう30分もやってます! お願いです! 何でもしますから見逃してくださぁい!」

「せめて三日間くらいは続けてほしいよ。さ、攻撃して?」

「いいいぴぴひひぃーーーー!」


 訳のわからない悲鳴と共に山賊達は攻撃を再開した。

 だけど途中で全員がへばってしまった上に鼻水を垂らして泣きながらうずくまってしまう。

 結局、一時間ちょっとで山賊から襲われる体験は終わってしまった。


 冥界と違って生きている人間には限界があると理解する。

 現世で山賊に襲われてもせいぜい一時間程度で済んでしまう。

 そう考えると、こいつらに何の罪があるのかわからなくなってしまった。

 こんなに根気がないなら、何も殺せないんじゃない?

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[一言] 根気なく殺せるやつしか殺さない連中だから余計に悪いんだよなぁ………。 ムショボケならぬタルタロスボケがひでぇw
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