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現世へ

 冥王となった僕は元冥王であるハティスと共に人間獄を巡ることにした。

 冥王としての務めは特に指導を受ける必要はない。

 僕が冥王となった時、頭の中にすべて刷り込まれたからだ。


 冥王として出来ること、特権。

 魂への裁き、魂の罪や魂の人生の理解。

 これはスキルや魔法じゃ習得しようがないものばかりだ。


 何より冥王としての力は僕にとって有益だった。

 断罪の間にて、僕は無数の魂と対峙している。

 目の前に浮いている無数の魂はすべて今日付けで命を落とした人達だ。


 動物や魔物は自動的に畜生獄へ送られるから助かる。

 ここにいる人間達の魂は本当に様々な事情を抱えていた。

 病死や事故死、殺された人、自殺。


 更には魂の過去の情報がすべて頭の中に流れ込んできた。

 その中で人間獄に留まるべき魂、畜生や修羅、餓鬼。タルタロス。

 魂達のそれぞれの行先を決めていく。


「生き返らせてくれ! 家に帰してくれ!」

「あいつが憎い! あいつは俺のすべてを奪った!」

「ままぁ! どこ? ままぁ!」

「うるせぇ! クソどもが!」

「死後の世界だと! 信じられん!」


 ほとんどの人が自分の死を受け入れていない。

 膨大な呪詛のような言葉が断罪の間に響く。

 どうやら幼い子どもがいるな。死は平等だ。小さい子どもだろうと容赦しない。

 それでも死の世界はすべてを受け入れる。


「人間獄、魂1544」


 僕がそう呟くと、魂の声が収まる。

 冥王である僕の言葉に何かを期待しているんだろう。

 自分はどこへ行くのか? 極楽へ行けるのか?

 僕はそんな期待と不安に応えるべく、再び口を開いた。


「……以外、畜生餓鬼修羅タルタロス。以上」

「う、うあああぁぁぁーーーーー!」

「嫌だァァーーーー!」

「俺は悪くねぇ悪くねぇ悪くねぇのにぃーーーー!」

「助けてくれぇーーー!」


 無数の魂が各層へと吸い込まれるようにして消えていく。

 凄まじい悲鳴の数を聞いて、僕はやり切ったと感じた。

 僕は自分の判断を間違っているとは思わない。

 

 僕の手でどうしようもない奴らを各層に送り込んだ快感がある。

 残ったのは1544の魂だ。

 道徳に従って平凡な人生を送っていたのに魔物に襲撃されて殺された人。

 非道な親の元へ生まれてしまって殺された子ども。

 兵士としての職務を果たして殺された人。

 本当の意味で落ち度がない人生を送っている人間は案外多い。


「……驚くほど多いのじゃ」

「こんなものだよ。たかがものを一回盗んだくらいで畜生だの餓鬼だのやりすぎなんだよ」

「それを罪とせぬ、か」

「特に修羅獄行きは戦いたい者同士でやっていたなら不問としたよ。敵討ちで屑を殺した人も人間獄へとどまらせたよ」


 ハティスは何も言わなかった。

 何をどう思おうが、ハティスは僕を次の冥王として認めたんだ。

 それともう一つ。


「ハティス。この仕事は僕が引き継ぐよ。君には任せられない」

「ふぁ!? なんじゃと! 現世に行くのであれば、それは不可能であろう!」

「こんな簡単なら片手間にできる。何日かまとめてやってもいいでしょ。冥王として冥界とはいつでも行き来できる」

「簡単と言い切るか……。確かにこれほど迷いなく決定できるのであれば……」


 仕事を終えて次にハティスが向かったのは魔道宮を抜けた先、巨大な川だ。

 大きさの割に流れは穏やかで、足がつくほど浅い。

 そこには長蛇の列ができていて、すべて転生待ちの人達だ。

 人だけじゃなく動物や魔物がお行儀よく並んでいるのはなんとも異様な光景だった。

 

「あれがレーテーの川か」

「そう、あの川の水はいわゆる忘却の水じゃ。来世に記憶を持ち込まないためにも、転生する者には水を飲んでもらう」

「飲まないで越える人はいないの?」

「取引は存在する。ただし来世では大切なものを何か一つ失ってもらうのじゃ。視力であったり体の一部が欠損、厄介な病を抱えて生まれるなど様々じゃがな」


 病を抱えて生まれた場合、長生きできないこともある。

 重度の問題を抱えて今後の人生を送ることもあると告げたら、ほとんどの人は拒否するという。

 その取引を取り締まっているのが川の前にいるカロンという奴だ。


 骨の体にローブをまとっているというシンプルな見た目だ。

 タルタロスにいるえげつない異形からしたら、ずいぶんかわいい。


「はいはーい! 列からはみ出さないでくださいネー! え? 取引?」

「おう! 俺は次の人生であいつをぶっ殺すんだ! 忘れるわけにはいかねぇ!」

「復讐デスかー。あなたは生前かなりお強いですねェ。ならば最低でも両腕欠損デスね」

「はぁ!? 代償でかすぎだろ!」

「あなたの生前の強さと動機なら妥当デスよ。例えば後ろにいらっしゃる男性ならば、片目の視力程度ですみますヨ。何せすべてにおいて平凡デスからねぇ。カロロロロッ!」

 

 今、独特な笑い方しなかった?

 その後のカロンの話によれば、代償を大きくするほど残せる記憶が多くなるらしい。

 あの男を例にすれば、復讐相手のことを記憶したければ最低でも両腕欠損。

 名前や顔だけなら片腕だけになり、更に男が弱ければ指一本で済む。

 ただし前世の記憶を引き継いでも冥界のことは覚えていないらしい。


 この辺はなかなか複雑だ。

 冥王もこれをこなしているカロンには感謝しているという。

 皆、カロンに従って水を飲んでからレーテーの川を渡っていく。


 川の向こうは出生の門。光り輝く門をくぐれば晴れて転生できる。

 人や動物、魔物すらも一列になって門へと向かっていく。


「……アレイシア。冥王になって一つわかったことがあるんだ」

「はい?」

「あの列にはタルタロスにいた亡者がいる」

「え!? タルタロスは無間地獄では!」

「違う、違うんだ。すごく言いにくいんだけど……」


 言おうかどうか迷っていたことだ。

 言ってしまえば、アレイシアは今の状況に疑問を持つ。

 最悪、僕と決別してもおかしくない。


「無間地獄タルタロス。その本質は他の層と変わらない。無限とも思える苦しみを味わった後、その罪は浄化されるんだ」

「では、わたくしは……」

「僕がこなければ転生できたかもしれない」

「……そう、ですか」


 アレイシアが目を閉じた。どう思われてもしょうがない。

 これからアレイシアがどうしようが僕は尊重する。


「よかったですわ」

「え?」

「転生してしまったらルト様に出会えませんでしたわ! ですから行きましょう! 現世に!」

「う、うん」


 アレイシアが踊るようにして飛んだ。

 天使のように見えるその姿は、とても死の世界の最奥に幽閉されていた亡者とは思えない。

 感謝は素直に受け取ろう。


「ハティス。冥界のことは頼んだよ」

「うむ、あまりやりすぎんようにな」


 やりすぎるってどういう意味だろう?

 まぁいいか。片手をかざして、闇の霧と共に門を出現させた。

 これが冥界と現世を繋ぐ門だ。

 といっても現世のどこに出るかはまったくわからない。

 知ってる場所があればいいんだけど、ひとまず適当でいいか。


「行こう」

「はい!」


 僕達は門をくぐる。

 冥界にはないような光が眩しく、思わず目を閉じた。

おかげ様で再びハイファン日間ランキング9位に上がりました!

評価していたいてありがとうございます!

すでにしていただけている方々にも感謝します!


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