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冥界の下層を目指して、いつかのリベンジ

怪収(ダークサイド)


 ギルバインを始めとした亡者達を闇に飲み込んだ。

 怪収(ダークサイド)は僕に忠誠を誓った亡者をまとめて取り込める魔法だ。

 これは僕の意思で行使できるから、亡者に自由はない。


 タルタロスで無意味な時を過ごすか、僕にすべてを委ねるか。

 選んだのは亡者だ。仮にそれを罰とするなら、そうなんだろう。

 死んでも本当の意味で自由なんかないんだから。


 全員が大罪を犯した亡者達だから、どっちにしろ妥当だという考え方もあるにはある。

 亡者達を現世に連れていくなんてきっと許されないことだと思う。

 でもそれはあくまで冥王を始めとした強者達が考えた倫理観だ。


 だから僕は冥王を超える。そして僕が冥王となる。

 言ってしまえば僕が倫理だ。

 文句があるなら僕を上回ればいい。

 これまで至る所で行われてきたことなんだから。


「ルト様、下層はこのタルタロスの遥か上にありますわ」

「飛んでいくよ。冥体変異……」


 背中から黒い翼を生やして、僕は飛んだ。

 そしてアレイシアが並走してついてくる。

 アレイシアは亡者のはずだけど、見る限り僕と同じ冥体だ。

 聖女として処刑されて冥界に落ちたものの、彼女は自力で現世に舞い戻っている。


 魂の状態からどうやってそうなったのか、僕にもわからない。

 そういう異質な存在だからこそ、世界の脅威でありながらついに誰も討伐できなかったんだろうな。


 そんな存在に僕が持っている程度の知識で答えは出せない。

 今のアレイシアは天使の翼、僕はどちらかというと悪魔の翼だ。

 僕達は冥界の下層を目指して垂直に飛ぶ。


「だいぶ遠いね。冥界はタルタロス以外に何かある?」

「タルタロスの他には人間獄、餓鬼獄、畜生獄、修羅獄に分類されてますの。これらを支配しているのが獄主……。冥王直下の準神のようなものですわ」


 冥王を神とするなら、それに次ぐ力を持つのが準神の獄主だ。

 それぞれが現世に現れたとしたら、人間達があらゆる力をもって抵抗したとしても一年ともたない。

 冥王直下の準神じゃなかったら、それぞれが何らかの力や概念を司る神として称えられていたほどの存在らしい。

 

 冥王を超えるなら避けて通れない存在だ。

 ちょっと面白くなってきたな。

 準神なんて言うからにはタルタロスの亡者より強い力を持っているはず。


 今の僕の力が通用するか、楽しみだ。

 今度は何百年くらいかかるかな?

 千年くらいは見ておいたほうがいいかな?


「ふーん……獄主ね。強そうだね。どんな奴らなんだろ?」

「見た目はまぁ……個性的ですわ」

「そっか。というか、タルタロス以外にもいろんな場所があったんだね」

「一つずつ説明すると、まずは大きな罪を犯していない者が住まう人間獄。ここは現世とほとんど変わらない暮らしをしている亡者がいますわ。順調に過ごせば来世は人間へと転生できるはずです」


 タルタロスしか知らない僕にとっては意外だった。

 つまり人間獄にいれば、タルタロスの亡者みたいに永遠に苦しむことはない。

 だけど僕に言わせれば、本当の意味で罪を犯していない人間なんてどれだけいるだろう?


 例えば皆には好かれていても、一人の人間を泣かせていたら?

 そんなことを考えてしまえば、罪なんてのは簡単に決められないはずだ。


「畜生獄。ここは人間以外の動物や魔物、虫なんかが落ちる層ですわ。しかし生前、畜生並みの行いをした人間も送られるようです」

「タルタロスと何が違うんだろうなぁ」

「餓鬼獄。生前、欲深かった者達が餓鬼となって苦しむ層です。亡者達は永遠に空腹が満たされない苦しみを味わっているのですわ」

「なんだか覚えがあるような……」


 蛆だらけの食事。僕を追うゾンビ達。巨人。

 かすかにそんな記憶がある。

 もしかしたら僕はそこを知っているのかもしれない。


「修羅獄。生前、戦いに明け暮れた者達が落とされる層ですわ。ここでは永遠に戦い続ける苦しみを与え続けられているようです」

「バルロイはなんでそこに落とされなかったんだろ?」

「剣聖バルロイ……。わたくしも剣を習った際に何度もその名を聞かされましたわ……え? ルト様、なんと仰いました?」

「いや、さっき本人いたけど?」

「マジですかぁ!?」


 あれ、意外と抜けているところがある?

 自我が戻るにつれて、なんだか聖女というイメージからどんどん離れていくような。

 でもそれでいいんだ。

 自分が何であるかは自分で決めればいい。


「あぁ、でしたら一言でも挨拶をしておくべきでしたわ。剣神とも称えられたお方に気づかないなんて、わたくしとしたら……」

「まぁそれは後でね」


 飛びながら頬を両手で押さえて恥じらっている。

 器用な子だなぁ。


「見えてきたね。真っ暗だ」

「下層のどれかですわ」


 上方が真っ暗になっている空間に突っ込む。

 本来なら何も見えないはずだけど、僕は暗闇でも目が見える。

 暗闇の中に広がるのは久しく見てなかった人工物だ。


 ただし壁が剥がれかかっていて屋根も所々に穴が空いている。

 窓から漏れるぼんやりとした灯りを見て思い出した。


「ここは……あぁ、なんだかなつかしいな」

「ルト様?」

「少し挨拶していこうか」

「ルト様! どうかされたのですか!?」


 あえて建物の前に着地して、扉の前に立つ。

 中からは賑やかな声が聞こえてくるけど、今ならわかる。

 会話内容が不明瞭で、声が潰れた声帯から発せられていた。

 

 そもそも生気がまったく感じられないじゃないか。

 昔の僕はこの中にいるのが亡者だと見抜けなかったマヌケだ。

 そんな僕が生きて逃げられたのは奇跡でしかない。

 

 僕はここで蛆だらけの食事を食べさせられたんだ。

 そしてゾンビ達に追いかけられてタルタロスに落ちた。

 ちょっと挨拶していこう。


 扉を開けると相変わらず亡者達は僕達に気づいていない。

 食べているのは蛆まみれの料理や何かの臓器らしきものだ。

 あれを食べても腹は膨れず、こいつらは延々と食べ続けている。


 亡者の空腹が満たされるわけがない。

 ここはそういう罰を与えられた奴らがいる場所だから。


「ちょっと聞きたいことがあるんだ。獄主って奴に会うにはどうしたらいい?」


 僕が声を張り上げると、亡者達が一斉に見た。

 そしてのっそりと立ち上がってふらふらとやってくる。


「なんだ、あれ」

「生きとらん」

「死んどらん」

「わかんねぇ」

「捕まえれ、獄主様に捧げれ」


 僕は深呼吸をした後、終の剣(ダークセイバー)で一回転して辺りを一閃した。

 建物ごと亡者が真横に一刀両断。

 胴体が分離した亡者達がふらりと揺れて次々と倒れた。


「あ、ひっ……く、くわせて、くれぇ」

「もっと、もっと、金をォ」

「宝石、宝石が、見たい、見たいィィ」


 上半身だけになったゾンビどもが床をガリガリとひっかいてもがいている。

 亡者のうちの一人である女が、蛆にまみれた肉料理を片手に持ったまま倒れていた。

 昔の僕に腐った肉を持ってきた奴だ。


「ねぇ、獄主ってどこにいけば会える?」

「し、しらないわぁ、あ、なたぁ、前にぃ……なんで、生きてぇ……ひ、ひひぃっ!」


 亡者でも恐怖は感じるのか。

 床を這いつくばったまま亡者が逃げ出した。

 

「ルト様、ここに用がありますの?」

「まずは餓鬼獄の獄主に挨拶をしようと思ってね」

「獄主の居所はこの亡者達も知らないと思いますわ……。それに目的の冥王がいるのは人間獄ですの」

「わかってないなぁ、アレイシア。まずは手下からわからせてやるのがいいんじゃないか」


 僕がそう言うとアレイシアが身震いした。

 どこでふんぞり返ってるのかは知らないけど、獄主が出てこないなら出てこさせるまでだ。

 支配者を気取っているなら、僕の好きにはさせないはず。あの時だってそうだったからね。

 これだけの騒ぎを起こしたんだ。そろそろやってきてもいい頃合いだ。


 すると地響きが聞こえてきた。

 巨大な何かが歩いてくるのがわかる。

 それが近づくにつれて、亡者達が慌ただしくなって切断された上半身のままもがき始めた。

 と思ったらピタリと止まる。


「ご、獄主様だぁ……」

「えれぇこっちゃ」

「お前、獄主様を怒らせた」

「怒らせた、終わり、終わり、イーーーーヒヒヒヒヒヒヒィィーーーー!」


 亡者達が勝ち誇ったように歯をカチカチと鳴らして一斉に笑った。

おかげ様で現在、ハイファン日間ランキング14位です!


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[一言] アレイシアちゃんポンコツかわいい
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