表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/41

闇の中で見出したそれぞれの道

「そやつらは……」


 魔神がぽかんとなるのも無理はない。この人達はタルタロスで罰を受けていた重罪人だ。

 本来なら未来永劫、罰を受け続ける立場だけど僕に従ってもらっている。

 終の剣(ダークセイバー)は対象を活動不能にする効果があるけど、その時に闇に封じ込めることができる。


 精神的に敗北した相手は闇の中で今一度、自分と向き合う。

 一度は屈した亡者だ。

 魔術の研究を続けるにはどうすれば?

 剣の道とは本当に強さだけなのか?

 大陸の覇者となった帝国の頂点である自分は本当に頂点か?


 闇という無と向き合っているうちに、それぞれが答えを出した。

 その結果、バルロイは僕に従って強さ以外の道を探すことに決める。

 ギルバインは僕についてくることでまだ見ぬ魔術を追い求めることができる。

 皇帝グライザーは自らの思い上がりに気づく。


「さすがは少年……いや。我が主だ。かつての魔神を従えるとはな」

「バルロイ、仲良くしてあげてね」

「破壊以外の快楽しか見いだせなかった魔神も私と同じだ。互いに切磋琢磨したいと思う」

「頼むよ」


 これを良しとしないのは魔神だ。

 相手はバルロイ、自分よりも遥かにちっぽけな存在である人間なものだから表情が怒りに満ちていく。

 

「人間ごときが思いあがるな。貴様など、我が手にかかれば数秒とかからずに存在の痕跡すら消せるのだぞ」

「魔神よ。私達は等しくルト少年に敗北した身、その時点で強さでの上下に意味などないのだ」

「小僧に敗北したのは認めるが、貴様になど従わんッ!」

「従う必要はない。お前は私を見ていればいい。私が何かを学んで変われたのなら、お前も学ぶ」


 バルロイの発言に魔神が虚を突かれた。

 分裂して自分と戦っていた時からは考えられないほど冷静だ。

 さすがの魔神も返す言葉がなかった。


 魔神に向けてそんなことを言った人間なんていないんだろうな。

 僕としては変わってほしいとか、そんな大層なことまで考えてたわけじゃない。

 闇の中で自分と向き合った結果、亡者達は僕に従うことを決断しただけだ。


 ここで無意味な罰を受け続けるよりは、そのほうがいいと思ったんだろう。

 僕としても本人が望むなら異論はない。


「ファッファッファッ! ルト様! この不詳ギルバイン! 魔術のことなら何でも教えますぞ!」

「それは助かるよ。魔術以外にもたくさん教わるかもしれない」

「お任せくだされ! ルト様に敗北したからというもの、まだまだ魔術の底を見たいと渇望しております故! どこまでもついていきますぞ!」


 ギルバインも話してみれば快活なおじいちゃんだ。

 こんなところに閉じ込められたらそりゃ歪むか。

 この人達は本来であれば死者であり、ここで罰を受け続けなきゃいけない。


 だけどそんなのはあくまで冥王が決めたことだ。

 僕には何の関係もない。

 ルールも概念も倫理も、強者達が決めると言うのなら僕は喜んで強者の席に座ろう。


「我が主よ! かつては世界皇帝などと思いあがっていたことを強く恥じております! そんな私のような畜生を従えていただき、至極感銘を受けております!」

「う、うん。君は君でちょっと極端だね」

「ありがたき幸せ! この虫ケラにも劣る下劣極まりない私にそのようなお言葉をいただけるとは!」

「あまり思い詰めないでね?」


 古代帝国の皇帝、大陸の覇者。

 あらゆる名を欲しいがままにしていた皇帝グライザーが今や自分を畜生だの卑下する始末だ。

 いったい何を自問自答してこうなったんだろう?


 予想外の結果ではあるけど満足している。

 仮に罪人として罰を受けなきゃいけないというルールがあるなら、これはこれで罰なんじゃないかな?

 死んでも尚、僕みたいな無能に従えるはめになっているんだからさ。


「さて、皆。僕はこのタルタロスを制覇するつもりだ。だいぶ強くなった自覚はあるけど何せゾンビと呼ばれた僕だから、もっと強くなる必要がある」

「ゾンビですと! いったいどこの誰がルト様にそんな戯言を!」

「同感だ! 無知蒙昧な家畜同然の下郎だろうに、よくも我が主を!」

「グライザーとギルバインはちょっと落ち着いて。それでこのタルタロスでもっとも強い亡者がいたら知りたいんだ」


 そう聞くと一同が静かになる。あの魔神ですら、だ。

 この反応は確実に知ってるね?

 タルタロスの亡者同士で噂になっているわけじゃあるまいし、それなのにこの反応だ。


 それはつまり実際に見たことがなくても会ったことがなくても、存在感だけで強者だと知らしめているのかもしれない。

 特に魔神の反応が顕著だ。

 明らかに動揺して拳を震わせている。


「……ルト。いかに貴様とて、あれと接触するのは勧められん」

「君がそこまで言うのか……」

「このタルタロスに落とされた亡者は等しく冥王にいとも簡単に屈している。しかしただ一人だけ、冥王に抵抗して手を焼かせた者がいた」

「それはすごいね。どこのどういう人?」


 魔神は口を開かない。

 口に出すのも憚れるほど強い存在なのかな?

 バルロイ、ギルバイン、グライザー。全員が黙り込んでいる。


 だとしたら僕がなにも感じ取れない時点で、やっぱりまだまだなのかもしれない。

 次に口を開いたのはギルバインだ。


「ルト様。ワシは生前、多くの魔術の使い手を見てきました。炎であらゆる生物を骨まで残さず消す魔術師、大海を割って大陸同士を繋げた魔術師、竜の群れを三日三晩かけて殲滅させた魔術師……。しかしそんな彼らですら、あの亡者……いや。あのお方の前ではかすみます」

「……やっぱり僕より強い?」

「恐れながら申し上げますが、きっと……」

「そっか……」


 なるほど、そこまで強いのはわかった。

 でもそれだったらバルロイが避けるのはおかしい。

 知っていたなら、自分同士で戦わずに挑みにいけばよかったはずだ。

 でもそんな僕の胸中を見透かすかのように、バルロイは首を左右に振る。


「勘違いしないでくれ。私は恐れているわけではない。なぜか挑む気にならんのだ」

「それは……どういうこと?」

「例えるなら、一切の汚れがない芸術品に触れるのをためらうような……。そんな感覚に近い。そうしようとすると胸が苦しくなるのだ」

「うーん……」


 バルロイはこう言ってるけど、たぶんその亡者のほうが強い。

 バルロイと戦った時よりも遥かに強くなっている僕を見て、魔神やギルバインがダメ出ししたんだからね。

 バルロイの感覚を否定するわけじゃないけど、それはたぶん上位存在に触れるような禁忌の感覚があったからだと思う。


 僕の中にある記憶では人間は神様を崇拝していた。

 人間は神を上の存在としているから、そもそも挑むだとか倒すみたいな発想にはならない。

 本能で敵わないと理解しているからだ。


「魔神、その亡者の名前を教えてよ」


 魔神が僕を見据えて重い口をようやく開く。


「滅びの女神アレイシア。この世でもっとも愛された罪深い人間だろう」


 アレイシア。その名を聞いて、かすかに頭がうずいた。

ブックマーク、応援ありがとうございます!

おかげ様で現在、ハイファン日間ランキング14位です!


「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたなら

ブックマーク登録と広告下にある☆☆☆☆☆による応援をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ