6月1日の記憶
まず、マミから幸へ送られていたというメッセージの内容と、あの日のマミの不思議な発言について説明した。
マミの知人の誰かが、幸を殺そうとしたんじゃないか。そしてその人が、理人君を騙した人物なのでは? という私の予想に、八代は息を飲んだ。
「そいつが幸を突き落とした、って若葉は思ってるんだな?」
こくりと頷く。
数回の瞬きを挟んで、私は重い口を開いた。
「その人のことなんだけど――私は大和さん、なんじゃないか、って思ってるの」
「は?」
想像していた通りの、面食らったような反応が返ってくる。
「だって……マミの家に入れそうで、幸が先週の日曜日に、丘にいることを知ってる人ってなると、大和さんと樹里亜しかいないじゃない」
「でも動機は――家のことか」
八代が、反論しようとして、口をつぐむ。
それから顎に大きな手を当てて、思案する姿勢に入った。
「大和さんのお母さんがさ、具合悪くなった、ってことで、丘に来なかったでしょ? それ本当だったのかな、と思っちゃって」
八代は、悩むように小さく唸る。
それに被せるみたいに、言葉を続けた。
「事件の日、樹里亜には買い物とか言って、実家を出た後、マミの家に行って、彼女を眠らせてからメッセージを打つ。万が一を考えて、目覚めたマミが学校に行かないように制服を隠す。そして自分は学校に忍び込んで、幸を突き落とす。うちの学校はセキュリティ甘いから、けっこう簡単に侵入できると思う」
そこまで一気に語って、呼吸をおろそかにしていたことを自覚する。
滑り出す言葉を止められなくなっていた。口に出すことで、恐怖は増していくのに、言わなければ言わないで、気がおかしくなりそうだった。
「6月1日――」
「え?」
「6月1日に、幸が宅配を受け取りたいから、って言って、学校を休もうとしただろ」
「う、うん」
あの日の朝。幸は樹里亜に、家にいるように頼まれていた。
自分では受け取れないから、と幸に手を合わせてきたという。
「確か――樹里亜が彼氏に『今から忘れ物届けに来てほしい』って言われたから、幸に家にいて宅配便を受け取って、と頼んだ、みたいな話だったよな?」
「あっ!」
そうだった。あの日樹里亜は、大和さんに呼び出されていたのだ。
彼は、理人君と幸を二人きりにするために、樹里亜を自宅から引き剥がそうとしたのだろうか——。
「彼氏だったら、俺の存在を知らなかった可能性が高い。樹里亜さえ家から遠ざければ、と思ったんだろうな」
そう口にしてすぐに、慌てて顔の前で手を振る。
「予想でしかないぞ。あくまで大和さんが犯人だったら、って仮定した場合だ」
「あ、ああ。うん……」
「そもそも、折野に聞かねぇと。月曜日にあいつんちに来たのは、誰だったのか」
「そうだね。マミに会えば――わかるよね」
幸が転落した日に、マミのところで何があったのか。
彼女に会いに行けば、全て明るみになるはずだ。




