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殺してくれてありがとう  作者: 絶対完結させるマン


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92/165

殺人の可能性


 ***


 最後の言葉を口にすると、理人君は、それまで滑らかに語っていたのが嘘のように、ガックリと力なく項垂れた。

 さっきまでとは一転、コンセントを抜かれたテレビのように、ブツッと一気に勢いをなくしている。


 理人君は話している間、異様に目がギラギラ輝いていたり、無気力そうになったりと、忙しなかった。

 情緒不安定。

 今の理人君を一言で表すならば、その言葉がピッタリだろう。


 私は、話を聞いていて、何度もおかしい、と感じた。

 幸はSNSをやっていないんだから、理人君と知り合いになることは、不可能なはず。


 ひょっとして理人君は、嘘を言っているのか? 嘘、というより、虚言癖なのかもしれない。自分の頭の中では本当のことで、記憶もある、というパターン。

 彼はどう見ても、健全な精神状態には見えないし、その可能性はあり得る。

 私がそう考えていると、八代が口を開いた。


 「幸はネットでの付き合いはしない、と何度か言っていたが――考えを変えたのか?」

 尋ねる、というよりも、独り言のようなニュアンスだったが、私は、「いや」とそれに応える。

 「幸はSNSをまったくやってない、ってほんのちょっと前に言ってたばかりだよ」

 「そんなわけないだろ!」


 声を荒らげたのは、理人君だ。弾かれたように立ち上がった勢いで、椅子がひっくり返った。

 その物音にビクリとする。


 「やりとりだってちゃんと残ってるんだ! 君はなんだか疑り深そうな感じだけど、ここにしっかり! ほら!」

 ズイッ! と携帯を突きつけられる。そこには確かに、『幸』というアカウントとのやりとりが、表示されていた。

 理人君が語ってくれた言葉だって、しっかりあった。虚偽ではない。

 「う、うん。わかったよ。疑ってごめんなさい」

 私が頭を下げるのを確認すると、理人君は再び活力が抜けたようで、冷たい床にへたり込んだ。


 そんな彼を、八代が揺さぶる。

 「おい、しっかりしろ。――ごめん、若葉。理人を一旦、俺の家に連れて帰る」

 「わかった。これからどうするかとか、ゆっくり話し合ってね。――出来ないかもしれないけど」

 警察に、理人君のことを話すべきだろう。 

 しかし今の彼の状態で、そういう提案をするのは、非常に良くない気がした。


 それにようやく探していた弟を捕まえたのだ。積もる話もあると思う。警察に行くのは、そのあとでも良いだろう。

 八代に優しく背を押されながら、理人君は帰っていった。

 嵐が過ぎ去った後みたいに、しんとした病室に一人取り残される。


 私の頭の中は、大混乱を極めていた。

 なんとか冷静にならなければ。そして考えをまとめなければいけない。


 『幸』というアカウントは確かにあって、理人君に連絡を送り続けていた。

 そして幸の自宅の場所を教え、実際に理人君は家に来た。


 思い付いた可能性は二つある。


 一つ目は、幸が嘘をついていた場合。本当はSNSをやっていたし、ストーカー(理人君)のこともわかっていた。

 二つ目は、誰かが幸の名前を借りて、SNSをしていた場合。


 前者は考えづらい。だってもしそうなら、何のために幸はそんなことをしたのか。

 表向きは怯えた振りをして、裏では理人君に、待ち合わせの内容の連絡をするのは、意味不明である。

 それに、いざその場に来た時、幸は全力で逃げた。

 前者の可能性を考えれば考えるほど、幸の行動は不可解だ。狙いがわからない。幸が二重人格者でもない限り、納得できない。

 となると、やはり後者の線が濃厚だろう。


 『幸』というアカウント名で、理人君を招いた人物。一体何者なのか——。


 ふと既視感を覚える。

 なんだか前にもこんなふうに、思い付いたパターンの中から、どれだろう、と悩んだことがあったような――。


 そうだ。思い出した。

 事故の当日、マミから幸へ『踊り場で体操服を渡しに来て』とメッセージがあったらしいにも関わらず、マミが学校に来ていない、と知った時のことだ。


 あのときも、幸が嘘をついているパターンと、マミのイタズラのパターン、マミの振りをした誰かが、メッセージを打ったパターンを考えていた。

 あれは一体何だったんだろう。マミに訊いてみたいけれど、しばらく携帯は見れない、ということだから、退院したあとに直接会って訊くしかない。


 そういえばマミは、何故か私服で学校に来ていたな。

 その時、彼女の発言が、ふっと思い出された。


 『起きたら制服がなくなってて――』

 制服がなくなってる? 何で? 下着泥棒ならぬ制服泥棒?

 目を閉じて、あの日のマミを鮮明に思い起こそうとする。

 ボサボサの髪。何も飾られていない顔。目覚めてすぐに、家を飛び出したような風貌だった。


 マミがあの格好のまま、外に出るとは思えない。切羽詰まっていたことは、本当と考えられる。

 だからマミのイタズラ、という可能性は除外していいだろう。


 「じゃあ幸が嘘ついてたって線は……?」

 いや、本当は連絡が来てなかったとしたら、マミにメッセージのことを尋ねた時、「何それ?」という反応が返ってきたはずだ。

 『踊り場に行かないと!』とマミが言っていたから、メッセージのやりとりは行われていたと思って良いだろう。


 じゃあ――。

 そんなまさか、と思いながらも、考えたことを組み立てていく。

 マミは眠っている間に、携帯を操作されて、学校に行けないように制服を隠された。

 誰がそんなことをしたのかはわからないが、とにかくその“誰か”が、マミを騙って幸をおびき寄せようとしたんだ。

 ということは――。


 「事故じゃなかった……!?」

 幸の転落は、事故じゃなくて、幸を踊り場におびき寄せた人物によって起こされた事件ってこと!?


 「じゃあ最初の世界線でも……?」

 落下した幸の近くに、ポーチが落ちていた、と言われたことを思い出す。

 タイムリープする前に起きた転落事故にも、ポーチは落ちていた。

 それの存在によって、事故と判断されたんだと思う。

 思わず身を乗り出したことで、転落してしまったんだと。


 担任からポーチが落ちてた、と伝えられた時は、幸の転落死は運命で、タイムリープしたとしても変えられない事象なのか、と絶望していたが、違ったのかもしれない。

 幸は事故で死んだんじゃなくて、誰かに殺された。その“誰か”は事故に見えるように、ポーチも落とした――。

 恐ろしい考えに、手がブルブル震える。


 幸に殺意を抱いていた人物――その存在に、まったく気づかなかった。最初の世界でも、タイムリープしてからの、警戒しながら過ごしていた日々でも。


 間違いない。その人物がネット上で『幸』を騙り、理人君をそそのかして、幸を殺させようと仕組んだ。

 理人君が失敗したと知ったその人物は、『自分で手にかけるしかない』と事故に見せかけて殺そうとしたんだ。


 そうなると、最初の世界線でも、理人君に殺害させようとした可能性が高い。

 しかし彼は、再び幸の前に現れることはなかった。隠れて見ていたのかもしれないが……。そういえば、付きまとう理人君に気づいたのは、二回とも私からだった。私が注意してなければ、幸はいつまでも気付かなかったかもしれない。


 ならば、最初の世界線の幸の認識では、一回家にちょっとおかしな人が来た、くらいのもので、それから理人君と会うことはなかったんだろう。

 たびたび話しかけられていたら、さすがに周りに相談するはずだ。


 理人君は、一回幸に見つかりそうになってから、『妙な快感を覚えた』と言っていた。

 私が見つけなければ、幸をストーカーすることはやめて、あそこまで感情を高ぶらせることはなかったのかもしれない。

 八代の弟が、軽い気持ちで人を殺そうとする人間だと、私は思いたくなかった。

 限界まで揺さぶられて、最高に――最悪にハイになった末の、殺意と行動。何かが少しでも違ってさえいれば、理人君はあんな凶行には及ばなかった、と信じたかった。


 いずれにしても、理人君を利用できないことがわかった犯人は、新たな作戦を練る。

 それが事故に見せかけて、学校の4階から突き落とす、というものだった。


 その犯人は一体誰なんだろう。

 幸の死を望む人物――そんな人がはたして、身の回りにいただろうか。

 過去の記憶を掘り返してみる。


 最初の世界線では、マミを使って幸をおびき寄せることはできないはず。つまり犯人は自分で幸を4階に呼び出さなくてはならない。

 最初の転落事件が起きる直前、幸は『用事を済ませてから理科室に行く』と言っていた。あれは犯人に呼ばれていたのだ。

 あの日も4階が空だった。1年の1、2組の時間割を把握している者でないと、事は起こせない。

 同じ学校の人間なら、もちろん知れるし、幸を呼びつけるのも、簡単だろう。


 最初の世界線で、誰か怪しい人物はいただろうか。違和感はなかったか――。

 幸を裏で悪く言う女子たちは、何人かいたものの、殺したいほど憎い、と思ってそうな人物は、思い浮かばなかった。

 ちょっとムカつく、ちょっと鼻につく。そんな軽い苛立ちしか向けられてなかったはずだ。


 マミの家に入れるくらいなのだから、2組の人だろうか。マミの友達の誰か……?

 そこまで考えてから、あっ、と気づいた。

 犯人は、先週の日曜日に、幸があの丘に来ることを把握している人物に絞られることに。


 理人君にナイフを持ってくるよう指示した『幸』は、人気のない丘の頂上で、二人を会わせようとした。

 幸がどんな反応をするのかも、それによって理人君がどう動くのかも、その人物は予想していた。

 私たちが駆けつけて来なければ、きっとそいつの思惑通りにいっていた。恐ろしいことだ。


 日曜日のピクニックのことを知っていたのは、私と樹里亜と大和さん。

 私のわかっている限りでは、だけれど。


 犯人が、幸を尾行していて、帰り道の会話も聞かれていた、ということなら、候補はまったく絞れなくなってしまう。

 しかしマミは、ファミレスで私がピクニックの話をした時に、初めて知った、という態度を取っていたんだから、友達に直接話していないことは、確かだ。

 じゃあ、マミの友達をとりあえず除外するとしたら、犯人の候補は――。

 今日会った大和さんの顔が、ぽわんと浮かんできた。


 「いやいや!」

 ブンブンと頭を強く振る。浮かんできた考えを追い出すように。

 樹里亜は、目を覚まさない幸を見て、大きく取り乱したという。いくら何でも、大切な恋人を悲しませるような真似までして、夢を叶えようとはしないだろう。


 でも……あの日結局、待ち合わせ場所に来なかった。

 幸を殺すことが目的なら、当然来ない。理人君と二人きりにさせたいから。

 大和さんが犯人だった場合、辻褄が合う。


 幸の家の場所を、理人君に教えることができる。ピクニックの提案をして、樹里亜を自分のそばに置いておけば、邪魔される心配はない。

 自宅を出る直前になったら、『親の具合が悪くなった』と嘘をつき、幸のところには向かわなくて良いようにする。

 親には、『体調がすぐれないふりをしてくれ』とあらかじめ頼んでおけば、樹里亜にも怪しまれなくて済む。


 信じたくないのに、どんどん思考が深みに落ちていく。と、危うくなっていく自分に気付いて、はぁ……とため息を吐く。

 やめだ、やめ。今の私は、冷静になれていない。もう少し精神的に落ち着いた状態でものを考えないと、穿った思考に陥るだけだ。

 今日は、目覚めてから色々ありすぎた。一旦寝よう。大事なことは、睡眠を取ってから、ゆっくり考えるべきだ。


 布団を被り、目を閉じる。

 明日、八代に連絡してみよう。一人で考えすぎるのは、良くない。私はただでさえ、短絡的な人間なんだから。

 決意を固めて、身体の力を抜くと、すうっと眠りの世界へ誘われた。

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