嫌な感じ
学校が終わって幸と下校する。
「お姉さん今日帰ってくるの?」
「化粧水とか家になかったから、どこか泊まりに行ったんだと思う」
幸の親は海外赴任で一緒に暮らしていなかった。だからあの広い家で姉と二人暮らしだそうだ。
幸は、自宅である屋敷が、大好きだと度々言っていた。
「お父さんもお母さんも、あまり帰ってこないからさ。家が残ってるから家族を思い出せる、っていうか」
それを聞いた時、誰もいない家の中を散策する彼女の姿を想起した。
昔この部屋で、みんなで何をしていたのか、と思いを馳せることで、薄くなってく家族のつながりを、感じ取ろうとする姿を。
じっとその場で考えていると、満たされていたあの頃に戻れたような錯覚を覚えて、心の温度が、わずかに上がる気がするあの感じ。
幸もそれを味わっていたのか、なんて想像を膨らませて、勝手にシンパシーを感じていたあの頃の自分を思い出す。
「じゃあ一人になっちゃうじゃん! ていうか警察に話した方がいいよね」
「警察にはエリちゃんが話しておいてくれたって。うちの学校の人じゃないってメールしたら、警察に相談した方がいいって」
「そうだね」
「それで警察の人に話したら、パトロールの数を増やしてくれるらしい」
それで解決すると良いが……。まあ警察がうろついているだけで、犯罪はしにくくなるだろうけど。
「あんなことがあった後で怖いだろうし、今日はうちに来る?」
「ありがとう。じゃあお邪魔させてもらっていい?」
泊まりの準備をするために、道中幸の家に寄る。
玄関は今朝の出来事などなかったかのようにピカピカにされていた。
庭で用意が終わるのを待っていると、2階の窓から人影が見え、おやっとなる。
人影の正体は八代だった。窓を閉じたままどこか遠くを見ているようで、その顔は険しく、何か考え込んでいる様子だ。
なんだか胸がざわざわしてきて、私は八代を睨むように見上げる。
目が合うことはなかった。