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殺してくれてありがとう  作者: 絶対完結させるマン


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死の間際に見るもの

 「わっ!」

 鼻先に感じた強い衝撃に、思い切り顔をしかめる。前を走っていたマミが、急に立ち止まったのだ。


 「ちょっと、危ないでしょ」

 不満を訴えるため、マミの顔を覗き込むと、彼女は「いやーっ! 何あれ!」と上を見て絶叫した。

 何事かと視線の先を追うと——。


 「幸!?」

 四階の開け放たれた窓から、幸がぶら下がっていた。


 窓枠を掴んで何とか踏ん張っている様子だが、安定を失った足がフラフラと宙に揺れている。一体どれくらいの間、ああしていたのだろう。

 しかし、助けを求める声も出せないほど、きつい状態なのだ、とは理解できた。

 少し刺激を与えればあっさりと落下していきそうな幸に、血の気が一気に引いた。


 「誰か来てーっ!」

 力の限り叫ぶ。渾身の大声は、窓ガラスをビリビリ震わせ、教室にいる生徒や先生たちにも届いただろう。


 「何か――何かクッションになりそうな物は……」

 次に私は、落下の衝撃を和らげられそうな物を必死になって探すが、中庭にそんな物はどこにもなかった。

 その間にも、幸は携帯のバイブレーションのように小刻みに震えていた。

 まずい、限界が近づいている。このままでは、幸の身体が地面に叩きつけられてしまう。


 「幸ー! もうちょっとだけ耐えて! お願い!」

 そう叫んだマミが、非常階段を猛スピードで駆け上がっていく。

 頑張れ、頑張れ、頑張れ――。幸とマミどちらを応援しているのかわからなくなりながら、ただただ何度も祈りを反復する。


 「若葉さん? そんなところで何をしているの!?」

 「先生!」

 パタパタとこちらに向かってくる先生を制する。

 「4階から人が落ちそうなんです! 受け止める準備をしておいてください!」

 「な、何ですって!? わかったわ、すぐに他の先生たちにも声をかける! 引き上げにも何人か行かせておくわ!」


 四階には今誰もいない。あそこには1年生の教室しかなく、その1年生は選択授業で出払ってしまっている。

 マミが間に合ってくれれば――!


 「なっ……開かない! どうして!?」

 マミの悲鳴がここからでも響いてきた。そして絶望的な気分になる。

 非常階段へ通じる扉は、夜間以外は常に解錠されているはず。だというのに、何という不運か閉まっているのだ。


 何だ何だ、とベランダの窓から生徒たちが、ちらほらと顔を出し始める。その生徒たちに、

 「布とかあったら投げてきて! 人が落ちそうなの!」

 と目一杯訴える。

 「ええっ!?」「大変だ、早く!」「ブランケットくらいしかないよ!」と慌てふためく気配が周囲を包む。

 2、3階からポイポイとブランケットや座布団がいくつか投げられる。それを幸の真下になるように広げていく。


 しかし、まだ全然足りなかった。焦燥感が高まり、頭上近くの幸の様子を見ようと、顔を上げる。

 その瞬間、時が止まったようだった。


 視界に飛び込んできたのは、予想していた青空ではなかった。

 つむじだ。幸の頭のてっぺんがスローモーションで迫ってきていた。


 艶のある長髪が私の顔をくすぐる。そこまでの距離になって尚、衝突するまでの未来がずっと先のことに思えた。

 のっぴきならない状況にも関わらず、私の頭の中には、この時代にきた時のことが、悠長に映し出されていた。


 挙動不審な私を心配していた幸。あの時死んでしまったはずの幸に会えて、本当に嬉しかった。奇跡は起こるんだと思った。

 次々と流れていく。この時代で新しく育んだ思い出たち。

 賑やかな勉強会。私にとっては二度目の夏祭り。勇気を振り絞って過去の傷を見せてくれたこと。照れ臭そうに夢を語ってくれたこと。

 『私ずっと応援してるからね』と言ってくれたこと。


 色々な場面が駆け巡っていく。ああ、この感覚には覚えがある。

 走馬灯だ。死の間際に見るというアレ。


 ゴッという鈍い音が、頭の中で響く。

 それが意識を手放す最後に聴こえた音だった。

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