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殺してくれてありがとう  作者: 絶対完結させるマン


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おぞましい日記

 ***


 9月3日

 今日から日記をつけようと思う。

 ……のだがとりあえず最初に、過去のことを一通り振り返ることにする。


 俺は最初、妻の早苗(さなえ)と二人で暮らしていた。

 しかし年々早苗への不満が募っていって、こんなことなら百合(ゆり)を選ぶんだったな、と悔やんでいた。

 早苗との間に子供が出来なかったことも後悔している理由だった。俺はすっかり騙された気分になって、毎日早苗に怒っていた。


 そんなある日。俺は帰宅途中に、田中(たなか)に刺された。


 田中とは幼馴染みで、ずっと仲良くやっていた。

 あいつが昔早苗を好きで、俺と早苗が結婚した直後、ちょっとギクシャクしたけど、それも時間が経つにつれて解決したと思っていたのに。

 俺が「やっぱ百合と結婚すれば良かった。二股してた頃に戻って選び直したいよ」とかこぼしたのが良くなかったのか。


 田中は俺を刺した後、「やった! 移してやった! これで早苗は俺のところに!」とかヤバい目で高笑いしていた。

 死にたくない! と思った時、独身時代のことが頭に浮かんだ。人は死の淵に立った瞬間、一番満たされていた時期を思い出すらしい。


 早苗と百合。どちらと結婚するか迷っていたあの頃――。

 あの頃に戻って、人生をやり直したい。百合を選べばきっと幸せになれる。

 結婚相手を、選び直したい――。

 そう強く渇望した時、身体がふっと軽くなった。


 気が付いたら、俺は独身時代に住んでたアパートで、百合と抱き合っていた。

 少しして、自分がタイムリープしたことを理解した。

 とんでもないラッキーが起こった。

 俺は飛び上がって喜んだ。


 これで幸せな家庭を築ける。さっさと早苗を切って、百合と結婚しよう。

 その日の内に俺は早苗に別れ話を告げて、百合にプロポーズした。


 予想通りオーケーをもらえて、それからはトントン拍子で結婚準備が進んでいった。

 そろそろ終業時間なので、続きは明日にしよう。


 9月4日

 かくして百合と結婚して、充実した日々を送っていたある日、田中から便りが来た。

 早苗と結婚したという報せだった。


 それを聞いて、タイムリープ直前、田中が俺を刺した時の発言を思い出した。

 あいつは俺を刺して、『移してやった』と言ってた。

 田中が持ってたタイムリープ能力を俺が授かったということらしい。

 ここでタイムリープ能力について、俺が立てた予想を並べていく。


 1 能力は人に移すことができる

 2 瀕死の状態にすることで、その人物に能力を譲渡できる

 3 能力の保有者の願望に反応し、その願いを成就できる時期に、リープできる

 4 能力を使える回数は、限られている


 といった感じだ。

 田中の発言と行動から立てた予想だ。


 わざわざ俺を殺さなくても、自分で願った過去に戻れば良いのに、あいつは俺に移した。

 田中はもうタイムリープできないから、俺のぼやきを聞いて、俺に過去を変えてもらおうとしたんだろう。


 タイムリープは何回使えるんだろうか。一人一回きりなのか?

 疑問に思った俺は、試してみることにした。


 9月5日

 結果。何度あの頃に戻りたいと念じても、一回も遡れなかった。

 思いの強さが足りてないのかもしれない。死を迫られてもいないし。


 まあ、こんな素晴らしい能力、一人一回きりなのが妥当なのかもな。

 今の生活に満足しているから、別にいいか。もうやり直す必要なんてない。

 そう結論付けて、それきり俺は、タイムリープ能力についての解析をやめた。


 それから数年後に襟人が生まれて、家庭内はてんやわんやになった。すぐに理人も生まれたから、俺と百合は忙しく幸せな日々に、没頭していった。

 俺は、思い描いていた幸福を手にした。

 だからこの不思議な出来事も忘れようとしていたのだが、事情が変わったのだ。


 10月11日

 過去の話が一段落ついたことで少し満足して、しばらく書くのを休んでしまった。

 どうして今さらタイムリープのことについて記そうと思ったのか。

 俺がこれからすることへの決意を、より強固にするためだ。説明調な文体も、自分の心に言い聞かせるように、と考えてのことだ。


 日記を書き始めたのは先月。こんなに時間が経ってもまだ、俺は日和っている。

 息子を殺すなんてこと、ためらって当然だ。


 10月12日

 理人を殺す。

 もちろんタイムリープ能力を移すためだ。


 何度願っても、過去には戻れなかった。どうやら一人一回きりらしい、と気付いて、それならば田中が俺を襲ったように、俺も理人を死に追い込めばいいのだ、と考えた。


 理人は二ヶ月前から学校に行ってない。友達と喧嘩したとか、いや、いじめっ子に目をつけられた、だったか? まあどうでもいい。とにかく人間関係のトラブルだ。

 そんな感じで学校に行かなくなったそうだ。くだらない。我が息子とは思えんほど恥ずかしい奴だ。


 理人は学校でトラブルが起こる前に戻りたいはずだ。やり直して全部なかったことにすれば、また問題なく通い出す。

 理人はよく聞く引きこもりではなく、普通に外出するし、食卓で笑顔を見せることもあった。勉強もしている。


 だから落ち込んでるとかじゃなくて、普通に学校に行くのが気まずいだけなんだろう。そうに違いない。

 だからちゃんと学校に行けと助言してやってるのに、百合も襟人も賛同してくれない。


 理人も、俺に嫌な顔をするようになった。

 ふざけるな。正しいのは俺なのに。あいつら全員、一回懲らしめないと気が済まない。


 そうだ。どうせ元に戻るんだから、あいつらをズタズタにして憂さ晴らししよう。

 理人の不登校がなくなれば、俺は父親としての威厳を保てる。

 いつ実行するのが良いだろうか。



 10月22日

 襟人も俺がタイムリープしなければ、生まれなかったんだよなぁ。

 あと7日経てば、襟人の誕生日、というわけで、そんなことをしみじみと考えた。

 もっとも祝ってやるつもりなんてないが。


 今日襟人に文句を言われた。理人の話を聞いてくれ、だの理人としっかり向き合え、なんてことをぬかしてきた。

 何を言ってるんだか。俺が悪いってのか。そんなわけないだろう。理人が全面的に悪い。

 百合も俺を悪者にしてくる。ふざけんな!


 悩むのはもうやめだ。明日にでも計画を実行に移す。

 ちょうど明日は、みんな家にいる予定だしな。


 よし。まずは百合から殺そう。それから襟人、最後に理人を殺してタイムリープ能力を移す。


 この日記のおかげで、決意することができた。やはり書くことは目標を実現する力になるんだな。

 明日が来るのが今から楽しみだ。あいつらをズタズタにできるし、これで人生をやり直せる。

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