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殺してくれてありがとう  作者: 絶対完結させるマン


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甘ったるい空気

 やがてお開きの時間になり、門のところでマミに見送られる。


 「また明日ね、悠」

 「うん、また」

 「これから二人一緒に帰るの?」

 「そうだけど。よく家まで送ってくれるの」


 言った瞬間に、言い負かしたい気持ちが出てしまっていたな、と自覚する。マミにとってはマウントを取られたと感じるかもしれない。

 子どもじみた自分の行動が、可笑しく思えて、心の中で苦笑する。


 「へぇー……」

 案の定面白くなかったのか、マミの瞳からスッとハイライトが消え、声が一オクターブ低くなる。微妙な変化だけど、空気が冷えるのがわかった。


 「あの、襟人さん。ちょっと」

 チョイチョイッと手招きして、マミは八代を呼んだ。


 八代は訝しげにしながらも、マミに近付く。

 ある程度接近したところで、マミがそうっと八代に顔を寄せて、なにやら耳打ちする。その口元は彼女の手で隠されていて、見えない。

 しかし含みのある視線を、一瞬こちらに向けたことを、私は見逃さなかった。挑戦的なその目に、少しカチンとくる。


 それはつかの間のことで、すぐに顔を離したマミは、ニッコリと愛くるしく微笑んだ。

 「じゃあさようなら。気をつけて帰ってくださいね」

 ヒラヒラと振られる手に見送られて、私と八代は歩き出した。




 「何だったの? さっきのやつ」

 角を曲がってマミから見えなくなった辺りで、尋ねる。

 「『用が無くてもいつでも来ていいですからね。襟人さんだけ特別に、です』だってさ」

 「そう……だったんだ」


 詰まりそうになる言葉を、何とか押し出した。そんな身体の変化によって、また自分が酷く動揺していることを、自覚させられる。

 マミのアプローチも激しくなってきてるな……。


 八代はそれについてどう思ってるんだろうか。

 隣を歩く彼の顔を盗み見ながら、声が震えるそうになるのを誤魔化すように、からかい気味に言う。


 「すごい熱烈だね。これがモテる男の宿命か……」

 「嬉しくねー」

 顔をしかめた彼に、安堵の気持ちが湧く。

 「やっぱり嫌だって思ってるんだ」

 「そりゃあな。こういう時どうすれば良いのかも、よくわかんねぇし。あんな風に慕われることなかったから」


 八代は、自嘲気味に笑う。

 そんな彼の様子は、私からすれば、疑わしく感じた。


 「マジで? まあマミはかなりグイグイ来る方だけど――告白されたりとか一度もなかったの?」

 「ゼロだよ。悪いか」

 拗ねたように眉をしかめる彼に、小さく笑いが込み上げる。


 「目付き悪いし、愛想も良くないしな。怖がられはされても、好意を持たれることはなかった――と思う」

 「まあ顔怖いよね。おじさんになったらヤクザみたくなりそう」


 実際に私も、ニュースで八代を見た時は、殺人犯らしい風貌だなぁ、と失礼ながら思ったものだ。

 人は見かけによらないのだな。現代の八代は悪人に落ちてしまったけど、今こうして隣で笑い合っている彼は、到底人殺しなど出来なさそうだ。


 「けど若葉が良いって言ってくれたから、もういいや。強面でも」

 「……八代って恥ずかしいやつだよね」

 「は? 何で急に喧嘩売ってきたんだ?」

 心底意味がわからない、というふうに首を傾げる八代。


 私は、プイッとそっぽを向いて、ごくごく小さい声で訴える。

 「私からじゃなくても嬉しいでしょ。格好いいって言われたら。その言い方だと、私が特別みたいじゃん」

 過剰に反応する自分が馬鹿馬鹿しく思えるから、紛らわしい言い方は避けてほしい。


 「そういうこと言われると、意識しちゃう子も多いから気をつけな」

 「――若葉は意識しないのか?」


 ポツリと投げられた問いは、今までの声音とは異なっていた。少し驚いて、隣をチラリと窺う。

 そのまま目が離せなくなった。


 八代は、妙な形相をしていた。悲しそうな悔しそうな――そんなやるせない表情を浮かべていて、その上告白でもしたかのごとく、赤面していた。

 熱病に侵されたように、熱さが脳にまでいって、思考回路が溶けていく。うだった頭のどこかで、質問に答えなければならない、という声がする。


 「なあ」

 耳に心地良い低音に、大袈裟なほど肩が跳ねる。

 「えーと……どっちだと思う?」

 なんとか捻り出した後に、これウザイやつじゃん、と気付き、阿呆な自分を戒めたい衝動が洪水のように襲ってくる。


 「あはは! こういう返ししてくる子っているよね! ――それより! 最近の学校てのはちゃんとしてるんだね~!」

 微妙な雰囲気に居たたまれなくなり、全力で話題を変えようと試みる。


 「昔はもっと緩かったらしいな。まあ個人情報に厳しくなるのは良いことだ」

 田所が第一志望にしていたという高校に行くと決めた後、私がふと思い付いて、

 「学校に電話で事情を話して、田所ケンジという生徒はそちらの学校にいますか、って訊いてみたらいいんじゃないかな」

 と提案した。

 何故思い至らなかったのか。そうすればわざわざ出向かなくて済む。

 まだ就業時間内なので、早速かけてみると、「個人情報に関することはお答えできません」の一点張りだった。


 なので結局校門の前で、待ち伏せやら聞き込みやらすることになったのだ。


 「明後日だね」

 「ああ。俺と折野でしっかり調べてみるから。若葉はちゃんと学校行けよ」

 「わかってるって。全員で行っちゃうと幸が一人で帰ることになるしね」


 三人での話し合いの結果、明後日に八代とマミが行くことが決定した。

 マミは下校時間に間に合わないので、その日は学校を早退する、と決めた。

 私も一緒に――と言いかけ、そしたら幸を家まで送る人がいなくなると気付き、言葉を飲み込んだ。


 「収穫あるといいね」

 「そうだな」

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