表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殺してくれてありがとう  作者: 絶対完結させるマン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/165

田所ケンジ

 「お邪魔します」

 八代とほぼ同時にそう口にして、折野家の玄関に足を踏み入れる。


 「家族はいないのか?」

 「放課後は家族は出払ってます。7時くらいまで誰も帰って来ませんよ」

 靴を脱ぎながら、マミが説明する。家族がいないなら、作戦会議も捗ることだろう。


 「襟人さんは誰か一緒に暮らしてる人いますか?」

 「いや、一人暮らしだ」

 「そうなんですね! じゃあ次は襟人さんちに行きましょうよ! どんなところかわたし気になります」


 マミのはしゃいだ様子を目の当たりにして、胸が針で刺されたように痛んだ。

 八代の自宅へ招かれるマミや、机を挟んで言葉を交わす二人を想像したのだ。脳裏に浮かんできたその光景は、無性に私の心をかきむしった。


 こんな感覚、初めてだ。

 「俺んちの周りは、治安悪いから来るべきじゃないぞ」

 八代がピシャリと断ったのを見て、私は安堵した。そして騒がしいほどの心情の変化に、うろたえた。


 私は一体どうしたのだろう。マミと八代の他愛ないやり取りに、これほど心を乱されるなんて……。


 もちろん今までだって、いい気はしなかった。けれど日増しに不快感が膨れていっている気がする。いつか爆発するんじゃないか、と思うほどに。その時私は、どうなってしまうんだろう……。そこまで考えて、慌てて意識を現実に引き戻す。


 何だかわからないことに気を取られないようにしなくては。これから大事な話し合いなのだから。

 集中しないと。

 通されたリビングのソファーの上で、私はピンと背筋を伸ばした。




 「じゃあ本題に入ろうと思います。ケンちゃんをどうやって調べるかですけど――」

 「ちょっと待って。ケンちゃんのフルネームは何て言うの?」

 マミの発言を遮り、昨日から気になっていたことを尋ねる。


 「あ、そういえば言ってなかったか。田所たどころケンジだよ」

 「田所ケンジ、ね。わかった。話の腰を折ってごめん。続けて」

 「うん。それでケンちゃんに会うには、中学の同級生に連絡して、訊いてみるしかないなって」

 「それが妥当な方法だろうな」

 八代が深く頷く。私も首を縦に動かして同意を示す。


 「中学の同級生で今でも仲良い人はいるの?」

 「それが問題でね、今でも交流してる子がいないの。ゼロだよ。SNSを当たれば同級生が見つかるかもしれないけど……生憎わたし高校生のうちは、そういうの禁止だって親から言われてるんだよね。アカウントすら持てない」

 ため息を吐いて、肩をすくめるマミ。


 「田所がどこの高校に行ったとかも知らない?」

 「志望校は聞いたことあるけど……結局その高校に行ったのかはわからないよ。落ちたかもだし、やっぱ違う学校にしたのかも」

 「でも他に当てがないなら、田所が志望してたっていう高校をあたるしかないだろ」

 「そうですよね。ケンちゃんの第一志望の高校は、S高校です」

 「二駅先にあるところか」


 比較的近い場所で良かった。無駄足に終わらないことを祈る。

 そんな私の思いが通じたのか、


 「スムーズにいくと良いな」

 隣に座る八代が、私と目を合わせるように、顔を覗き込んで言う。

 「うん。早く解決したいもんだよ」

 彼に微笑みかけて、心からの願いを口に出す。

 「そうですね。空振りに終わらないことを祈ります!」

 マミがスッと立ち上がり、片手を天に突き上げる。

 「頑張りましょう!」

 えいえいおー! と快活に振る舞うマミに、少しは乗っておこうと、控えめな声で、「おー……」と返す。

 八代も右の拳を軽く持ち上げ応える。マミのガッツポーズに倣ってのものらしい。


 「もっと元気よくいきましょうよ~」

 不満げなマミの声を鬱陶しく聞き流しながら、早く八代と帰り道を歩きたいな、と思う。

 マミと一緒にいるのは、疲れる。今後も朝と夕方には、必ず会う生活が続くのか……。


 一日目にして、憂鬱で心に暗雲が拡がる。癒しがないとやっていけない。


 八代との時間が、私にとってこの上ない癒しだということは、すでにはっきりと気付いていた。

 私はその事実に、正体不明の気恥ずかしさを覚えていた。

 大切な友人と過ごす時間は、癒されて当然だというのに。何を恥じらう必要があるのか。

 わからないことは知りたいと思う質なのに、これに関しては気付いてはいけない、と脳が言っている気がする。


 だから今日も無視し続けることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ