元カレが怪しい
「来てくれてありがとう」
部屋に通されてすぐに、マミがそう言ってペコリと頭を下げる。今までの彼女らしくない殊勝な態度に、私は面食らった。
「それはいいから、内容を早く話してほしい」
「うん。話は遡るんだけど――」
***
わたし中学の頃、彼氏がいたの。今では別れて、未練は完全にないんだけど。
その元カレは、わたしと付き合っていながら、幸を好きになってたんだ。
ケンちゃんの気持ちに気付いたのは――あ、ケンちゃんって元カレのことね。
ケンちゃんの気持ちに気付いたのは、付き合って結構経ってからだった。
わたしはもちろんショックだったけど、それよりも怖いって気持ちの方が強かった。
ケンちゃんは、幸を好きになってから、様子がおかしくなっていったの。
わたしと話してる時も、ボーッとしていつの間にか幸の方を見てた。
あとやたらと幸のことを、わたしに訊いてきたりもした。
趣味や好きな物についての質問はまだ普通だけど、身長や体重なんてことまで知りたがるんだよ? 自分の彼氏ながら、気持ち悪いな、と思った。
そんなケンちゃんだったけど、幸に直接何かするとかはなかった。
それというのも、当時クラスには幸に話しかけにくい雰囲気が出来てて、幸に恋心を持ってるなんてバレたら、ケンちゃんまで何を言われるかわからなかったの。
だからケンちゃんは、ただ幸をねっとりと見てるだけに留めてた。でもさ、授業中ずっとだよ。黒板なんて全然見てないわけ。
わたし怖くなってきて。それで別れたの。
ケンちゃんのことを、最近はすっかり忘れてたんだけど、樹里亜先輩から不審な男の話を聞いて、ふっと思い出したの。それと同時にもしかして――って思った。
ケンちゃんが幸のストーカーになってるんじゃないかって。




