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殺してくれてありがとう  作者: 絶対完結させるマン


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妹への愛

 そして訪れた約束の日。

 日曜日の昼下がりに、駅前で樹里亜と落ち合う。

 そのまま彼女に導かれるまま、住宅街を歩いていた。


 もしや大和さんの住まいに向かってるのか? 半同棲しているという話だし、そこで内緒話をするのかもしれない。

 人に聞かれたくないことを話すのだとしたら、外だと安心できないだろうし。


 「ねぇ悠ちゃん。――幸が私についてあなたに話したことってある?」

 半歩前を歩く樹里亜が、そんなことを訊いてくる。

 気のせいかもしれないが、少しだけ声色が硬いように思った。


 「ある。家にほとんど帰ってこない、って話してて、あなたについて話すときは、いつも寂しそうだった」

 「そうか。やっぱりそうだったよね……」


 私が少し咎めるように言うと、樹里亜は後悔するかのようにうつむいて、しんみりと呟いた。

 その落ち込んでいるらしい様子が不思議で、私は自然と疑問が口をついて出ていた。


 「何であなたは、幸にずっと素っ気なかったの? 家族なんだから、少しくらい気に掛けてくれても良かったじゃない」


 そこで樹里亜は、滑らかに進めていた足を、ピタリと止めた。


 「依存させたくなかったから。私は幸に、外の世界に目を向けてほしかった」


 振り返った樹里亜を見て驚く。

 彼女は、切なげに瞳を潤ませていて、今にも雫が目の端からこぼれ落ちそうだった。


 「あの子は元々内気な性格だったけど、両親が海外に行ってから、それに拍車がかかってね。そばに残った唯一の家族の私に、より一層懐くようになった。それは嬉しいことだったけど……」


 彼女の喉がゴクン、と動く。まるで震えそうになる声の調子を、必死に整えるように。そうして数秒の間をおいて、ゆっくりと口を開いた。


 「ある時幸が言ったの。『私にはお姉がいないと駄目なの。だからずっと一緒にいようね』って。そう言われてから、私がいつまでもそばに居続けると、あの子は自分の道を見つけられないかもしれない、って不安でしょうがなかった。私もあのままじゃ幸に頼りきっちゃいそうだったから、外の交流に力を入れ始めた。このままじゃ、お互いにとって良くない。狭い世界の中で依存し合うなんて絶対に駄目だ、って」


 樹里亜が語る真意に、私は目から鱗が落ちた気分だった。

 冷酷にまで思える塩対応は、幸を疎ましく思ってのことじゃなかったのか。


 呆然とする私を見て、樹里亜は目元を潤ませたまま、笑いかけた。


 「だから今は安心してるの。また幸に向き合える気がしてる。悠ちゃんみたいな友達思いな子が、幸のそばにいてくれてるから。あの子にも私以外に大切な存在ができたんだって」


 そこで樹里亜の顔に、陰が射す。すまなそうに眉を下げたかと思えば、軽くお辞儀をしてきた。


 「この前は私、キツイこと言ったけど、悠ちゃんなりに幸を思ってのことっていうのは、ちゃんと理解してるんだ。幸を大切にしてくれて、本当にありがとう」


 「いえ、そんな……親友なんですから、当然です」

 私の返答を聞いて、樹里亜は目尻を軽く拭う。


 「中学の時のことは、最近になってからわかったの。『幸と距離を置かなければ、当時の内に気づけてたのに』って思って……聞いてからずっと後悔してた」

 「マミが告白してきたんですか? 中学の時のこと」

 「うん。幸の高校に転校してきた頃に、打ち明けられたの。嫌われることを承知の上での懺悔だった。私はもちろんものすごく怒ったけど、『もう二度と人を陥れる真似はやめて』って約束させた」


 私は、あのマミが馬鹿正直に謝るなんて、信じられない思いだった。

 それが顔に出ていたのだろう。樹里亜は、深く頭を下げ、懇願するように言った。


 「マミを好きになってくれ、とは言わない。でもマミに力を貸してほしいの」

 「力を貸すって、どういうことですか?」

 「それについて、これから話そうと思う」


 樹里亜が顔を上げる。その視線の先には、『折野』と書かれた表札があった。

 そびえ立つ一軒家を見上げる。


 「ここ……マミの家?」

 「そう。マミも交えて話したい」

 「私は……マミとどう話せばいいか、わからないです」

 「大丈夫、私もいるから。悠ちゃんにとって大事な話だと思うから、お願い」


 樹里亜は宥めるように言って、インターホンを押した。

 「はーい」とマミがドアを開けて、出迎える。

 マミは、珍しく顔をどんよりと曇らせていた。

 話というのは、なかなか重い内容のようだ。私も声を硬くして、「お邪魔します」と門をくぐった。

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