表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殺してくれてありがとう  作者: 絶対完結させるマン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/165

本当のこと

 樹里亜は想像していた人物とは違った。


 幸の家を後にして、すっかり暗くなった帰り道をとぼとぼ歩く。


 八代に聞いた話からして、幸のことなんてどうでもいいと思っているんだろう、と予想していたのに。

 樹里亜なりに幸を憂いていたのだ。私が真実を告げようとした時、彼女は割って入ってきた。あれは幸が傷つかないように、と思って取った行動だった。


 樹里亜との問答の後、一階に戻り四人で菓子を食べた。


 幸とマミは並んで座り、それは楽しそうに打ち解けていた。過去のことなどなかったかのように。

 それを見て、非常に不愉快な気分になった。直視するのが辛くて、不自然に視線を反らし続けた。そんな私に全然気付くことなく、幸はたくさん笑っていた。


 そのこともショックで、味なんてわかるはずもなかった。ただ機械的に口に入ってくる食べ物を咀嚼している内に、時間は過ぎていった。


 思い出すと、目頭が熱くなり、視界が歪んでいく。情けない。


 胸がつまる理由はそれだけじゃない。樹里亜の持論が正しいのではないかと思ってしまったのだ。


 本当のことを言ったところでどうなる?

 上げて落とすことになる。それはあまりに残酷なことだ。


 私が幸の立場だったら、とても耐えきれない。気持ちは沈み込み、他人への不信感が強烈なものになっていくだろう。

 私がやろうとしていることは、親友を不幸にする行為なのでは――。


 「……っ!」

 心臓が痛い。身体がスウッと薄くなって、世界から人知れず消えていくような心細さが、襲いかかってくる。


 その時だった。

 「おい、危ないぞ!」

 後ろからグイッと腕を引かれた。硬い胸板の感触を背中に感じる。


 びっくりしていると、目の前を車が走り過ぎていった。下を向いて歩いているうちに、赤信号に気付かず渡ろうとしていたみたいだ。背筋を冷たい汗が伝う。

 あのまま進み続けていたら、轢かれていたかもしれない。


 慌てて振り返り、助けてくれた恩人に礼を言おうとする。

 「あ、ありがとうございます! あれ?」

 「ん? 若葉?」


 そこにいたのは八代だった。彼も今私に気付いたらしい。

 「どうしたんだよ、ボーっとして。というか何かあったか? 険しい顔してるけど」

 気遣わしげに私を見下ろす八代。


 そんな彼の顔を見て、無性に寄りかかりたくなった。

 ポスッと八代の上半身に、頭を押し付ける。


 「おい、マジでどうし――」

 「ちょっとだけ」


 戸惑いの声を上げる八代を遮り、弱々しく言葉を紡ぐ。

 「ちょっとでいいから――このままでいさせて」

 ややあって八代から小さく返ってくる。

 「ああ。よくわかんないけど大丈夫だぞ、若葉」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ