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殺してくれてありがとう  作者: 絶対完結させるマン


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髪型を変えた理由

 その日の夜。私はさっそく八代へメッセージを送ってみる。


 『直接会って話したいことがあって……。悪いんだけど出来るだけ近いうちに時間作れる?』


 忙しい八代には申し訳ないが、私は大事な話は面と向かって伝えたいタイプだった。

 文面で感情を表すのが、どうにも難しいし、相手の気持ちを汲み取るのも、下手くそだからだ。


 八代と会いたいって気持ちもあるかもだけど。

 ほとんど毎日顔を合わせる幸と違って、会おうとしなければ会えない友達だから。


 既読はすぐにはつかなかった。労働中かもしれない。

 八代はどんな仕事をしているんだろう。幸の家に来るだけでは、生活費に届かないだろうし。


 今度訊いてみよう。

 そう思った時、静かな部屋に通知音が響いた。


 そわそわしながら画面を見ると、どうでもいいアプリのお知らせだった。

 浮き足立っていた心が、高速で萎れていくのを感じる。


 早く返信が来るといいな。

 意味もなく足をプラプラさせて、うつ伏せに寝転んだ。




 そうしているうちに、いつの間にかうとうとしてきて、目覚めた時には朝になっていた。

 遅刻する!? と焦って時計を見たら、幸い登校時間までには十分な余裕があった。


 良かった――。

 あ、そうだ。確か返信を待ってたんだっけ。

 携帯を確認してみると、八代からの返信が21時頃に届いていた。


 『わかった。明日の夕方なら空いてるけど、どうだ?』

 よし。

 小さくガッツポーズをして、文字を打つ。

 『ありがとう。じゃあ放課後に。よろしくね』


 さて。起床したのだから、まず顔を洗わなくては。

 いつもより時間あるんだから、髪型を変えるのも良いかも。

 普段は楽に後ろでひとまとめにしているけど、久しぶりに巻いてみようかな。

 早起きのおかげだろうか。私の機嫌は何故だか妙に好調だった。




 「今日の足取りは何だか弾むようだね。悠ちゃん」

 「え? そうかな」

 登校中に幸に言及されるほど、私はご機嫌らしい。


 「何か良いことあった?」

 「良いこと、かぁ。ぐっすり眠れたからそのおかげかも。早起きできたしね」

 「あーだから今日おしゃれしてきてるんだ。凄いなぁ。私がやると、どうもグシャグシャになっちゃうんだよね」

 「幸、不器用だもんね」

 「でも前に一緒にチャレンジした時、悠ちゃんも大惨事になってたじゃん。いつの間にマスターしてたなんて……」

 「あっ、確かそういうこともあったね」


 髪の巻き方は、営業の仕事に就いた時に、見栄えを良くするために覚えた。

 高校生の頃は、幸と同様に下手くそだったのだ。


 「え~忘れてたの? 悠ちゃんめっちゃ爆笑してたのに」

 「そ、そうかも。あはは駄目だな~」

 タイムリープの弊害だ。

 ヤケクソ気味に笑い飛ばして、雑に誤魔化す。

 「まあ、猛特訓したんだよ」

 「気合い入ってるね! あ、ひょっとして恋してるからかな?」

 「恋?」

 「そうだよ。女子が急にお洒落し出したら、理由はそれしかないじゃん! 好きな人に可愛いって言われたい乙女心だよ!」

 「いや、私恋なんてしてな……」


 言いかけて、幸がまだ勘違いしていることに気付いた。

 彼女の中では、私が八代のことを好き、となっているのだ。


 「天の邪鬼だよね、悠ちゃんも。私にはバッチリわかっちゃうんだよ、女の勘ってやつでね!」

 自信満々にビシッ! と人差し指を向けてくる幸。

 その姿は、完全に探偵が犯人を言い当てた時の決めポーズだった。

 「あーはいはい。ふざけてないでさっさと学校行こ」

 「そんな冷たくあしらわないでよ~」

 呆れた声で応対した私に、ぎゃいぎゃいと抗議する幸。


 その声を背に受けながら、思案する。

 先ほどの幸の発言が、私の中で引っ掛かっていた。

 確かに今日は八代に会う。もしや私は、それが理由で髪を巻いたのか?

 ただの気まぐれじゃなくて?


 『好きな人に可愛いって言われたい乙女心だよ!』

 好きな人――いや。

 愚かしい考えを消すように、巻いた髪の毛先を、指先で弄くる。

 これはただの気まぐれだ。特に意味なんてない。


 仮に私が、八代に可愛いと思われたいのだとしても、別に彼を異性として意識してるわけじゃない。恋愛対象外の友達にだって、可愛く見られたいと思うのは、年頃の女子なら普通だ。事実、幸に褒められたのも、すごく嬉しかったし。


 断じて八代を意識して、髪型を変えたわけではない。

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