表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殺してくれてありがとう  作者: 絶対完結させるマン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/165

理想のタイプ

 「綺麗でしたね~!」


 講演が終わって外に出ると、マミがすかさず八代の隣に来て言う。


 「ああ」

 八代は素っ気ない返しをする。この温度差を感じていないのか、感じた上のことなのかはわからないが、マミは相変わらず明るく振る舞う。


 「あそこでひと休みしましょう!」

 そう言って彼女が指差したのは、小洒落た感じのカフェだった。

 プラネタリウムの後に、オシャレなところでお茶か。

 いいデートコースだと思う。第三者の私が挟まって台無しだが。


 マミはまた八代を引っ張るようにして、連れていく。

 私はまた気まずさを覚える。とてつもなくここにいたくない。


 弱気になりそうだったが、慌てて心を奮い立たせる。

 ちゃんとしなければ。八代とマミが仲良くなるのを防ぐために着いてきたのだから。

 私の行動が、最悪の結末を防ぐことになる。だから、こんなところでくじけるわけにはいかないのだ。

 



 「襟人さんは彼女とかいないんですか?」

 カフェで一息ついていたら、マミが直球な質問を投げて来た。

 「いない」

 「良かったです~。もしいたら彼女さんに悪いですもんね。こういうこと頼むの」


 というか恋人がいたら、いくら断りにくい理由をつけられても、マミの頼みを承諾しないだろう。


 「じゃあどんな人がタイプなんですか?」

 またもやそういう系統の疑問をぶつけるマミ。

 「タイプか……あんま考えたことなかったな」

 八代が腕を組んで軽く唸る。

 「私も気になるな」


 ずいぶん久しぶりに口を挟む。知らず知らずのうちにマミのペースに乗せられ、置物になりかけていた。

 気をつけないと。


 「若葉まで。そうだな……できるだけ正直で、優しいやつが好きだな」

 「性格を重視するんですねー」

 「正直か……」


 私は正直な人間とは言えないだろうな。だって色々隠し事を抱えたまま、八代や幸と接しているから。


 自嘲していると、「若葉はどうなんだ?」と訊かれる。

 「え?」

 「若葉のタイプも教えてくれよ」

 「私のタイプ……」


 恋愛を忌避しているので、そんなことは考えたこともなかった。

 一生誰とも付き合わないつもりなんだから、考えたところで無駄だろう。

 しかし敢えて理想を言わせてもらうとしたら――。


 「一途でずっと想い続けてくれる人」

 「……だいぶハードルが高いね」

 珍しくマミが、私の発言に感想を言う。「そんな人いるわけないじゃん」と呆れているのかもしれない。

 そういう人がいないことは、私もよくわかっているので、きっと恋愛など出来ないんだろう。


 それでいい、それが正しい。


 「わたしは、ピンチの時に助けてくれるような、勇敢で頼もしい人がいいです。襟人さんみたいに!」

 最後の部分を強調したマミは、実に可憐に頬を赤らめて笑う。


 「俺はそんな大したやつじゃないよ」

 「いいえ! 格好良くて素敵ですよ、襟人さんは」

 マミは、テーブルの上の八代の手を、自身の両手で包み込むように持つ。

 「今日会ってみて、改めて思いました。襟人さんならわたしのトラウマも、きっと払拭できるって」

 ギュッと手を握りながら、マミは真剣な顔で訴えかける。

 「だから……これからもよろしくお願いできますか?」


 迷子の子犬のような眼差しは、八代から肯定以外の言葉を封じた。

 それは私も同じことだった。


 プラネタリウムを出た時は、絶対にマミの攻撃を告げ口してやる。そしてもうマミと会う必要はない、と二人だけになった帰り道で八代に説き伏せる気満々でいたのに。


 もちろんマミは、元々の性格からして最悪なのだろう。しかし、トラウマという切羽詰まった事情が彼女を狂暴にしているのかもしれない……。

 その可能性について考えたら、私の怒りも萎れていってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ